『神は見返りを求める』岸井ゆきのインタビュー！ひたむきな底辺YouTuberから恩を仇で返す悪女に豹変…(3ページ目)

『神は見返りを求める』は自分に反射してくる映画

―完成した映画をご覧になった感想は？ いかがでしたか？ 
 
岸井
吉田監督の編集作業は速いので、撮影後、そんなに時間を置かずに初号の試写を見せていただいたんです。そのとき「これは愛の煮凝り映画だ！」と思いました。ゆりちゃんと田母神さんの楽しい日々もしんどい日々も全てがぎゅっと詰まっていて、二人の思い出を、吉田監督はこの映画に閉じ込めてくれたんだと感じました。監督の愛がいっぱい詰まっている映画だと思ったんです。でも、今回取材を受けるにあたり、改めて試写で見せていただいたら、最初とは違って見えました。
 
―どんな風に変わりましたか？
 
岸井
とてつもなくエグい映画だと思いました（笑）。最初に観たときは、映画が完成した喜びでいっぱいでしたけど、今回は、いろいろな登場人物に目がいきました。

特に、田母神さんとゆりちゃんの共通の知人である梅川（若葉竜也）の卑怯さとかは、本当に最悪です（笑）！。でもこういう人って現実に絶対にいますし「田母神さんも、ゆりちゃんも変！」と思いながらも「でも自分は大丈夫かな」と思ったりしました。この映画を観てくださる皆さんもきっと思いますよ。この映画は自分を映し出す鏡のような作品なので、自分に反射してくるんです。  

アルバイトしながら俳優の道へ

―岸井さんのキャリアについて、お伺いしたいのですが、芸能界入りのきっかけは？
 
岸井
知り合いのカメラマンの方の作品のために被写体をやっていたとき、その方が今の事務所を紹介してくれたんです。当時、将来について悩んでいたときだったので、俳優という道もあるんだと思い、所属することにしました。家族には事後承諾で、なんだか申し訳ないなと思ったのですが、反対されることはありませんでした。母がミュージカルや映画が大好きだったからかもしれません。 ―割とトントンと決まったのですね。
 
岸井
ただ最初から、すぐ仕事をいただけるわけではなく、カフェでアルバイトをしながら、小さな役をいただいて演じていました。最初は、映画やドラマに出演してもセリフのない役が多かったです。

でも、演劇の世界では、小さな役でもセリフがあり、演出も受けられるので、みんなでひとつの作品を作り上げていく喜びがありました。その後、小劇場の舞台に立っているうちに、プロデューサーの方や監督など、業界の方が観劇にいらして、セリフのある役のお仕事をくださるようになっていったのです。
 
―セリフのない役から、セリフのある役にステップアップして、どんどん活躍の場を広げていったのですね。素晴らしい！ 今後、俳優として考えていることはありますか？
 
岸井
映画が好きで、映画に救われてきたので、ずっとこの先も映画に出演していきたいと考えています。神奈川の実家にいたときも、東京で暮らすようになってからも、ずっと映画を観てきました。

劇場で観る時間がないときは、DVDをレンタルして、よく観ていましたね。当時は『コンスタンティン』『ジョー・ブラックをよろしく』など、ハリウッド大作を観ることが多かったのですが、いちばん、何度も観たのは、映画『ドラえもん』シリーズです。
 

この映画の登場人物はきっとどこかにいる

―では最後に『神は見返りを求める』を楽しみにしているファンの方にメッセージをお願いします。
 
岸井
本当に面白い作品で、笑って、泣けて、苦しい気持ちにもなると思います。そして、皆さんの周りにも、この映画の登場人物のような人たちが必ずいるはず。実際にどこかにいる人たちが集まって映画になっていると私は思っています。

「恩を仇で返したことなんてない」って人も、この映画を観たら「もしかして、自分も同じようなことしたかも」とひやっとするかもしれません（笑）。テンポがいいので観やすいですし、難しいことはなく、ここに描かれていることが全て！という作品です。ぜひ楽しんでいただきたいです。

※吉田恵輔監督の吉は、士の部分が土になります。
 

岸井ゆきの（きしい・ゆきの）のプロフィール

1992年、神奈川生まれ。2009年、女優デビュー。その後、ドラマ、映画、舞台と活躍の場を広げ、2018年映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』で主演を務め、第39回ヨコハマ映画祭・最優秀新人賞を受賞。2019年の主演映画『愛がなんだ』で第43回日本アカデミー賞・新人俳優賞を受賞。2022年は『やがて海へと続く』『大河への道』が公開。公開待機中の作品は『犬も食わねどチャーリーは笑う』（9月公開）『ケイコ、目を澄ませて』（2022年公開）。
 
スタイリスト：Babymix
ヘアメイク：村上綾
 
撮影（岸井ゆきのさん特写）＆取材・文／斎藤 香
 

『神は見返りを求める』作品DATA

2022年6月24日公開

監督・脚本：吉田恵輔
出演：ムロツヨシ、岸井ゆきの、若葉竜也、吉村界人、淡梨、栁俊太郎
 
【あらすじ】 イベント会社に勤める田母神尚樹（ムロツヨシ）は合コンでYouTuberのゆりちゃんこと川合優里（岸井ゆきの）と出会い、再生回数が伸びないことに悩むゆりちゃんを助けることに。再生回数は相変わらずだったけれど、ふたりは励まし合い、楽しい時間を過ごしていきます。

ところが、人気YouTuberと出会い、彼らの番組にゲスト出演したことがきっかけで、バズり始めたゆりちゃん。気鋭のデザイナーのサポートを受けて人気者になっていく彼女にとって、田母神は必要のない人物になり、ふたりの関係は豹変していく……。