自宅療養中や搬送中の急変も……新型コロナウイルスの怖い性質
酸素不足は命に直結するため、普通は息苦しさや恐怖感が起こります。低酸素状態になっても自覚症状がないハッピーハイポキシアとは?
- 感染力が強いこと
- 無症状の時期から感染力を持つこと
- 症状の急変があること
特に我々医療従事者が医療現場でも驚かされるのは、予測が難しい「症状の急変」が見られることです。
自宅療養中や搬送中の急変や死亡例が報じられていますが、専門のコロナ病床でも急変は見られます。コロナ病床で治療を受け、症状が落ち着いたので明日には一般病床に移動できるだろうと考えられていた患者さんが、その日に急変して亡くなってしまうといったケースがあるのも事実です。
症状が急激に悪化する原因として、当初は免疫の暴走が起こり体中に血栓ができる可能性が考えられていましたが、すべてのケースに当てはまるものではなく、まだはっきりしていません。また、炎症が遷延することで肺や組織が器質化してしまい、後遺症が残ることも課題です。
急変が起こるメカニズムが解明され、新型コロナやその後遺症の治療法が確立されていくのはまだこれからですが、現時点では、突然に症状が悪化して亡くなるケースがあることをまずは念頭に、医療者も患者さんもこの疾患に対応しておくことが大事だと思います。
ハッピーハイポキシアとは……自覚症状の少ない低酸素症
これらの急変とあわせてたびたび報じられているのが「ハッピーハイポキシア」というものです。聞き慣れない言葉だと思いますが、ハイポキシアは、英語では「Hypoxia」と書きます。Hypoは、少ない、低いという意味、Oxiaは酸素症ということですから、「低酸素症」、すなわち、ハイポキシアとは体内の酸素が少ない状態といえるでしょう。私たちの身体が機能するためには、酸素が必要です。酸素不足は命に直結します。そのため体の酸素が不足すると、通常は息苦しさや恐怖感などの極めて不快な自覚症状が引き起こされます。
子どもの頃、お風呂やプールで息を止めてどこまでがまんできるか競争をしたことはありませんか? 途中から息苦しくなって、もう、なんとかしたい! もうだめ……となんとも言えない感覚が襲ってきて、水面に顔を出して、ぷはーっ!と大きく息をした時、一気に解放されるような感覚を覚えた経験は、多くの人にあるのではないかと思います。この水に潜って息を止めているときのような苦しさや不安な感覚は、低酸素が起こり始めると通常誰もが感じるものです。
しかし新型コロナウイルス感染症による肺炎が進展した場合、低酸素症、つまりハイポキシアが起こり、SpO2も下がっているにも関わらず、あまり息苦しそうな症状が見られないまま重症化し、命に関わる状態に至ったというケースが、国内外の症状からしばしば確認できます。この自覚症状の少ない低酸素症が「ハッピーハイポキシア」と呼ばれているものです。正式な医学用語ではなく、現状では、まだこのメカニズムも十分に解明されていません。
自宅療養中にチェックすべき点は? 低酸素状態の前兆・注意点
深刻な低酸素状態になった場合、ハッピーハイポキシアの状態では、実際の症状に見合うだけの自覚があまりなかったとしても、やはり完全にいつも通りの体調というわけではありません。普通に食事ができていて、家族から見てもいつもと変わりなく生活できているように見えるのであれば、「普通にしているが、実は低酸素なのでは……」と、過剰に心配しすぎることはないと思います。
食事がきちんと食べられなくなった、飲み物を受け付けなくなった、尿量が極端に減った、意識レベルが落ちた、といったことが見られれば、会話などで意思疎通ができていたとしても要注意です。その他の症状として、肺炎の悪化による咳、痰、発熱の遷延、SpO2の経時的な悪化などをチェックしておくことも重要だとお思います。
新型コロナウイルス感染症の自宅療養中の急変は、地域によっては救急車を呼んでも搬送先がなかなか見つからず入院までに相当な時間がかかるといった深刻な状況も見られます。とはいえ、周りで看病されている方が、これはやはりいつもと違うという異変を感じた場合は、事前に渡されている連絡先に躊躇せずに連絡し、指示を仰ぐべきでしょう。急な症状変化に注意しながら、様子を見ていくことが大切です。