2021年11月19日、政府は新たな経済対策で18歳以下を対象にした10万円の給付を決めた。これに対して「どんなに働いても暮らしが楽にはならない」とため息をつく人たちもいる。
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会社を辞めてから苦しいことばかり

「田舎から上京してきて大学を卒業、一度は大手企業に就職したんです。ところが人間関係でつまずいて4年ほどで退職。それからはずっと非正規で働いています」

そう言うのはノリコさん(38歳)だ。26歳で退職したあと、週1度、心療内科に通いながらひとり暮らしのアパートにひきこもった。

「心身ともに疲弊してしまって……。このままでは社会に戻れないと思いました。ただ、心療内科の担当医師がいい人で、少しずつ痛手が癒えていったんです。それでもなかなか仕事を探す気力がわいてきませんでした」

仕事を辞めざるを得なかったノリコさんを、経済的に援助してくれていた父親が2年後に亡くなった。待っていたように実家に入りこんだのはノリコさんの兄夫婦だ。兄は6歳年上で、当時すでに結婚していたが生活が苦しかったようで、家賃を払わなくてもすむとばかりに実家に一家で越してきてしまったのだという。

「母には気をつけたほうがいいと言いましたが、案の定、母は兄嫁にいびられ、自分の家なのに6畳の一部屋を与えられただけ。実家は兄夫婦に乗っ取られたようなもので、母は今も『さっさと家を売って、そのお金で老人ホームにでも入ればよかった』というほど。当然のことながら、私が実家に入る余地などありません」

父からの遺産ということで、100万円が振り込まれた。遺産がどのくらいあったのかノリコさんは知らない。

その後、このままだと本当に食べていかれなくなると思った彼女は30歳の時、ようやく非正規の仕事にありついた。そして今も非正規で働いている。
 

手取り16万で暮らす

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駅から徒歩15分、1Kのアパートに暮らすノリコさん。家賃は6万5000円だ。彼女の手取りは16万円。使えるお金は実質10万にも満たない。そこから光熱費、携帯代などが出ていくと貯金もろくにできない。

「正社員を目指しても、なかなか門戸が開かれない。30代になると求められていないことに気づきました。かといって生活のための結婚もできない。兄には『みっともないから戻ってくるなよ』と言われました」

そこへもってきて、今回の18歳以下を対象とした10万円の給付金問題。苦しい思いをしている大学生も対象外だし、ノリコさんのような“ワーキングプア”も対象からはずれてしまう。

「収入を増やすために夜、コンビニでアルバイトをしたこともあるんですが、あっけなく体調を崩して2カ月で挫折。昼間、フルタイムで仕事をしているのでダブルワークは体がもたなかった。

がんばってもがんばっても収入は増えない。転職をもくろんだが、仕事を休んで職探しに出かけるわけにもいかない。知人に紹介してもらって面接を受けた会社もあるが、最終的に『うちも企業としての体力がないので、非正規なら』と言われてしまいました。同じ非正規なら慣れたところのほうがいいと思って転職はしませんでした」

今、10万円をもらってもそれで生活を立て直せるわけではない。本当に困っている人に支援が届かないことが問題なのだ。

最近、炊き出しに並んだというノリコさん。一食分でも浮けば助かる。そういう思いをしている人がどれだけいるのか、国は把握しているのかと彼女は切々と語った。

「いっそ結婚すれば楽になれるかもしれないと思いますが、生活のために結婚するのも相手に失礼だし、そもそもどこへ行けば出会いがあるのかもわからない。闇の中を手探りで歩いている感じがずっとしています」

彼女が非正規で働いているのは、「多様な働き方」を求めた結果ではない。そこでしか働けないからだ。そしてやる気があっても、なかなか正社員として受け入れてくれる場がないからだ。

「世間から見れば、それは自己責任ということになるのかもしれません。ときどき、私は社会にとって“いらない人間”なんだなあと苦しくなることがあります。それでも生きていくしかないんですよね……」

自分の何がいけなかったのか。そう考えると、すべてがダメだと思えてきて、深く呼吸ができないような気持ちになる。

「それでもまだ正社員への道は模索したいとかすかな希望を持っています。希望がなくなったとき、たぶん生きる気力も完全になくなると思うから」
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