認知症

「認知症かも」で様子見は危険?病院を早期受診すべき3つの理由

【認知症の専門家が解説】家族が認知症かもしれないと感じた場合、いつ病院で検査を受けさせるべきでしょうか。病院受診のタイミングは「様子見はせず早期に」が正解です。認知症も早期受診・早期発見が大切だという3つの理由について、わかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

家族が認知症かもしれない……病院受診をすすめるタイミングは?

親が認知症かもと思ったら

認知症ではないかと気になる親の言動……病院受診をすすめる時期の目安は?

筆者は大学の研究室で新しい認知症治療薬の探索研究に取り組む傍ら、時々市民講座などで、認知症に関する基礎知識をお話しさせていただくことがあります。そこで、現実的な問題として、よく受けるのが「どのような状態になったら病院に行けばよいのでしょうか」「認知症疑いの家族は病院の何科で診てもらえばよいのでしょうか」といったご質問です。

他の病気と同じように、認知症を生じる病気にかかった場合には、早期に診断を受けて適切な対応を早めに開始したほうがよいことは多くの方が頭ではわかっていると思います。
それでも「急にどうにかなるわけじゃないし、しばらく様子を見よう」などと考えて、病院受診を先延ばしにしてしまったり、いよいよ家族の様子がおかしいので病院に連れていこうと思った時には、本人が受診を拒んで苦労したりするケースは多いようです。

今回は、このような場合にどう対応するのがよいのか、アドバイスをお話ししたいと思います。
 

認知症疑いの場合、早期に病院受診すべき3つの理由

まず「どのような状態になったら病院に行けばよいのでしょうか」という受診のタイミングの目安についてのご質問に対しては、「できるだけ早く受診した方がいい」という答えになります。

認知症は、ある日突然重たい症状が現れて、生活が成り立たなくなるようなものではありません。日々の暮らしの中で徐々に脳の機能に変化が生じていきますが、なかなか気づかないくらいのスピードですし、最初のうちは今日明日対応しなくても生活は続けられているし……と考えてしまうと思います。
筆者自身も、実際にこの問題に直面したら、様子見をしようかと考えて、病院へ行くのを躊躇してしまうかもしれません。しかし、とにかく「できるだけ早く受診する」が正解です。

できるだけ早く受診したほういい理由は、主に3つあります。

第一に、認知症の原因となる病気は非常にたくさんあり、まれですが、「治せる認知症」もあるからです。たとえば、脳腫瘍が原因で認知症が現れているとき、あるいは「慢性硬膜下血腫」といって、脳出血した血の塊が脳を覆っている硬膜という部分の下に残っていて、それが脳を圧迫して認知症が現れている場合などは、手術などによってこれを取り除くことができれば、手術後に認知症がなくなることもあります。ビタミンB12などの栄養不足によって認知症が現れている場合も、その不足した栄養を補うことによって、症状が改善することがあります。

ただし、治せる認知症でも、放置しておくと、手遅れで治せなくなってしまうこともありますから、少しでも早く受診することが大切です。

第二に、現在使用されている、あるいは研究開発中の治療薬は、初期段階で使えば効果が期待できますが、症状がひどくなって使っても効かないものがほとんどです。認知症の原因としてもっとも多い「アルツハイマー病」は、進行性に脳の神経細胞が変性・脱落していく病気ですから、薬によって進行を遅くすることはできても、現在の技術では元に戻すことはできません。
つまり、症状がひどくなる前に治療を始め、それ以上症状が進行しないようにできるだけ抑えるというのが、現在の治療の基本であることを理解しておきましょう。

そしてもう一つ、非常に大切な第三の理由があります。それは、完全に発症してしまう前、つまりご本人と意思疎通ができるうちにきちんと話をしておいた方が、医師や家族などの周囲の人との信頼関係を築きやすいからです。

認知症の前段階、あるいは初期段階をどう過ごすかで、その後の生活の質を決めると言っても過言ではありません。そして、そのカギを握っているのが信頼関係です。自分がおかしいと気づいたときに、周囲がちゃんと耳を傾けてくれれば、心の安定が病気の進行を緩やかにしてくれます。
信頼関係は相互理解によって生まれますから、患者さんが自分のことを自覚できるうちに、周囲とよく話をすることが必要です。妄想や徘徊が起こるようになってからでは遅いのです。話が通じず、病院に行こうとしなくなる方もいますし、ウソをついて無理矢理病院に連れていくことができたとしても、だまされたと感じると、医師や家族に対する不信感がつのるだけです。こうした悪循環に陥らないためにも、早めの受診が欠かせません。

とくに高齢者のアルツハイマー型認知症の場合は、進行がゆっくりですから、少しおかしいなと思っても、「年のせい」「まだがんばれば大丈夫」「すぐにどうこうなるわけじゃないし」と放置してしまいがちですが、このときこそ、信頼関係を築く絶好のタイミングなのです。後回しにしないことをおすすめします。
 

認知症検査は何科を受診すればよいか…精神内科、精神神経科、老人科など

次に、いざ病院に行く場合はどの科で診てもらえばいいのか、というご質問についてですが、認知症は複雑ですから、専門医がいる病院で診てもらう必要があります。かかりつけの医師が決まっているなら、まずはその先生に相談してみましょう。その先生が認知症の専門でなければ、地域の専門医を紹介してくれるでしょう。

最近は、市町村に相談窓口が設けられているので、問い合わせてみるのもよいでしょう。

受診する科としては、精神内科、精神神経科、老人科などが適しています。しかし、認知症専門医が必ずいるとは限らないので、事前に調べてから受診しましょう。近年は、「物忘れ外来」という名称で、認知症専門の診療を行っている病院も増えていますので、近くの病院にあるかどうか、尋ねてみるといいでしょう。
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