そんな佐藤ママの教育方針って本当に正しいのか、正しかったとしてもそもそも真似できるものなのか、と疑問に思う保護者の方も多いでしょう。佐藤ママの教育法をヒントに、学校の勉強と中学受験の両立、勉強場所や親の関わりなど中学受験の学習環境における4つの疑問について考察してみました。
Q1. 塾も学校も宿題は完璧、小テストでは満点を目指すべき?
小テストも100点、学校の宿題も完璧を目指すべき?
中学受験というとどうしても「学校の勉強からかけ離れた世界」「小学校で習うことよりもはるかに難しい内容」といった印象をもたれがちです。それはあながち間違いではありませんが、だからといって小学校の学習をおろそかにしてよい、ということにはなりません。
例えば、計算力。中学受験の指導をしていると「算数的なセンスは光るものがあるのに、成績は芳しくないんだよなー」という生徒に出会うことがあります。原因は計算練習をおろそかにしていること、実は四則演算の基礎に分かってない部分があったなんていうこともあります。こんな子に小学校の教科書に出てくるような計算練習を積ませると、成績がグングン上がっていくことが多いものです。
国語が得意な生徒も同様、学校の教科書の「音読」、教科書を書き写す「書写」など地道な作業をきちんと取り組んでいるものです。
学校の教科書レベルのことを侮るなかれ! 中学受験で必要な全ての応用力は学校で習う勉強の基礎の上にこそ成り立つのです。
Q2. テレビやゲームは受験勉強の敵?
佐藤ママのご自宅のリビングにはテレビがなく、夏は暑くて冬は寒い、2階の部屋に置かれていたそうです。当初買わない方針だったゲームもその部屋に置き、ルールを作った上でそれを守っている限りガミガミと細かいことを言わないでいたそう。テレビのバラエティ番組で東大生が「ゲーム好き」であることを公表し、「ゲームをやっていても東大に入れるんだから、ゲームは別に悪くないんだ!」といった論調でまとめているのを見かけることがあります。しかしこの論調には明らかなミスリードがあります。
真実は「ゲームをやっていても東大に受かる」のではなくて、「ゲームをやっても時間で切り上げられる“自己管理能力”があるから東大に合格できる」のです。東大を志望するゲーム好きな子が全員合格できるわけではない理由がここにあります。
教育指南書の多くは、テレビやゲームは受験勉強の妨げになるため時間を決めるようアドバイスされています。しかし決められた時間でやめられるのなら苦労はしませんよね。切り上げさせようとして子どもとバトルとなり、親子でストレスを高めてしまうこともしばしばです。
中学受験を本気で志すならば、お子さんが自己管理できないタイプの場合、「百害あって一利もない」とも私は思っています。代わりに図鑑や百科事典、歴史漫画を置いておきましょう。子どもは普段から暇をもて余し、色々なページを見開いているうちに塾の学習の理解度が増すためとても有効です。息抜きの時間に勉強もできてしまい一石二鳥です。
Q3. やっぱりリビング学習が正解なのか?
昨今「リビング学習」という言葉が広がり、勉強場所として地位を確立しているようです。佐藤ママのご家庭もしかり、勉強机をリビングに置かれていたようです。ところで私が小学生の頃はというと、中学受験の勉強は「自室」でしていました。なぜなら、うちの家系は私を除いてみな整理整頓が下手くそで、リビングが常にモノであふれ返っており、とても勉強ができる環境ではなかったからです。私にとって学習環境が整っていた場所は「自室」ということでしたが、それでもきちんと成績を上げて御三家といわれる第一志望の中学に合格できました。
リビング学習を正しいとする発想は、親の監視の目が行き届く場所であるからであり、子ども部屋には集中力を削ぐアイテムがあるということからだと私は考えます。すなわち「親の目がないと勉強できない」「自室が勉強できる環境にない」ということでもあり、それゆえ仕方ないからリビングで学習させるというのは、本末転倒という話になってしまいます。
少なくともリビングにゲームが置いてあったり、テレビが常についているような環境であるなら、学習効果は期待できないといっても過言ではありません。また学習環境が整えられているのであれば、子ども部屋で学習させても問題ないでしょう。
リビングで親の監視のもと学習させたいのならば、きちんと整理整頓してゲームなどの娯楽も排除し、参考書や問題集を設置する本棚などのスペースを確保した上で勉強させましょう。
Q4. 共働きは受験に不利? 受験の合格は親のサポート次第か
中学受験の成功は、親の徹底した生活管理や勉強サポート次第?
中学受験は「子どもの大人度」が問われるとよくいわれます。たった12歳の時点における学力を切り取って入学試験をおこなうわけですから、その時点で「自立していて」「メタ認知能力(自分が何をわかっていて何をわかっていないかを客観的に把握し対応できる力)が高く」「嫌な課題にも向き合える」かどうかが重要となります。
それを総称して「大人度」と表現するわけですが、これがなかなか難しい。これらを全て兼ね備えている小学生がいたら、どんなに親は助かることでしょう。しかし実際は、小学生に学習管理を完全に任せきるのは難しいし、きちんとやれない危険があるということです。やはりどうしても保護者の介入は必要な気がします。
また、中学受験の目的をどのあたりに置くのかということも関わってくるでしょう。例えば「合格校にはこだわらない。ご縁があった学校に進学する」「学習と向き合う態度を身につけさせたい」というのであれば、保護者の方がそこまで介入せずとも精神成長と共に本人の自主性が芽生えるのを待てばよいと思います。
一方「何が何でも志望校合格を勝ち取りたい」と望むのであれば、保護者の方の関わりは厚くしていかねばなりません。本人は勉強しない、保護者の方も面倒を見られない、では志望校合格は望むべくもありません。場合によっては共働きをやめるという選択肢もあり得るかと思います。
親がどうしても面倒を見られない、子どもは勉強しない、でも志望校には合格させたいのであれば、大手進学塾ではなく面倒をよく見てもらえる個別指導や少人数制の塾を選ぶという方法もあります。大手塾の下位クラスでずっとくすぶっているような状態であるならば、そのままその塾にいても逆転合格できる可能性は低いでしょう。作戦変更もやむをえません。
佐藤ママのご家庭は特殊例、全て真似するのは難しいが
佐藤ママのお子さんたちは確かに特殊例かもしれません。佐藤ママの言うとおりにしていれば必ず東大理IIIに合格できるというわけではないと思います。しかし佐藤ママはいいことをたくさんおっしゃっていて、汲むべきアドバイスは非常に多いと感じます。「塾の教材は親がチェックせよ」「塾の掛け持ちはするべきではない」「塾に丸投げでは合格などあり得ない」「塾の宿題の採点は親がせよ」「模試の点数に一喜一憂するな」などなど、枚挙にいとまがありません。佐藤ママの本を1冊読んで、自分の子どもに使えそうなところをピックアップして活用すれば、それでいいと思います。
【参考書籍】