人材育成・社員教育

働き方より「働きがい」の時代へ? トヨタ系大手部品メーカーが挑戦する「働きがい改革」に注目(2ページ目)

「働き方改革」が叫ばれて久しいが、「働きがい改革」はご存じだろうか。自動車部品で国内売上2位のメーカー「アイシン精機」が取り組む「働きがい改革」に着目しながら、日本社会が直面する最重要課題について人材コンサルタントの小松俊明が考察する。

小松 俊明

執筆者:小松 俊明

転職のノウハウ・外資転職ガイド

好待遇と制度の充実だけでは、社員満足度の高い会社とはいえない

長期にわたって社員の長時間労働が問題視されてきた日本の職場環境では、昨今「働き方改革」に取り組む企業が多い。背景には、2019年4月から施行された「働き方改革関連法」があり、企業は時間外労働の上限規制、年次有給休暇の5日取得義務化、同一労働同一賃金など順次対応を迫られている。

具体的には、時短・フレックスタイム・裁量労働制等の運用状況の改善、ワークライフバランスの実現、女性の活躍支援、副業規定の見直し、そしてコロナ禍で在宅勤務を推進していることとあわせ、働き方の多様化を促進することなどがある。

実際は、働く時間や場所の柔軟性を高め、社員の余暇の使い方や社会貢献などに注目した制度改革に注力する会社が多い。会社の事業活動も国連が推進するSDGsに沿って持続可能性に配慮し、ESG経営(環境・社会・企業統治に重点を置いた経営)に取り組む企業に評価が集まるなど、社員個人の働き方改革とベクトルが一致している。

日本の職場に蔓延している長時間労働の慣習は、社員のやる気やモラルをそぐことがあり、これまでもそうしたビジネスの悪習を変えるための議論が繰り返されてきた。この問題が簡単に解決できないでいる理由として、「企業文化を変える難しさ」が論じられることも多い。企業文化の形成には企業理念や歴史、そして経営者や管理職の影響が大きく、企業ごとに長い時間をかけて企業文化が形成されて根づいている。

一方、社会はグローバルなレベルでさまざまな影響を受けて、人々の考え方はめまぐるしく変化している。インターネットやソーシャルメディアなどの普及によって、そうした変化が相互に共有される機会も増えて、変化のサイクルはとても早い。

その影響もあり、個々の企業文化に対して社員や元社員、さらには世間全般がどのような評価をしているか、それが可視化される仕掛けができてきた。その象徴的な存在が、企業の口コミサイトである。結果として、著名な口コミサイトで評判がいい会社は良い企業文化を持つ会社とみなされるようになり、優秀な人材を集めやすくなる。それを称して「ホワイト企業」といわれることもある。実際、ホワイト企業ランキングも存在し、毎年発表されている。

反面、口コミサイトで評判が悪い会社は「ブラック企業」と呼ばれるようになり、不買行動につながりかねないリスクを抱え、優秀な人材の獲得にも少なからず悪影響を与えてしまっている。会社にとっては大いに不名誉なことだが、ブラック企業のランキングがされるようにもなった。

ランキングの正当性や、どのような本質的な意味があるのかについては色々な意見があるが、詳細は省略する。しかし企業イメージが毀損されれば、企業は対策を講じる必要が出てくる。多くの場合、企業文化に対する社内外からの評価にさらされる企業は、「社員満足度を上げる」方法で企業イメージの修復に向けて取り組んでいる。
 

社員満足度を高める3つの取り組み

社員満足度を高める要素とは

社員満足度を高める要素とは

次に、企業が「社員満足度の高い企業文化」を目指す本質的な理由について考察したい。人事部のような社員教育や福利厚生の充実に取り組む組織では、会社生活に満足する社員は働くモチベーションが高い傾向にあり、仕事の生産性アップが実現していると考えられている。

通常、社員満足度を高める方法で注目されるのは「待遇や制度の改善」であるが、以下で紹介する3つの取り組みも効果が高く、多くの企業が注目してきた。

1つ目は「やりがいのある仕事の存在」である。2つ目は、本人が「成長する機会があること」、そして3つ目は、「職場の良好な人間関係」である。これら3つは、どれも妥協すべきではない重要な項目である。

社員の満足度が上がれば、仕事に対する責任感や誇りの上昇も期待できると考える会社は多いのではないだろうか。さらに仕事を通した社会貢献意欲を触発できれば、社員の会社に対するエンゲージメント(愛着や絆、思い入れなど)は一層向上するのではないか。そうなれば顧客との信頼関係の構築にも好影響をもたらすはずだ。

信頼は企業イメージの上昇につながり、その結果、社会にとって必要な会社、商品やサービスとみなされるようになれば、企業は自らの事業活動を「持続性のある社会活動」と位置付けることに成功する。

働きがいのある会社で、やりがいのある仕事をする社員がたくさんいれば、良質な商品やサービスが社会にいきわたり、社会全体が豊かさを享受し、幸福を感じることもできるのではないだろうか。

これは、とても理想的な話に聞こえるかもしれない。しかし、例えば自分自身が長年使用しているお気に入りの定番商品やサービスについて考えてみると分かりやすい。それを使用できていることにとても満足し、自分の心に平穏や躍動感をもたらせているはずだ。もしそのような良質なものが、さらに色々な分野に増えていけば、私たちは毎日がもっと楽しくなり、人生の豊かさを実感できるのではないだろうか。

逆に、企業が品質管理を怠り、決算内容を偽装し、社員がパワハラやセクハラにあっているというニュースを繰り返し聞くだけでも、それが自分自身にふりかかったことでなくても、私たちは豊かさや幸せを実感できなくなりかねないのである。社員の働きがいは、一部の経営者の不誠実で利己的な行動ひとつで破壊されてしまうため、「働きがい」とはとてもデリケートで脆弱なものである。

>次ページ「労働時間の長さではなく、仕事の成果を働きがいに変える」
 
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