「予防接種の後に接種部位を揉む」のは危険?
予防接種など注射を受けた後は揉むべきか、揉んではいけないのか、迷う方もいるようです
昔は注射の後で接種部位を揉むよう言われた記憶があるという人もいるかもしれません。また、現在でも、予防接種以外の注射では、薬剤によって注射部位をもむ方が良いものもあります。しかし、予防接種の場合は筋肉注射でも皮下注射でも、揉まないようにと言われています。
なぜ注射では接種部位を揉む場合と揉まない場合があるのでしょうか? その理由と、それぞれのメリット・デメリットを解説します。
コロナワクチンもインフルエンザ予防接種後も「揉んではいけない」
以前はワクチン接種後に揉むと、副反応も出るが免疫効果も期待できるといった報告があったのですが、その後の調査では否定的になりました。免疫獲得効果は揉んでも揉まなくても差がないことが分かったため、揉むことには皮下出血を起こすリスクがあるというデメリットだけが残ってしまったからです。
『予防接種に関するQ&A集2020』(一般社団法人日本ワクチン産業協会)でも、「以前は接種後に接種部位を揉んでいましたが、免疫獲得への影響に差がないこと、強く揉むと皮下出血をきたすことがあることから、近年はあまり推奨されていません。軽く圧迫する程度にとどめておけばよいとされています」と記載されています。
ワクチン接種で注射後に揉むことはありません。
注射の前後に揉む薬剤は? 揉むメリットとエビデンスの有無
一方で、予防注射以外の筋肉注射では、接種部位を揉むことがあります。その場合の効果としては、次の3つが挙げられます。- 薬液の吸収を促す効果……アドレナリンによる筋肉注射は、なるべく早期に薬剤を吸収させる必要があります。吸収がスムーズな静脈注射では副作用が出やすくなる薬剤の場合、筋肉注射をし、吸収を促すために注射後に揉むことが勧められています
- 痛みを軽減させる効果……これは注射「前」に行うマッサージです。注射直前に注射部位を1分間マッサージすると、筋肉注射の際の「針刺入時痛」と「薬剤注入時痛」の両方の痛みを軽減できることが報告されています。マッサージを行ったグループでは、マッサージを行わなかった場合よりも痛みのスコアが有意に低かったため、マッサージは注射後の痛みを緩和する有効な手段であるとされています(Kanika et al., 2011)。
- 硬結予防の効果……動物実験で筋肉組織障害を起こす薬剤の注射時、マッサージによって硬結が抑制されたという報告があります
一方で、これらのメリットを期待する注射においても、揉むことのリスクは伴います。揉むことで筋肉組織障害を引き起こしやすくなる薬剤もあるため、注意が必要です。また、接種部位の揉み方は決まっていないため、揉む場合でも軽く揉むだけにとどめるのが良いとされています。
というのも、筋肉注射後のマッサージについては、医学的なエビデンスが現時点ではないのです。マッサージの必要性を示す医学的根拠となる論文が少なく、現在では、注射後のマッサージで筋肉組織障害を引き起こす薬剤もあることから、臨床現場で経験則的にメリットがあると考えられる場合でも、筋肉注射後に揉む場合も、軽いマッサージにとどめるのがよいと考えられています。
強いマッサージや不適切な技術が組織にダメージを与えることが懸念されています(Ferré et al., 2005)。
以前、筋肉注射されていた抗菌薬は硬結予防で揉むようにされていましたが、硬結を起こす可能性のある薬剤は、今では筋肉注射する必要性がほとんどありません。ワクチンは海外では筋肉注射が主流で、日本では皮下注射です。日本で筋肉注射が少ないことの理由としては、1970年代に解熱薬や抗菌薬の筋肉内注射によって約3600名の大腿四頭筋拘縮症の患者の報告があったことが挙げられます。このような背景から、日本では筋肉内注射による医薬品の投与は、避けられる傾向にありました。
ワクチン接種時はリラックス! 接種後は揉まずに対応を
子どもを除くと、インフルエンザワクチン以外の予防接種を受ける機会はなかなかないものです。インフルエンザワクチンを受けていない人にとっては、新型コロナワクチンは久しぶりの注射になるかと思います。新型コロナウイルスワクチンの筋肉注射では、注射時に痛みを訴える人は少ない印象があります。接種時にはゆっくりと深呼吸して望み、なるべくリラックスして受けるのがよいでしょう。
接種後は揉まないようにしてください。腫れた場合は冷やしても良いですし、痛みや発熱などの症状があれば、解熱鎮痛薬を使っても構いません。ワクチンは、自分のために、自分の周りの大切な人のためでもあります。感染しない、感染させないようにする最も効果的な方法がワクチンです。