無くならない体罰問題
2010年代に体罰は大きな社会問題となりました。近年、体罰は暴行(犯罪行為)であるという認識が広がりつつあるものの、依然として体罰問題は学校やスポーツ指導場面の深刻な問題の1つです。
例えば、2021年6月に公表された熊本市教育委員会による調査では、体罰・暴言を受けたことのある子どもを持つ親(382人)のうち「体罰を受けても届け出たり相談しなかった」との回答割合が70%を越えており、「相談しても無駄」という理由が最多だったことが報告されています。このように、学校での体罰が未だに黙認されている可能性が推測されます。
体罰を受けたことがあるのは43.2% しかし体罰が「ある程度必要」と考える人は「受けたことがない」人よりも高い割合に
「体罰を受けたことがある」は216名(43.2%)
具体的な体罰内容
具体的な体罰内容としては「頭などを軽くたたく」(45.8%)、「平手で顔をたたく」(45.4%)、「長時間、正座や直立の姿勢をとらせる」(36.1%)、「殴る・蹴る」(26.4%)、「ボールなど物をなげつける」(22.2%)、「平手で体をたたく」(19.0%)、「長時間、教室や体育館、運動場などに居残りさせる」(17.6%)などの体罰経験が多く挙げられました。
30.8%が「必要/ある程度は必要」と回答
【体罰経験無し】では24.9%
【体罰経験有り】では37.5%であり【体罰経験無し】より12.6ポイントも高い
なぜ体罰はなくならない? 2013年の調査からわかる根強く残る問題とは
2013年に公益社団法人全国大学体育連合が実施した調査(調査対象3957名)を見ると、「なぜ体罰がなくならないのか?」の問いに対する答えが見えてきます。
〇体罰経験が体罰容認思考(体罰の再生産)を生む
(公社)全国大学体育連合の調査報告書に基づき『運動部活動において体罰経験のある学生は「体罰容認傾向」と「スポーツ指導者志向」が強い』という研究(北徹朗ら)が発表されています。
今回の調査と同様にこの研究においても「体罰経験がある者の方が体罰・暴力は必要と考える傾向がある」ことが示されています。さらには、「体罰・暴力を受けた経験のある者の方が「指導者」を希望する傾向が高い」ことも示されています。
こうした結果に至った背景として、「体罰を受けたその後どうなったか」という質問に対して、性別を問わず「体罰を受けて精神的に強くなった」や「技術が向上した」など体罰を肯定的に捉える回答率が高かったことが挙げられています。
〇体罰でスポーツ技術が向上することはあり得ない
(公社)全国大学体育連合の調査報告書では、体罰を受けて「技術が向上した」(23.7%)とか「試合に勝てるようになった」(10.2%)といった回答が見られます。このような一部の成功体験の錯覚が、体罰容認指導者・体罰容認教員の再生産を生んでいます。
体罰を受けてスポーツ技術が向上することはあり得ません。指導者はトレーニング法やスポーツ技術向上のための練習方法、選手や子どもの心理学や教育学的な対処方法等、多くのことを知っておかなければなりません。体罰は指導者の知識や経験の無さを露呈する行為でしかありません。
体罰が起こる根底には、スポーツが未だに「鍛錬」として捉えられている風潮が一部にあることも考えらえます。スポーツはそもそも「遊び」であり楽しむことが基本です。技術が向上したり、試合に出場する喜び、試合に勝つ経験をすることで、「もっと上手くなりたい」とか「試合に勝ちたい」、「このスポーツが好きだ」などのポジティブな感情が芽生えます。
中学校が最も体罰が多い?
今回の調査では、体罰を受けた(あるいは見た)学校期として最も多かったのが「中学校」(55.8%)でした。前出の(公社)全国大学体育連合の調査報告書でも同様に中学校期における体罰が最も多かった(59.1%)ことが示されています。
政府は2015年にスポーツ庁を設立し、国民のスポーツ実施率を高めようと様々な取り組みや提言をしていますが、運動部活動に所属し本格的に「スポーツ好き」が育っていくであろう中学校期に、逆にスポーツ嫌いを生んでいる可能性も調査結果からは示唆されます。
<参考文献・引用文献>
・熊本市教育委員会(2021)体罰・暴言等に関するアンケート結果について(報告)
・公益社団法人全国大学体育連合(2014)運動部活動等における体罰・暴力に関する調査報告書
・北 徹朗ら(2014)運動部活動において体罰経験のある学生は「体罰容認傾向」と「スポーツ指導者志向」が強い -全国大学体育連合「運動部活動等における体罰・暴力に関する調査」報告(1)-、日本体育学会第65回大会予稿集p.263