2020年小中高に導入された「キャリアパスポート」は課題が山積み
2020年小中高に導入された「キャリアパスポート」
例えば、中学生向けのキャリアパスポートの例示資料を見てみると、具体的には以下のようなことを行います。
- 年度初めに、自己分析(自分の好きなこと・もの/得意なこと・もの/頑張っていること、自分の良いところなど)と将来の夢とそのために身につけたい力等を記入
- 学期ごとに、なりたい自分になるために身につけたいこと(目標)と、そのために取り組みたいことを掲げさせ、学期末に4段階評価でそれが達成できたかを自己評価
文部科学省はこのキャリアパスポートの目的を「小学校から高等学校を通じて、児童生徒にとっては、自らの学習状況やキャリア形成を見通したり、振り返ったりして、自己評価を行うとともに、主体的に学びに向かう力を育み、自己実現につなぐもの。教師にとっては、その記述をもとに対話的にかかわることによって、児童生徒の成長を促し、系統的な指導に資するもの」としています。
この目的自体は良いと思いますが、現状運用は「現場任せ」です。おそらく現場の先生方は、大変な苦労をなさっていることと思います。ただでさえ授業時間が足りない状況下でどう時間を捻出するのか、「目標設定や自己評価の仕方」などをどのように指導したらよいのかなど課題が山積みだと思われます。
このような運用面の問題点以外に、「自己分析」の方法や「将来の夢」を書かせることに関して、以下のような問題も考えられます。
社会経験の乏しい子どもは「自己分析」ではまだ自分のことは分からない
キャリアパスポートの中で、自己分析をさせるパートがあります。その自己分析は「自分からみた自分の姿」になりますが、それだけでは「自己を理解」したことにはなりません。「自分が思う自分」だけでなく、「他人から見た自分」も意識する必要があります。なぜなら、特に社会に出たあとは、「他人からの評価」が「結果」につながるからです。例えば、「自分はコミュニケーション能力が高いから営業職に向いている」と思ったとしても、周囲からは「この人は、自分の意見を押し付けるばかりで、周囲の意見を聞かない」など自分の認識とは逆の評価であることもあるかもしれません。そうなってしまったら、自分が予想していたような営業成績を残すことができないでしょう。 自己分析の考え方の一つとして「ジョハリの窓」というものがあります。図のように「自分の姿」を整理するものなのですが、「開放された窓(自分も他人も知っている自分の姿)」を広げていくことが「自己分析」をする上で大切になってきます。そのためには、自分について、自分で考えるだけでなく、周囲の人から評価を受けたり、また、未経験のことや新しい環境にチャレンジしてみたりすることが大切になってきます。
子どもは、これから様々な経験を通して、この「開放された窓」を広げていく途中段階にあります。そのため、キャリアパスポートで自己分析をするときは、子どもながらに「自分はこういう人間だ」と決めつけてしまうような自己評価にならないよう気を付けてほしいと思います。
「好き」「得意」「社会の役に立つ」の3つの視点が交わる「将来の夢」
キャリアとは、広義では「生き方」だと思いますが、そのうちの重要な要素である「職業」について考える上で、大切にしてもらいたいのが「好きなこと」「得意なこと」「社会の役に立つこと」の3つの視点になります。この3つの円が交わる「将来の夢」を見つけられるよう導いていくことが「キャリア教育」で求められていることだと思います。 「好きなこと」を仕事にできれば、幸せなことだと思いますが、実際の社会ではそれだけでは不十分です。やはり、それが「得意」でないといけませんし、「社会の役に立つ」ものでないと継続的にお金を稼ぐことができず、仕事として成り立ちません。しかし自己分析と同じく、子どもは、これから様々な経験を通して、この3つの視点を見つけていく途中段階にあることが、このキャリアパスポートを記入するにあたっての難しさでしょう。家庭や学校におけるキャリア教育で大切なこと
キャリアパスポートを運用するにあたり、以上のような難しさがあるものの、家庭や学校では子どものキャリア教育を意識して実践してあげることは重要です。まず家庭では子どもに多種多様な経験をさせ、好きなこと、得意なことを見つけるサポートができると良いと思います。その中で自分の「好き」なことを見つけ、またそれが「得意」なことになるよう努力することの大切さを学んでほしいものです。たとえ、その経験を通して具体的に好きなことが見つからなかったとしても、例えば「チームで活動する」方が合っているのか、「個人で活動する」方が合っているのかなど、職業選択につながる「自己理解」を深めることにつながります。
また並行して、そのことが「どう社会の役に立つのか」ということも考えてみる必要があります。「人の命を救う」「人を笑顔にする」「人の生活を楽にする」など、社会に受け入れられている仕事には、社会に人に役に立っている部分が必ずあるはずです。
最後に、学校教育の中で圧倒的に足りない要素が「お金の教育」だと思います。お金を稼ぐということはどういうことなのか、どのように社会の役に立っているから「継続的に」お金が稼げているのか等を、具体的な職業を例に挙げて考えてみることも「職業選択」という意味でのキャリア教育として大切なことだと思います。また、家庭でも、おこづかいを通して、「計画的にお金を使うこと」「貯金や節約の必要性」などを体感していくことも「生き方」という意味での「キャリア」教育では、必要となってくるのではないでしょうか。