子どもを産み・育てたいと思える環境とは
子どもたちが元気に遊ぶ光景は騒音なのか?
子どもの声は騒音? 子育て世代に冷たい日本
日本のやり方にダメ出しをし、海外のことを賞賛する風潮は、海外在住者からすると「ちょっと盛られ過ぎ」と思うことも度々です。外から見ると気付ける日本の素晴らしさも本当にたくさんあるため、公平性を欠いて「海外はすごい!」とあがめることは好きではありません。しかし、それを踏まえても、ヨーロッパの方がすごいと言わざるを得ないのが、子育て世代への温かみです。今の日本は「世知辛い世の中だ」といわれることもありますが、社会全体に温かさがなくなってきてしまっているのは、きっとだれもが感じているはずです。
子育て中の親御さんの中には、
- バギーで電車に乗るとイヤな顔をされた
- 公園で遊んでいたら、うるさいと注意された
- 「あれダメ、これダメ」と子どもの行動を制限する貼り紙がしてあった
もちろん、問題のある騒ぎ方をして注意を受けたのならわかりますが、子どもが元気に遊んでいる光景がうとましく感じるなんて、まるで子どもの声を“騒音”扱いしています。
ドイツには「子どもの声を守る法律」がある
実は以前ドイツでも、「子どもの声は騒音なのか」という問題が議論になったことがあります。それをきっかけに2011年に「託児施設や子どもの遊び場などから発せられる音は、環境に悪影響を与えるものではない」という主旨の連邦環境汚染防止法改正案が可決されました。法律で子どもたちの声を保護しているのです。
子どもの声に関する法律ということで驚かれた方もいると思いますが、ドイツはとにかく法律や条例、ルールが多く、実際に住んでみると本当に細かいことにまで規則があることに驚かされます。いまだに日曜日はお店が開けられない法律があったり、大きな音を立ててはいけない「ルーエツァイト」という時間帯が制定されていたり……。
それもあっての子どもの声の法律。本来なら法律で守らなくても、自然と理解を示すことが理想なのかもしれませんが、法律により市民の認識が変わったのは確かなようで、ドイツでは、子どもの発する声は「成長の証」であり、それを受容することは「子どもに優しい社会」への表れだとされています。こういう認識の変化が、「育てやすさ」につながるのは間違いありません。
親を孤立させず、“肌で実感する”温かい社会へ
一般的に、産みやすく、育てやすい環境というと、共働き家庭を支える社会の仕組みが整っているなど、法的な制度を頭に思い浮かべるかもしれません。しかし、私がヨーロッパで出産、子育てをしてきて、肌で実感する「産み・育てやすい環境」はそれとは少し異なり、ひと言で言えば、“社会の温かみを肌で感じられる”ことです。たとえば、フランスのパリの地下鉄。バギーをたたむのではなく、そのまま乗り込むのはごく普通のことです。座っている人が座席をたたみ、バギーのスペースを作ってくれるのです。そして電車を降りた後、ホームの階段に差し掛かると、どこからともなく声がかかり、バギーを持ち上げるのを手伝ってくれます。男性であれば、1人でバギーを上まで運んでくれることも多々あります。バギーのスペースを作ってくれる、階段で一緒に担いでくれる、こういう心遣いが本当に嬉しかったのを覚えています。
その嬉しさは、「バギーの重さが半分になった」という物理的なもの以上に、「あ、気付いてくれてる」という心理的なものの方が大きいです。手を差し伸べてくれることで、「私、ひとりじゃない」という気持ちにさせてくれるのです。
このように見知らぬ人が、ごく普通に私たちの育児に関わってくれようとする気持ちがあること、これが私が感じる“育てやすい社会”であり、今の日本に足りていない部分だと思います。
もし子どもの声を騒音扱いされたら、もし電車でバギーを邪魔扱いされたら、「もう2人目はいいや」という思いになりかねません。少子化対策として、国が動くべきところもたくさんありますが、それと同じくらい足りていないのは、「社会の温かい目」なのではないでしょうか。
法を改正したり、待機児童をゼロにしたり、そんな大掛かりなことは1人の力ではできませんが、「バギー手伝いますよ」と声をかけたり、順番を譲ったり、ドアを開けて支えたりするのなら、今すぐに行動に起こせる「育てやすい社会」への大きな一歩です。
今回のテーマはむしろ、今現在は子育てとつながりのない世代の方々向けへの訴えかもしれません。子育て世代が欲しいのは、「温かな目線」です。今の日本が失ってしまっている社会の温かさを取り戻すことが、産み・育てやすさ、ひいては少子化対策につながると信じています。
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