新卒学生の4月一斉採用は本当に必要なのか
一方、JTBのニュースを聞いて再認識したのは、日本の新卒採用が4月入社の一括採用であることである。これは欧米やアジア諸国には見られない、日本独自のシステムである。一方、日本でも少しずつ変化の兆しはある。例えば外資系企業を中心に通年採用やジョブ型雇用が広がり、海外大学の卒業生を採用することを念頭に置いて、10月入社を導入する企業も増えつつある。実際、早稲田大学や国際基督教大学などでは4月入学以外に9月入学の募集もしており、国内大学にも入学時期や卒業時期の多様化が進む兆しはある。少子化によって、今後は若い世代の獲得競争に拍車がかかることを見越せば、採用方法の柔軟性を上げておくことは理にかなっている。
では新卒学生を毎年決まって4月入社で採用させることには、どのような理由があるのだろうか。企業にとって、終身雇用を前提とすれば同年齢の若手社員を定期的に採用することで、年齢層が均等化された組織作りをすることができる。
しかし世の中に転職社会が定着し、中途採用者の数が増加した今となっては、このメリットはあまり当てはまらない。採用活動を集中的に行えることや、新入社員研修を効率的に実施できることもメリットではあったが、逆に応募学生が集中しすぎて、じっくりと採用選考に時間がかけられないことで採用のミスマッチを増やすなどのデメリットもある。
働き方の多様化が進んだように採用の多様化にも変化が起きる
採用の多様化も進むか
コロナ禍で就活市場も混乱を極めており、これ以上、企業間で青田買いが激化して、それが大学生の不安を増長し、勉学を中心とした学生生活にも影響することを心配した末の措置である。10月入社や通年採用、そしてジョブ型雇用へのシフトが進む中で、新卒の4月入社を前提にした旧来の就活ルール維持がどれほどの意味を持つか、これからも注目していく必要がある。
就活学生にとって超人気企業であるJTBが2022年の新卒採用中止を決めた事の影響は大きかったが、業績回復の状況次第では、このコロナ禍を機に通年採用などの柔軟な新卒採用へのシフトを実行するかもしれず、そのことが新卒学生の心理に与えるインパクトはもっと大きいかもしれない。
コロナ禍によって在宅勤務など、いわゆる働き方の多様化は一気に進化した。オンライン会議などの導入で、社員のITリテラシーも向上した。長年続いた新卒の採用の慣習も、コロナ禍の衝撃がきっかけになって、今後急速に変化していく可能性もある。そうなれば、中途採用のあり方やキャリアの考え方にも変化が生まれるはずだ。その結果、日本の労働市場における人材の流動性や働き方の柔軟性は、今よりもっと進化していくのではないだろうか。
日本社会にも、ようやく働き方の多様化が実現しつつある中、採用の多様化が進めば、日本の労働環境はもっと余裕のあるものとなり、ワークライフバランスも改善されていくはずである。
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