採用における「学歴フィルター」は合理的
大学受験で志望校選びは最も重要なポイントですが、入学した後や卒業後のことまで考えて学校を選ぶ人はあまり多くありません。しかし、有名な大学や偏差値の高い大学へ入ることは手段のひとつでしかなく、決して人生のゴールではありません。
先日、ある就活支援サイトから就活生に向けて「大東亜以下9(9は丸数字)」と題されたメールが送信されたことで、これは「学歴フィルターではないか」と物議を醸しました。 「大東亜」すなわち「大東亜帝国」とは、大東文化大学、東海大学、亜細亜大学、帝京大学、国士舘大学のことを指し、早慶などに代表されるような大学群の呼び名のひとつです。
これが単なるグループ分けにとどまらないのは、「以下」とある以上、「以上」があるのではないかという憶測を呼んだためです。学歴の違いによって何か扱いが異なる、つまり「学歴フィルターが存在する」ということで議論を呼びました。
先に紹介した就活支援サイトで、実際に学歴フィルターが使われていたかどうかまではわかりません。しかし、一般に学歴フィルターが存在するのか否かといわれれば、「ある」というのが本当でしょう。
企業によってはエントリーシート(書類審査)の時点で、何千もの応募があるのですから、これら全てに目を通すわけにはいかないため学歴で区切るのはそれだけ合理的ともいえます。
特にいわゆる理系と呼ばれる業種では、学歴、特に出身学部が問われることが少なくありません。これは、電気やガスといった専門分野に関する知識があるか、実験器具や機械、装置類を扱った経験があるかといったことが問われるからです。その他でも、学歴を問わないという業種もあれば、何らかの形で学歴が影響する業種もあるでしょう。
大卒でも3人に1人しか大企業に就職できない?
多くの人が中小企業よりは大企業、大企業でも有名企業に就職したいと思うのは自然です。そのためにも就活に有利な大学は魅力的ですが、しかしそもそも大学を出たからといって、大企業に就職できるものなのでしょうか。「経済センサス活動調査」(平成28年 総務省統計)によると、我が国の企業等の全従業員約5687万人のうち、従業員100人以上の事業所の従業員数は約1612万人(28.3%)、従業員99人以下の事業所の従業員数は約4075万人(71.7%)となっています。
それでは、大卒・短大卒でいったいどれくらいの人が大企業に入れるかを考えてみましょう(厳密には業種によって中小企業の定義は異なりますが、ここでは従業員100名以上の事業所を大企業と考えます)。2021年3月の高校卒業者は約101.2万人、そのうち大学・短大へ進学した人は約58.0万人となっています。約101.2万人のうち(大学・短大等を経て)28.3%が大企業へ就職できると仮定すると、その数は約28.6万人となります。そうすると、単純に約29.4万人が大企業に就職できないことになります。
もっとも、実際には高卒・専門学校卒で大企業に就職する人もいるため、必ずしもこの通りとはなりません。ここで、高校卒業者約101.2万人のうち、仮に大学や短大へ進学しなかった約43.2万人の1~3割程度が(専門学校等を経て最終的に)大企業へ就職するとします。その数は少なく見積もって約4万人、多く見積もると10万人以上にのぼります。
そうすると、大卒・短大卒約58万人のうち大企業に就職できる人は、多くても約24.6万人(42.4%)、少ないと約18.6万人(32.1%)しかいないことになります。少なく見積もった場合、大卒で大企業に就職できる割合は32.1%ですから、約3人に1人しか大企業に就職できないことになります。企業が学歴フィルターに頼るのもわかる気がします。 こうしたことは有効求人倍率の違いにも表れています。有効求人倍率とは、1人の就職希望者に対して何人の求人があるかを示した値で、1を超えると1人に対して求人が1社以上あることを意味します。
<従業員規模別の有効求人倍率>
・5000人以上……0.41倍
・1000~4999人……0.89倍
・300~999人……0.98倍
・300人未満……5.28倍
(2022年3月大学卒業生「リクルートワークス研究所」調べ)
総じて企業規模が小さくなるほど有効求人倍率が高くなる傾向にあります。これは規模が大きい企業ほど、学生に好まれる傾向の現れともいえます。確かに大学生にしてみれば、「せっかく大学まで行ったんだから、それなりの企業に就職したい」と思うのは普通です。しかし、そもそも大企業といえども、大卒全員を受け入れるだけの就職口を用意することはできないのです。
以上から、大卒だから大企業、ましてや大卒だから有名企業に就職できるというのはそれほど簡単な話ではないことがわかります。そして、企業の側に立ってみれば、同じ大卒ならいわゆる受験偏差値の高い大学から学生を採った方が優秀な学生を集めやすいと考えるのはごく自然です。こう考えると学歴フィルターは今後もなくならないと考えるのが妥当でしょう。
新常識? 学歴フィルター“不要”で勝負するための大学志望校選びを
では、学歴フィルターに対抗する手段はないのでしょうか。もちろん、アルバイトやインターンとして裏技のように企業に潜り込んで、就活で有利な情報やノウハウを手に入れる方法もあります。あるいは、学歴フィルターにひっかからない高学歴を手に入れるという方法もあります。しかし、そもそも「大卒=大企業」という幻想を捨てることもひとつの対策になると考えられます。大卒でも積極的に中小企業に目を向けることです。中小企業の多くは地元に根差した事業を続けており、従業員の数が多くないことから経営陣との意思疎通も容易です。ノウハウの面や組織経営の面でも、中小企業はまだまだ成長の余地があるかもしれません。
大企業だから必ずしも安泰とはいえないこのご時世、中小企業に入社して会社を支えるくらいの気概があってもいいでしょう。もちろん、起業するというのもひとつの手です。 そのためにも大学進学の時点で、即戦力の社会人として役立つのに必要なスキルを身につけることができる大学・学部選びが重要です。
例えば、最近では「データサイエンス」が注目されています。このため、心理学部や情報学部などで統計学を学んだ人(データを収集して分析をする経験を積んだ人)は、企業でも「数字に強い人」として重宝される可能性が高くなります。
同様に理系の学生が就職に強いのも、大学で学んだ機械や電気、化学など専門分野の知識や技能が企業で活かせるからです。
このように大学の志望校は、入った後、そして社会人になってからも役立つことが学べる学部・学科であるかということを心がけて選ぶことがこれからの時代より必要になるのではないでしょうか。
【参考情報】
平成28年「経済センサス活動調査」(総務省統計)
令和3年度「学校基本調査」(文部科学省)
大卒求人倍率調査(2022年卒)リクルートワークス研究所