理由は同じだが、妻側の不満が多い
裁判所が毎年公表している司法統計の「婚姻関係事件数 申立ての動機別申立人別」によると、令和元年の離婚関係事件の申立ては、夫からが16,502件、妻からが44,040件。夫・妻別_婚姻関係事件数の推移
夫側、妻側の理由で一番多いものは双方とも「性格が合わない」となっています。
令和元年の夫・妻別の離婚申立動機
「申立て」とは通常、本人たちの話し合いでは離婚や円満調整(結婚継続)の決着がつかない場合に家庭裁判所へ申請がなされるもの。第三者を交えて話し合う場である調停を希望するという意味合いがあります。
さて、このデータから読み取れることは多々ありますが、まず妻側の申し立て件数が夫側の約2.7倍あることから妻の方に不満がたまっている様子。また、DVや異性関係などによる有責者(結婚生活の破綻原因をつくった人)が判別しやすい理由とは違い、「妻の気持ち的に、もう夫と一緒にいられない」という感情が動機になっていることが伺えます。
どんなに好き合って結婚した二人でも、もとは他人。日常的に夫との性格の不一致を感じ、ママ会・女子会で愚痴が出るのは日常茶飯事ですが、実際に離婚を決意するプロセスにはどんなケースがあるのでしょうか。
そこで離婚理由が「性格(性質)が合わない」に該当し、なおかつ約1年前に、「夫の死を願う妻」としてインタビューに応じていただいたミコさん(仮名)に、今回もお話を伺いました。ミコさんは現在シングルマザー。新天地で就職し、実母と子どもの3人で充実した毎日を送ってらっしゃいます。
ちなみに昨年のインタビュー記事は各WEBメディアに取り上げられ、多くのコメントが寄せられましたが、なかでも目立ったのは「ウチの夫と同じ」という共感やミコさんを擁護する声でした。
【参考】
・妻の主張をスルーする『ネグレクトな夫』も死を願われれる
ネグレクトな元夫と離婚するまで
離婚を決定づけた出来事は特にないというミコさんですが、コロナ禍で24時間子どもと密着していたことも関係していたよう。昨年の春頃の気持ちを振り返ります。「『こんな大変なときも元夫は育児の大変さを分からず、考えようともしない。変わらないのだな』とうんざりして、もうこんな生活は終わりにしようと決意したのが大きかったように思います」
「こんな生活」とは元夫とコミュニケーションが成り立たず、妻の言い分がスルーされる状況のこと。元夫には同じことを何度言っても響かず、変わらず。その様子が積もりに積もって、ミコさんは「死んでしまえ」と思うほどになっていました。
「家族3人分の持続化給付金は元夫に使われていましたね。子どもの七五三で写真を撮ったり、ランドセルを買う費用にとっておこうと思っていたのですが、同僚との旅行で消えたようです。私が管理しているクレジットカードを勝手に持ち出していることもありました」
この元夫の行動は、金銭の自由を奪ういわゆる「経済的DV」にも該当しそうな気がしますが、そこには「慣れてしまった」と力なく笑います。
「怒る気にもなれませんでしたね。これまでに何回か離婚後にかかるお金の試算をしていたし、離婚するという心は決まっていたので、まず遠方にいる実家の母親に子どもと帰って一緒に暮らしてもいいかと相談しました」
お母さまはすぐミコさんの気持ちを分かってくれ、快く同居に同意。ミコさんは行動を進めます。「元夫との離婚の話し合いをするために、伝えたいことを紙にまとめて整理しました。養育費は、子どもが大学まで行くと仮定して必要なお金のリストを作り、養育費算定表もコピーして用意して……」
元夫とはすれ違いが多かったそうですが、直接話をするために夜おそくまで帰りを待っていたミコさん。いざとなると気が重くなり、1週間くらい足踏みの状態が続きました。覚悟を決めて切りだすと、元夫から返ってきたのはいくつもの質問だったといいます。
「『いつから離婚を考えていたの? なぜ今まで離婚してと言わなかったの? そんなに文句があるなら言ってくれなきゃ分からない』と矢継ぎ早に言われました」
元夫との温度差に戸惑いつつ、ひとつずつ質問に答えていきました。
「離婚したい気持ちは3~4年前からあったこと、要望は何度も伝えていたけど、一向に直る気配がないからあきらめてしまっていたこと。『離婚』という言葉は軽い気持ちで口に出すことではないと考えていたので、現実的に生活の算段がついてから切りだそうと思っていたこと、を順番に返信しました」
子どもの養育費の話をすると、元夫は『自分から離婚を切り出したくせに、お金を要求するのか』と怒り気味になったといいます。
「どうやら養育費のことを慰謝料だと思っていたらしく……。私は唖然としてアゴが外れそうになりましたが(笑)、最終的には納得してもらえました」
元夫にとっては寝耳に水だったのでしょう。次の日の朝、ミコさんのスマホには謝罪のメッセージが送られていました。
「『全部オレが悪かったと思うから、もう一度考え直してほしい、チャンスが欲しい』という内容でした。でも即答で『無理だよ』と返信しました」
その時、やりなおすかどうかの葛藤はなかったといいます。しばらくして元夫から『わかった』という言葉を受け取り、離婚の合意が得られました。
その後、ミコさんたちは、毎月の養育費と、子どもとの面会事項を取り決め、ミコさんの費用で公正証書を作成。数か月前に離婚となりました。気になる未就学児のお子さんの様子はといえば、思い出話としてたまに話題にのぼることはあるそうですが、父親に対して寂しがったり会いたがったりする様子は見られないということ。感染症の影響により、元夫と子の面会はまだ行われていませんが、養育費は滞りなく支払われています。
結婚生活という修行を終えて
去年のインタビューの時より、明るい表情となっているミコさん。5年の結婚生活を振り返ってこんなふうにまとめてくれました。
「結婚生活は修行のようでした。地元を離れて母になって、ワンオペで家事育児をして仕事をして……。最初は近くに親しい人がいおらず、唯一頼れる元夫は不在だし、いるときは的外れなことを言われましたね。今は私自身が強くなったと思いますし、晴れて自由の身になったので、これから修行の成果を試すときです(笑)。」
子連れ再婚のステップファミリーが増えている今、再婚についてはどのように考えているのでしょうか。
「今の生活スタイルでは、再婚は想像もできません。でも、もし再婚するなら、当たり前かもしれませんが(笑)、力を合わせて生きていきたいと思える人がいいです。結婚前の時のように、好きな人と一緒にいたいとか、その方が幸せなどとは思わないでしょうね」
と、もう恋愛ベースの生活は望んでいない様子。
現在はシングルマザーとして忙しい生活を送りながらも、元夫と離れたことによってストレスは減ったと自覚しています。
「これまで長期休暇は元夫から逃げるように地元に帰って慌ただしかったので、これからは子どもと近場の自然を漫喫したり、ちょっとした旅行をしたりして、楽しく暮らしたいですね。仕事はフルタイムなので自由な時間は減りましたが、1日の充実感は増えた気がします。結婚、出産、離婚は、すべてひっくるめてよい経験だったととらえています!」
最後には、まぶしい笑顔を見せてくれました。
決定的な離婚理由としてみなされないこともある「性格が合わない」。
しかし、婚姻関係を続けるほど、一方が精神的にすり減ってしまう生活は拷問のようでもあります。それに気づいて行動を起こし、過去を推進力にして新しい生活に飛び込む強さ、そしてその生活を楽しむ安定感を得た妻の一例を見ることができました。