新しい通知表、観点別評価が3つへ集約
2021年から、中学校の通知表が新しくなってどう変わった?
大きく変わったのは、まず、「関心・意欲・態度」の観点が「主体的に学習に取り組む態度」という言葉でまとめられている点です。観点の名前こそ異なりますが、自ら学ぶ姿勢が大切なのに変わりはありません。
次に、よく見てみると、「知識・理解」の観点から「理解」がなくなり、「知識・技能」という組み合わせに変わっている点です。これは、知識は単に覚えているだけのものではなく、(技能として)活用できるようになって、初めて理解できるという考え方に立っているためです。つまり、理解する必要がないというわけではなく、獲得した知識を活用する力「技能」も同時に求められているということを意味しています。
ここまでを中学3年生の数学(展開と因数分解)で例を挙げて説明すると、次のようになるでしょう。
<数学の観点別評価と規準の例>
- 知識・技能:展開や因数分解の公式を使って計算問題を解くことができる
- 思考・判断・表現:展開公式を活用して、19の2乗を(10+9)の2乗として計算することができる
- 主体的に学習に取り組む態度:展開や因数分解を利用した問題に関心を持ち、積極的に活用しようとすることができる
通知表の観点別評価の順序がこれまでとは逆に
さて、大きく変わったのは観点の数だけではありません。今回の改訂では、あまり知られていないのですがコペルニクス的大転換が行われています。それは、「関心・意欲・態度→思考・判断・表現→技能→知識・理解」という順序がすべて逆となり、「知識・技能→思考・判断・表現→主体的に学習に取り組む態度」となっている点です。これはさかのぼること、1990年代に始まった新しい学力観が関係しています。新しい学力観では、教師は教える立場ではなく子どもの学びを支える立場とされました。そして、教師は子どもの興味関心をひき、子どもたちが主体的に考え、表現する中で、知識・理解として定着を図るという理念に沿って授業も評価も行われたのでした。その最終形態が2000年から始まったゆとり教育だったのです。
ところがその理念とは裏腹に、新しい学力観教育やゆとり教育がうまくいったとはお世辞にも言い難い結果となりました。そう、子どもたちの興味や関心をひくといっても、それは授業という限られた空間の中での話で、永続的な関心や意欲を引き出すには至らなかったのです。こうして、自ら学ぶ姿勢どころか、十分な知識・理解にすら到達できない、いわば学びから取り残された子どもたちを生み出す結果となってしまいました。
新しい学力観やゆとり教育は失敗だった?
こうしてふり返ってみると、これまでの学力観、関心・意欲・態度→思考・判断・表現→技能→知識・理解という順序に関して、「いったい何だったんだ!」と言いたいところです。残念ながら学術的なエビデンスに基づかない、文科省のいわば独善的な学力観だったのは否定できません。
こうしたいくつもの反省点をふまえ、大幅に改められたのが今回の改訂なのです。つまり、まず知識・技能の定着を図り、そして、これらを思考・判断・表現することを通じて、子どもたちが自らが学ぶ姿勢を身につけることがこれからの時代に必要な学びであるという理念です。
テストにおける通知表の評定の基準となる観点
手元にテストがある人は、合計点の横に「知技」「思判表」「主」と書かれた欄がないか見てみましょう。これは、「知技」=知識・技能、「思判表」=思考・判断・表現、「主」=主体的に学習に取り組む態度の観点を表しています。「知識・技能」は、漢字、計算問題、重要語句などを答える、なじみのある問題です。「思考・判断・表現」は、いわば応用問題と呼ばれる問題です。社会なら、資料を読み取る問題は思考・判断・表現の観点に基づいた問題です。中でも表現の観点は、国語などの「〇〇という言葉を使って30字程度で説明しましょう」といった記述式の問題や、英語の英作文の問題などがあてはまります。
「主体的に学習に取り組む態度」は、学校の先生も評価するのが難しいようで、授業では扱っていないけれど、教科書で学んだことと関連する内容など、子ども自らがどれだけ主体的に取り組んだかが評価になります。
具体的には、理科や社会の時事問題、英語では教科書で習った表現を使って自分に関すること(好きなものや興味のあること)などが、主体性の観点に関する問題です。今年、実際にあった例では、イラストで描かれたナズナやカラスノエンドウなどの名称を答える問題が主体性の観点として出題された学校があります。草花の名前だけでなくどんな姿なのか、授業で扱っていなくても知りたいと思う気持ちや進んで調べるという姿勢が大切です。
また、これらの観点はテストだけで評価されるわけではなく、授業での活動内容やリフレクションと呼ばれるふり返りシートに書いた内容なども評価の対象となります。例えば、教科書に登場してきた人物について深く調べて発表したり(=主体性)、ほかの人が発表したことから学んだことをワークシートにまとめたり(=表現)することも、評価の対象になります。
評定は観点別評価の組み合わせで決まる
こうして、教科別に「知識・技能」、「思考・判断・表現」、「主体的に学習に取り組む態度」の3の観点について、それぞれA~C(◎、〇、無印の場合もあり)の3段階で評価され、この観点の組み合わせによって「5」~「1」の評定が決まります。それぞれの観点によって5段階の評定が決まる点はこれまでの通知表と同じですが、各教科の観点が「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つに集約された点、しかも、順序がこれまでと全く逆になった点がこれまでとの大きな違いです。
通知表を渡されたら、早速この点に注目して、見てみましょう。
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