女性の5人に1人が「デートDV」の被害にあっている
結婚していないし子どももいない。でも「デートDV」特有の深刻さがあります。
子どもたちが加害者や被害者にならないために、外部講師を呼んで「デートDV講座」を開催する高校も増えました。
厚生労働省でも、子どもへの性被害防止のため年齢に応じた予防教育を行う方針で、令和5年度からの全国実施に向けて、中学校と高校では「デートDV」を教材にしたモデル授業が検討されています。
「DV」と「デートDV」には、どのような違いがあるのでしょうか。女性支援を専門とする臨床心理士・公認心理師のカウンセラー福田 由紀子が解説します。
そもそも、DVとは
DVとは、「ドメスティック・バイオレンス」の略で、直訳すると家庭内暴力ですが、親子間などの暴力ではなく、配偶者や交際相手など、親密なパートナー関係の中で起きる暴力のことを指します。DVには、殴る蹴るなどの「身体的DV」だけではなく、暴言や無視、長時間に渡る説教などの「精神的DV」、無理やり性行為を強要したり、避妊しないなどの「性的DV」、生活費を渡さない、借金を負わせる、レシートを細かくチェックするなどの「経済的DV」、行動を監視する、友人や実家とのつきあいなどの社会的活動を制限したり、就業を妨害する「社会的DV」などがあり、ほとんどの場合、複数の種類の暴力が組み合わされています。
「力と支配」がDVの本質です。DVは、体格や経済力など、圧倒的な力の差を背景に、相手を思い通りに支配・コントロールするための暴力です。
どんな理由があろうと、暴力の責任は100%加害者にあるのですが、DV加害者は「怒らせたお前が悪い」と、相手のせいにして自分の暴力を正当化します。また、暴力を振るった後に優しくなったり、泣いて反省したりするのもDV加害者の特徴です。しかし加害者が変わることは難しく、DVはエスカレートしていきます。
「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)」では、対象を「配偶者、元配偶者」としていますが、一緒に暮らしている場合は婚姻届けを出していなくても「事実婚」として、支援の対象になります。同性愛カップルの場合も同様ですし、被害者は女性に限りません。しかし、深刻なDVのほとんどは、男性から女性へのDVです。
若者のデートDVに特徴的な「スマホやSNSを利用した束縛」
若い世代にはスマホで行動を制限する「社会的DV」が多く見られる
スマホを見せるよう要求したり、SNSで交友関係を細かくチェックしたり、異性の友人との会話やSNSでのやりとりを禁止したり、連絡先やSNSのつながりを削除させたり、LINEにすぐに返信するよう強要したり、定期連絡を義務づけたり、GPSアプリで行動を監視したり、といったことがよく聞かれます。
SNSのプロフィール写真を2人のラブラブショットにするよう要求してくる相手は要注意です。スマホやSNSがDVに利用されるというのが若者の「デートDV」の特徴だといえるでしょう。
どちらかが息苦しくなったり、生活が制限されて、学業や部活動に支障をきたすようになると、それは「デートDV」です。そして、行動の制限は、加害行為と認識されないまま二人の間の「ルール」として一方的に押し付けられ、それを破った制裁として「身体的」「性的」「精神的」暴力が振るわれることも珍しくありません。
「愛情」による暴力の正当化
デートDVには「愛しているから」「好きだから」という暴力の正当化がよく使われます。「愛しているから束縛する」「好きな人との一体感を感じたいから避妊しない」「愛しているから、別れるなら死ぬ」等々。しかし、束縛は愛ではなく不信感から行うものです。不信感を向けられ続けると、しんどくなるのは当然です。愛しているなら、望まない妊娠のリスクは極力避けるでしょう。自殺をほのめかして相手を脅すのは、相手への愛情ではなく自己愛です。
ですが、DVが進行し、お互いへの依存が高まった状態になると「愛しているから暴力を振るう」ということのおかしさに気付けなくなっていきます。
女の子の将来を狂わせる、性的DV
「体の関係になったら、デートのたびに求められる」「セックスを断ったら彼が不機嫌になる」「避妊してもらえなかったので、妊娠が不安」といった相談を、若い女の子たちからよく受けます。積極的な同意のない性行為は、すべて性暴力です。性的DVには他にも、無理やり裸の写真を撮ったり、写真をインターネットに流したり、流すと脅すことなども挙げられます。なお、プライベートで撮影された性的な画像や動画をインターネットに流出させるのは犯罪です。元交際相手が、相手から拒否されたことの仕返しとして性的な写真をばらまく「リベンジポルノ」も元交際相手からの性的DVです。言うまでもないことですが、インターネットに流出してしまった写真を全て回収するのは不可能です。
在学中に妊娠すると、産むと決めた女の子は、学校を中退して、望んでいた進学や就職をあきらめざるを得なくなることがほとんどです。中絶を選択すれば心にも深い傷を残します。
「妊娠したら結婚しよう。学校を辞めて働いて責任を取るよ」と言われて避妊せずに妊娠し、彼が実際に退学して就職し結婚したとしても、それは「責任を取る」こととイコールではありません。責任ある行動とは、望まない妊娠を避けることです。学歴も社会経験もない男の子が、妻が出産後働けるようになるまでの間、ひとりで家計を支えるのは相当困難だと思われます。
しかし、「働いて親になる」という若者の無邪気な決意に、周囲の大人が賛同してしまうことも少なくありません。彼女や彼女の親も「父親になったら自覚もできて変わってくれるだろう。DVもなくなるだろう」という期待をしてしまうのです。
残念ながら、DVは「同棲、婚約、結婚、妊娠、出産」といった「相手が自分から離れにくくなるタイミング」でエスカレートします。また、若年夫婦は離婚率も高く、将来シングルマザーとして一人で子育てする可能性も決して低くはありません。
デートDVも、専門家に相談を
「結婚していないのだから、すぐに別れられるはず」というのが、デートDVについての大きな誤解のひとつです。しかし、行動を制限されることの多いデートDVでは、心理的な監禁状態になっていることが少なくなく、別れては元に戻るといったことを繰り返します。そのため周囲が「好きなのだろう。別れたくないのだろう」と放置するようになり、被害者は孤立していきます。エスカレートしたデートDVから逃げるには、被害者だけの力では難しく、親や学校など、周囲の大人の介入が必要です。DV被害を傍観することは「本人の意思を尊重する」こととは違います。
デートDVを受けている、あるいは周りに被害を受けている人がいる、といった場合には、DVに詳しい専門家に相談しましょう。 恋人の顔色を見てしまう、デートの約束が近づくと不安を感じるのは、デートDVのサインです。
女性の場合は、都道府県や市町村が設置している「男女共同参画センター」の女性相談やDV相談が利用できます。DVは、別れ話の際に最も危険な状態になり、加害者がストーカー化することも少なくありません。安全に離れる方法を、相談員と一緒に考えましょう。
内閣府が設置している「DV相談プラス」では、電話相談の他、チャットやメールでも相談できます。
男性の場合は、男性専用の相談窓口が各地に設置されています。
若い頃の恋愛は、その後の恋愛観にも大きな影響を与えます。対等で、お互いを尊重し合う関係を築いてほしいと思います。
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