コロナ禍の採用事情を象徴した2つのニュース
厚生労働省が2020年12月28日に発表した内容によれば、新型コロナウイルス感染拡大に起因する解雇や雇い止めは12月25日時点で、その見込みを含めて7万9522人とのことだった。これは全国の感染者数が過去最大を記録したタイミングと重なり、特に統計直前の1週間で前週より1783人増加した。この発表から約1カ月前、新卒学生から絶大なる人気を誇る有名企業の衝撃的なニュースが発表されていた。11月20日に旅行業界最大手のJTBが発表したところによれば、2021年3月までの1年間でグループ全体の赤字幅が過去最大となる1000億円に達する見通しであり、それに伴い早期退職などで社員の2割に相当する6500人、そして2019年度比で国内店舗数の4分の1に相当する115店舗を閉鎖、さらには国内のグループ会社10社以上を統合等で削減、海外拠点も190拠点を閉鎖する計画とのことだ。
このニュースと同じタイミングで、JTBは2022年4月入社の新卒採用の募集を行わないことも発表した。大学生の人気ランキングでは、毎年常にトップクラスにランクインする超人気企業だけに、落胆した学生は多かったに違いない。JTBの発表から約4カ月前の7月には、同じく就職人気企業であるANAとJALが新卒採用中止を発表していただけに、JTBの中止の発表は旅行業界の不振からある程度予想されたこととはいえ、旅行業界を志望しない就活生にとっても、2020年の就活に暗雲をもたらしたニュースであった。
コロナ禍の影響で解雇や雇い止めには正規労働者が目立ってきた
これら2つのニュースはコロナ禍の混乱が招いた出来事であるが、どちらのニュースも日本独自の雇用慣習があるからこそ注目度が高かったのではないだろうか。コロナ禍で解雇者増加のニュースの背景には、正規労働者の解雇の規制が日本では厳しいという背景がある。やむなく会社都合で解雇が行われるには、一定の条件をクリアしているかを個別に精査する必要がある。一方、昨今の全国的なコロナ禍の混乱を前にすれば、過去の日本の雇用の慣習にかかわらず、この状況下なら解雇が起きてもしょうがないというあきらめムードに支配されていることはないかと心配は尽きない。実際、12月25日時点の週間集計では前週より1783人の解雇者が増加し、12月に入ってから増加幅が拡大している。その内訳の7割に相当する1234人が正規労働者であり、残りの3割に相当する非正規労働者の549人の解雇者を大きく上回っている。
コロナ禍の影響にはいろいろなものがあるが、会社都合で解雇になる人が労働市場に急激に増えることが、今後コロナ禍が収まった後にも禍根を残す可能性がある。解雇要件は、欧米やアジア諸国と日本の間にはそれほど大きな違いはなく、あくまでも解雇する際の合理性や妥当性の判断が問われるが、過去の判例や解雇の実績も影響することがある。このため、コロナ禍という危機的状況であったにせよ、正規労働者の解雇者数の増加や、解雇要件の解釈が緩和される傾向が生まれかねないことには注意していくことが必要である。
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