「ESG経営」と「ソーシャルワーク」に注目が集まる
さて米国では政権交代が実現し、その初日にバイデン大統領は地球温暖化対策のパリ協定への復帰を決める大統領令に署名した。環境破壊を伴う経済発展を見過ごす国際社会はないという意思表示の席に、ようやく世界の大国が戻ってきたのはグッドニュースである。今の時代、世界中の企業はESG(頭文字のEは「Environment」、Sは「Social」、Gは「Governance」)に配慮した経営スタイルを目指すようになった(「ESG経営」という)。つまり、ESGに真摯に取り組んでいるかどうか、それが企業価値を判断する重要な材料となっているのだ。
ESG経営に注目が集まるきっかけとなったのは、国連が2015年に定めたSDGs(Sustainable Development Goals)であり、今では小学校の授業でも生徒間で議論するくらいであるから、その認知度はあらゆる世代に広まっている。
2020年のSDGs達成度世界ランキングで日本は17位だった
この流れは、人々の会社生活、いわゆる就労観や職業観にも大きな影響をもたらしている。社会起業家(ソーシャル・アントレプルナー)が注目されている。社会にある課題について事業を起こすことによって解決する事業家をさした言葉だが、もっと広義でとらえれば、社員一人ひとりが起業までしなくても、誰もが日々の仕事を通して社会貢献を実現することが「ソーシャルワーク」である。会社にとってのCSRやESGが個人にとっては何に相当するか、そう考えれば分かりやすいはずだ。
本来、ソーシャルワークを狭義で言えば、困っている人、生活に不安を抱えている人、社会的に阻害されている人との良好な関係を構築して、専門的なアプローチで問題解決を図る対人援助を意味している。例えばコロナ禍の中で、逼迫する医療現場で患者やその家族が、安心して治療を進められるように相談に乗る医療ソーシャルワーカーが注目を集めている。
ソーシャルワークの本質は、弱者の救済や社会復帰に寄り添うことである。ソーシャルワークに取り組めるのは、専門職として成り立つソーシャルワーカーに限らない。社会のあらゆる場所で社会参加している人にとって、自らの仕事がどのように社会に役立っているか、どのような社会問題を解決できるか、それを一人ひとりが個別に考えることが、仕事のやりがいとなり、それがまさにソーシャルワークであるのだ。
ソーシャルワークは、金銭的な報酬とは異なる報酬体系であるととらえることも大切である。ソーシャルワークで社会に貢献できたこと、そこから得られる満足度が報酬である。プライスレスな報酬を増やすことは、先が見えない現代を生きるビジネスパーソンにとって必要なことではないだろうか。
失業や減収で逼迫する厳しい現実があっても、豊かなソーシャルワークで救われることもある。どんなに収入が多くて生活が安定していても、人間関係に悩み、社会を良くしていくために自分の能力や労働力を活用させることが十分にできていない場合、真の幸福を感じられないかもしれない。
2021年、私たちは引き続きコロナ禍の混乱と不安の中にあるが、今こそ「働きがい」や「生きがい」に注目して、就労観・職業観・人生観のニューノーマルを模索していこうではないか。
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