ほかに収入があると老齢年金はどうなってしまうの?
現在、老齢年金は生年月日や性別などに応じて決められた年齢(60歳~65歳)になると受けることができるようになります。一方、70歳定年時代を見据え、年金受給の年齢になっても勤務を続けている人も大勢いらっしゃいます。働いて収入がある場合に年金がどうなってしまうのか、まずは原則を見ていきましょう。
厚生年金に加入している人が、年金と給与を得ている場合、両者の金額によって年金の受給額が調整されます。ここでは「調整」と言っていますが、これは年金の減額、カットに他なりません。この制度を「在職老齢年金」と呼びます。
収入があると年金は減額される?
在職老齢年金の計算方法は?
どのくらい減額になるのかを計算する方法を見ていきましょう。まず、以下の3つの金額を合計します(合計額をAとします)。
- 厚生年金の1/12
- 給与月額(総支給額)
- 過去1年分のボーナス合計の1/12
次に、上で出した合計Aから、基準額を差し引きます。基準額は47万円です。以前は65歳前と65歳以後では基準額が異なりましたが、2022年(令和4年)4月から年齢にかかわらずこの金額となりました。
合計額Aが47万円より少なければ、年金は給与によってカットされることはありません。Aが47万円を超えている場合は、Aから47万円を差し引いた残りの半額が、年金から減額される月額となります。なお、高年齢雇用継続給付を受ける場合の年金額調整は別途計算されます。
具体例でざっくりとみてみましょう。
厚生年金年額120万円(=月額10万円)
給与月額20万円
過去1年ボーナス30万円×2=60万円(=12で割ると月額5万円)
10万円+20万円+5万円=35万円(A)
基準額は47万円ですから、35万円(A)の方が少ないので、給与によるカットはありません(高年齢雇用継続給付を受ける場合の調整は別途行われます)。
では、上記の例で、給与月額が41万円だったらどうでしょうか。
10万円+41万円+5万円=56万円(A)
56万円(A)-基準額47万円=9万円
9万円÷2=4万5000円……この額が月当たりの年金カット額になります。
したがって受け取れる年金額は、10万円-4万5000円=5万5000円(月額)となります。
計算するときに使う金額とは?
以上が計算方法なのですが、「年金とは」「給与とは」「ボーナスとは」というところを少し掘り下げて解説します。在職老齢年金の計算において、「年金」は、厚生年金部分を指します。具体的には原則として以下の通りです。
- 65歳前:老齢厚生年金(特別支給の老齢厚生年金を含む、加給年金額を除く)
- 65歳以降:老齢厚生年金(加給年金額および経過的加算を除く)
つまり、ひと口に「年金」といっても、加給年金や老齢基礎年金などは計算に入れないということになります。
そして、実際に減額の対象となるのも老齢厚生年金部分(経過的加算を除く)だけです。老齢基礎年金は減額対象にはなりません。加給年金は原則として減額の対象になりませんが、計算の結果、減額対象となる老齢厚生年金が全額カットになる場合は、加給年金も土台を失って受給できなくなります。
「給与」は、毎月の給与実額ではなく、「標準報酬月額」を使います。「標準報酬月額」とは、国が勤務先から提出された届に従って管理している給与の額のことで、原則的な決め方は、毎年4月、5月、6月に実際にもらった給与の総支給額の平均を等級表に当てはめて算出します。一度決まった額は、原則として9月から翌年8月まで同じ額が使われます。
「ボーナス」は、過去1年間に受けたボーナスが対象です。カット額を計算する月を含んで過去12カ月ですので、例えば9月分を計算するときは、前年10月からこの9月まで、となります。
働きながら年金をもらうと、必ず減らされるの?
上で解説した通り、条件次第では減らされない場合もあります。どのような場合に減らされないかというと、- 年金+給与+ボーナスが基準額以下となる給与で勤務する
- 厚生年金に加入せずに働く
1.については、上で見てきた方法で計算されるので、給与を抑えれば年金を全額受給することも可能です。
2.については、厚生年金に加入せずに働いている場合は、収入の額にかかわらず年金が収入との調整で減額されることはありません。具体的には以下のような勤務が考えられます。
- 厚生年金に加入していない事業所で働く
- 厚生年金に加入しない勤務形態で働く
- 給与という形態をとらず働く
厚生年金に加入していない事業所とは?
会社など法人形態の事業所の場合は厚生年金に加入が義務付けられています。厚生年金に加入していない事業所は、農林漁業や接客娯楽業などで、なおかつ従業員が5人未満の個人事業である事業所に限られます。厚生年金に加入しない勤務形態は?
厚生年金に加入している事業所の場合、以下の条件に当てはまる人は、厚生年金に加入することになります。- 労働時間数、労働日数の両方が、常時雇用者の3/4以上であること
事業所の厚生年金被保険者数が常時501人以上※の事業所と、国・地方公共団体の事業所の場合は、さらに以下の条件が追加になります。
※501人未満であっても労使の合意があれば厚生年金に加入可。
- 週の労働時間数が20時間以上であること
- 給与の月額が8万8000円以上であること
- 1年以上の雇用が見込まれること
- 学生でないこと
裏を返せば、この条件に当てはまらないように働けば、厚生年金には加入しないことになります。一般的に多いのは週20時間未満の労働時間に抑えるという働き方でしょうか。厚生年金に加入しなければ給与の金額にかかわらず年金を全額受けることができます。
なお、上記はあくまで短時間労働者(パート、アルバイトなど)の場合です。役員などは上記の厚生年金加入の条件を満たさない勤務時間であっても厚生年金加入とされるケースが多いのでご注意ください。
フリーランスや業務委託として働くと?
会社に雇用されて働き、給与を得るほかにも、フリーランスや業務委託などとして会社と契約を結び、報酬を得るという働き方も考えられます。この場合、個人事業主として働くことになるので厚生年金には加入しません。したがって収入の金額にかかわらず年金は全額受け取ることができます。ただし、雇用されているわけではないので、有給休暇や解雇の制限、残業などの労働基準法による保護を受けることはできなくなります。
なお、これ以外にも個人事業主として起業したり、農業や不動産収入で生計を立てる場合なども厚生年金には加入しないので、その収入によって年金が在職老齢年金制度で調整されることはありません。
損をしない働き方ってあるの?
ここまで見てきたものが在職老齢年金制度の原則になります。厚生年金に加入して働く場合、年金は上で見てきた方法で調整されるので、給与を抑えれば年金を全額受給することも可能ではあります。ただし、基準額オーバー分の半額がカット、ということは、最大でも給与を減らした分の半額しか年金は増えない計算になるため、給与を抑えるのが果たして正解か、というとそこは考えものです。年金は増えてもトータル収入は減額となる場合が多く、また業務の内容と給与のバランスが合っていないと働くモチベーションにも影響するでしょう。
特に比較的大きな会社に勤務しつつ、厚生年金に加入しない場合は週に20時間までしか働けないので、あまり多くの給与を得ることは難しそうです。
年金がカットされないことを最優先に考えれば、それに対応した働き方で働けばよいのですが、そのために勤務を少なくした結果、トータル収入が減少しかえって生活が苦しくなっては本末転倒です。損得も重要ですが、ここはより生活を豊かにするためにはどのような働き方がよいのか、という視点で考えてみるのもよいのではないでしょうか。
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