撮影現場でのムロさんの意外な行動
―おふたり以外考えられない、ベストなキャスティングだったと思います! ムロさんは明るくて盛り上げ上手なイメージがありますが、共演された感想は?岸井
私も、ムロさんは撮影現場を盛り上げる方なのかなと思っていたのですが、この映画の現場では、スタジオの端の方にずっとひとりでいらっしゃいました。意外だったので、私、ムロさんに「ムロさんは、いつも静かに撮影が始まるのを待ってらっしゃるんですか?」と聞いたところ、この映画では、ムロさんなりの考えがあり、あえて静かに過ごしているようでした。今回は特別バージョンのムロツヨシさんだったみたいです(笑)。
―そうだったのですね。でも、お二人のお芝居は、あ・うんの呼吸というか、すごく相性の良さを感じました。
岸井
私は、ムロさんがどういう芝居で田母神さんを演じてくるのか、演じてみるまでわからなかったので、とにかくムロさんの演技に素直に反応していこうと決めて、脚本を読んだときの印象を大切に、あまり作らずに演じました。ムロさんとのお芝居で生まれた世界を吉田監督に撮ってもらったという感じですね。
笑いの絶えない撮影現場
―吉田監督の演出はいかがでしたか?岸井
毎日とても楽しかったです。吉田監督が撮影合間にずっと面白い話をしてくれるので、私は笑いっぱなしでした。どんなにシリアスなシーンの前でも、たくさん話して、たくさん笑って。ただ、いざ本番になると「じゃ、あとはよろしくね」と演出のポジションに戻っていく。私は「これは試されているのかな」と思いました。
―試されているとは?
岸井
撮影前に楽しく笑って和やかな気持ちになってしまうので、本番でゆりちゃんになるのが大変だったんです。でももしかしたら、これも吉田監督の「役を作り込んで来ないで」というメッセージなのかなと思いました。
―なるほど。本番での瞬発力や作り込まない自然なお芝居を求めていらしたのかもしれませんね。とはいえ、演じる役について考えていらっしゃると思うのですが、岸井さんはゆりちゃんという女性をどう捉えていましたか?
岸井
映画の前半、ゆりちゃんはYouTuberとしてなかなかブレイクできず、やりたいことはあるけど難しいとモヤモヤしているんです。そんなときに田母神さんが現れて、いろいろなことを助けてくれるのでうれしくて「“神”様みたい」って思ったんだろうなと。最初はそんな風に考えていました。 ―でも後半は、田母神さんへの態度がガラリと変わっていきますね。
岸井
田母神さんと撮影していた日々が楽しかったことは本当ですし、感謝もしていますけど、ゆりちゃんはYouTuberとして成功したいという野心があり、そのために必要なのは田母神さんじゃなかった……。だから恩を仇で返す女に変貌していったのかもしれません。
でも、ゆりちゃんも葛藤していましたし「こんなはずじゃなかった」って思っていたはずです。田母神さんのことも「嫌いだけど嫌いじゃない」みたいな複雑な感情が心の中で渦巻いて、そんな気持ちが怒りに変わってしまったんだと思います。
そんな風に心が揺れ動いている中でも、私は、ゆりちゃんが何かを犠牲にしてでも絶対に欲しいものがあったという強い気持ちは、わかってあげたいと思いました。
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