脳科学・脳の健康

fMRIとは…脳の形態と機能が同時にわかる脳画像検査法

【脳科学者が解説】fMRIは、もっとも進歩した脳画像検査法です。静止した組織の形を観察できるだけのMRIとは違い、脳の活動状態を知ることができます。パルスオキシメーターと同じく「BOLD効果」というものを利用し、SPMというソフトを使って解析します。fMRIとは何なのか、その原理と、これによってわかることをわかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

fMRIとは……静止画のみのMRIと違い、脳の活動状態までわかる画像技術

fMRIとは・機能的MRIとは

脳の活動状態を見ることができるfMRI(functional MRI)。脳の病気の診断だけでなく、健康な人の脳のはたらきまで知ることができます

脳の中がどうなっているのか知りたいときに、いちいち手術をして頭蓋骨の中を見るのはたいへんです。そのために最近は、体を傷つけずに中の様子を知ることができる方法が開発されています。

これまでに開発された脳画像検査技術のうち、MRI(Magnetic Resonance Imaging、磁気共鳴画像法)は、CT(Computed Tomography、コンピューター断層撮影)と並び、もっともよく使われるものですが、基本的には、静止した組織の形を観察できるだけでした。ところが近年、MRIを用いて、脳の活動状態を知ることができるようになりました。その技術は、機能的MRI(functional MRI, fMRI)と呼ばれています。

fMRIは、脳の病気の診断だけではなく、健康な人が何かをしているときに脳のどこを使っているかといった基礎的な脳研究にも利用されています。脳画像検査の中でもっとも進歩した手法の一つと評されるfMRIとは何なのか。その原理と、この技術を使うことで何が分かるのかについてわかりやすく解説します。
 

fMRIの技術……放射線を使うCTなどより安全で、MRIでは不可能だったことも可能に

MRIは、すごく簡潔に述べてしまうと、電磁波をあてたときの原子の挙動の違いを手がかりにして、体内の臓器の形を描出できるという技術です。「脳の中を透かして見る技術…CTとMRIの違いは?」や「SPECT、PETとは…血流変化もわかる脳画像検査法・そのメリット・デメリット」でも詳しく解説しましたが、CTではX線を体にあて、SPECTやPETでは体内に放射性同位体を注射しますので、安全な範囲で実施すると言われても、やはり心配ですよね。放射線を使わないMRIは、その心配がありません。しかも、MRIでは、造影剤を使わなくても、脳の中の血管を観察することもできます。検査に多少時間はかかりますが、最近は技術の進歩が著しく、検査時間もあまり気にならなくなっています。あとは、静止画像だけではなく、動きまで見られたら、言うことがありませんね。

脳の働きを見る最も直接的な方法は、神経細胞の電気信号を検出することです。実験的には、頭蓋骨に小さな穴をあけて脳の中に細い金属の針を刺し入れて脳組織に直接あてると、一つ一つの神経細胞が発生する電気信号をとらえることができます。しかし、単一の神経細胞が発生する電気信号はとても微弱なので、離れた頭の外からは検出できません。たくさんの円盤状の電極を頭皮上に配置して、検出された信号を増幅器にかけ波形として記録する「脳波検査」(electroencephalography:EEG)は、膨大な数の神経細胞が同期して発生する電気信号の総和をかろうじて検出するものですので、脳のどこで神経細胞が活動しているかを正確に把握することはできません。MRIでも、脳内の個々の神経細胞が発生する微弱な電気信号をとらえることは不可能です。

放射線を使わず、電気信号をとらえるわけでもないのに、MRIで脳の機能変化を見られるようになったのは、Blood Oxygenation Level Dependent(BOLD)効果と呼ばれる現象が発見されたからです。
 

BOLD効果とは……パルスオキシメーターと同じ仕組みで血流変化を見る

酸素カプセルで記憶力はあがるのか?健康効果の真偽」で解説したように、私たちの体中を流れる血液中の赤血球は、「ヘモグロビン」という特別なタンパク質をもっています。ヘモグロビン分子中には鉄が入っており、その鉄イオンが酸素を結合するので、赤血球はこのヘモグロビンを使って酸素を運ぶことができるのです。新型コロナ感染症の対策として普及してきた「パルスオキシメーター」は、酸素を結合していないヘモグロビン(脱酸素化ヘモグロビン)と酸素を結合したヘモグロビン(酸素化ヘモグロビン)で光の吸収の仕方が違うことを利用して、動脈血中にある赤血球のヘモグロビンがどれくらいの割合で酸素を結合しているかを計測します。もし、酸素化ヘモグロビンの割合が減少していたら、体が酸欠状態にあり危険であると判断するのです。

このパルスオキメーターで注目されている「ヘモグロビンの酸素化の程度」は、MRIで血流変化を知る手がかりとしても使えることが分かったのです。

酸素を結合していないヘモグロビンの中心にある鉄原子は2価の陽イオンになっているので、常磁性体(小さな磁石のようなもの)に相当します。なので、その周辺に磁場の乱れを生じ、局所的なMRI信号の減少をもたらします。つまり、脱酸素化ヘモグロビンが、もともと体の中にあった「造影剤」のような役目をして、その分布変化がMRI画像上で「見える」のです。

一方、酸素を結合したヘモグロビンには、そのような効果はありません。血流が多い場所では、新鮮な血液が供給されているため、脱酸素化ヘモグロビンの割合が少なく、酸素化ヘモグロビンが多いので、MRI信号強度は上昇します。酸素化ヘモグロビンの割合が増えて、MRI信号強度が上昇した場所では、血流が増えていると考えていいということです。

これが、「血液の酸素レベルがMRI信号に与える影響」=「BOLD効果」というわけです。
 

fMRIの実際の測定手順・SPMを使った解析・比較の方法

脳組織の形態と機能変化を同時に見ることができるMRIならすべて、fMRIと呼んでもいいのですが、今のところ実質的にそれが可能なのは、BOLD効果を利用した「BOLD fMRI」だけです。

BOLD fMRIは、放射線や造影剤を使いませんから、短時間内に同じ人で何度も繰り返し測定することが可能です。なので、たとえば、1人の被験者が何もしていない平常時の脳のMRI測定を受けた後に続けて、何か決まった課題を遂行しながら同様に脳のMRI測定を受け、さらにこのセットを何度も繰り返して得られたデータをまとめて比較するということができます。

ただし、いくつかの制約があります。繰り返し測定中に頭の位置が絶対に動かないようにする必要があります。ずれてしまったら、別の機会に測定された画像どうしの関係が不明になるからです。もちろん、後で画像をつじつまが合うように揃え直すこともできなくはありませんが、できるだけ動かないことが原則なので、寝た状態で頭はパットや帯で枕に固定されます。その状態でずっといるのはつらいので、全体の測定時間は20分以内に済ませるのが普通です。予めどのように進めるかを綿密に計画し、効率よくデータを集めなければなりません。

信号には、たくさんのノイズが含まれているので、生のデータだけでは何もわかりません。ノイズに隠れた本質的な現象を見つけるために、得られたデータをどのように解析するかが、結論を左右する大きなカギを握っています。一般にSPM(Statistical Parametric Mapping)と呼ばれるソフトを使って、通常のMRIと同じ脳の断面画像にBOLD信号を重ね合わせたり、フィルタを適用して感度を上げたり、多数の被験者から得られたデータをまとめたり、有意な活動部位の統計的検出などが行われます。
 

fMRIの価値を左右する大切なこと

ここまでの説明で、BOLD fMRIを使えば脳の機能変化を見ることができるとみなさんはあっさり納得したかもしれませんが、ちょっとお待ちください。実は、この理論を支えている大きな条件があることを知っておく必要があります。

第一に、BOLD fMRIで測定された信号の変化が脳の血流や酸素化の程度を反映していたとしても、それだけでは何の意味もありません。脳の働きを最終的に決めているのは神経細胞ですから、そのとき神経活動がどうなっているかが重要ですね。

一般的には、「酸素化ヘモグロビンの割合」と「神経細胞の活動度」には密接な関係があると信じられています。しかし、必ずしもそうとは限らないことも知られ、脳科学の分野では大問題になっています。「脳の中で神経が活動している様子を画像化したもの」と説明されると分かりやすいですし、疑似カラー表示された図はインパクトがありますので、様々な分野でもてはやされる傾向にありますが、その結果が何を意味しているのかは慎重に判断しないと、もはや科学とは言えないトンデモナイ解釈を生み出す恐れがあります。この問題点については、別記事で詳しく解説したいと思います。

第二に、大脳の機能局在がなければ、測定された信号の変化を画像化することに何の意味もないということです。たとえば、私たちの脳が与えられた課題を処理しようとするときに、特に空間的に区分されていない広い範囲の脳の違う場所で、たくさんの神経細胞がそれぞれ活動していて、最終的にそれがネットワークを組んで働いているのだとすれば、そのような離れた場所での神経どうしのつながりは、fMRIでは検出できないでしょう。逆に言えば、fMRIで画像化されたデータが特定の脳機能と関係があると推定できるのは、脳の決まった場所に同じ機能を担う神経細胞がたくさん集合しているから……つまり大脳の機能局在があるからこそなのです。

近年の脳科学では、fMRIの技術によって、大脳の機能局在がより詳しく解明されたと評されることが多いですが、実際は逆です。「失語症研究がきっかけに…大脳の「機能局在論」とは何か」や「ホムンクルスとは?大脳皮質のマッピングで現れる脳の中の小人」で紹介したような先人たちの努力によって機能局在論がある程度認められるようになったおかげで、fMRIが脳の機能解析に役立てることができているのです。

2つの条件のどちらかでも欠ければ、fMRIの存在意義はないということをよく知っておいてほしいと思います。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※当サイトにおける医師・医療従事者等による情報の提供は、診断・治療行為ではありません。診断・治療を必要とする方は、適切な医療機関での受診をおすすめいたします。記事内容は執筆者個人の見解によるものであり、全ての方への有効性を保証するものではありません。当サイトで提供する情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、各ガイド、その他当社と契約した情報提供者は一切の責任を負いかねます。
免責事項

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます