表現者としての可能性が未知数の魅力(出典:Amazon)
生きることを切実に見せ続ける草なぎ剛の作品を振り返ります。
「いかに生きるか」を圧倒的に見せた『任侠ヘルパー』
目を背けたくなる高齢化社会の荒みを躊躇なく私たちに知らしめた『任侠ヘルパー』。2009年の連続ドラマのあと、2011年にスペシャルドラマが放送され、2012年には映画化されています。主人公の任侠・翼彦一を演じた彼の背中から感じるエネルギーと哀愁は作品の魅力のひとつ。ヘルパーという仕事を通して変化する表情からも目が離せません。『僕が生きる道』とは違う「生きること」の見せ方には彼の哲学すら感じます。エンターテイメント性を前面に押し出すのか、文学性に重きを置くのか芸術性に重きを置くのか、作品の色合いはそれぞれですが、鋭さとやわらかさを兼ね備えた彼にはどんな作品にも溶け込み、その世界観をすんなり体現する不思議なチカラを感じます。
一瞬で空気を変える彼の瞬発力も作品の生命線。彦一の魂が雄叫びをあげることもあれば、のみ込んだ激しい感情を無言のまま烈火のように感じさせることもあります。自由自在に演じるその奥の彦一の声を拾いあげる圧倒的な草なぎ剛を、ぜひ堪能してください。
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フジテレビ『任侠ヘルパー』
出演:草なぎ剛、黒木メイサ、山本裕典、薮宏太、五十嵐隼士、仲里依紗ほか
脚本:古家和尚
演出:西谷弘、石川淳一、葉山浩樹
プロデューサー:牧野正
エンディング:SMAP「そっと きゅっと」
そのいのちを、ただまっすぐに受け止めたい『僕の生きる道』
残された時間を懸命にまっとうした高校教師・中村秀雄を描いた2003年の『僕の生きる道』では、生きることの尊さを迫真の演技で見せています。最期のその瞬間まで、中村秀雄の体と心を体現するために彼がどう向き合い続けたのか、やせ細っていく体を抱えながら心はどう死を受け止めたのか、演じきった俳優・草なぎ剛に心が震えます。DATA
フジテレビ『僕の生きる道』
出演:草なぎ剛、矢田亜希子、大杉漣、小日向文世、谷原章介ほか
脚本:橋部敦子
演出:星護、佐藤祐市、三宅喜重
プロデューサー:重松圭一、岩田祐二
エンディング:SMAP「世界に一つだけの花」
すかした演技とシリアス演技を対比させ物語を深化させた『スペシャリスト』
土曜ワイド劇場で4回放送されたあと2016年に連続ドラマ化した『スペシャリスト』では、冤罪で服役した10年間に犯罪者たちの習性や手口などの記憶を蓄積、犯罪心理のスペシャリストとして活躍する主人公の刑事・宅間善人を演じています。やる気があるのかないのかわからない、飄々とすかした演技も彼らしく軽やか。それだけに彼を巻き込んだ事件の闇の真実が見えてきたときや、真犯人との心理戦などで見せる歪んだ表情が意味を増しています。苦々しさや痛々しさ、負の感情を押し殺しているかのような無表情に漂う哀愁が胸を刺しました。
少年事件を追いながら、その背景を真摯に模索する文部省(現在は文部科学省)の若きキャリア・風見勇助を熱演した1999年の『TEAM』は少年犯罪の残酷さも骨太に描いた力作です。こちらでも、バデイとなるベテラン刑事(高橋克実)に対して、すかして見せる草なぎ剛にクスっとしたりホッとしたりと大いに楽しめます。
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テレビ朝日『スペシャリスト』
出演:草なぎ剛、南果歩、芦名星、平岡祐太ほか
脚本:戸田山雅司、徳永友一
監督:七髙剛、及川拓郎、細川光信
音楽:横山克
医療指導:山本昌督
ゼネラルプロデューサー:横地郁英
プロデューサー:船津浩一、川島誠史、目黒正之、和佐野健一
劇画のようなはげしさと二転三転のスピード感にクギヅケ『銭の戦争』
『任侠ヘルパー』や『嘘の戦争』でも言えることですが、濃厚な復讐劇となった『銭の戦争』が、おじさん世代をはじめ男性視聴者に支持されたことは注目したいところです。昼ドラのようにドロドロしながらも壮大かつスリリングな復讐劇として成功したのは、「銭」ということばのインパクトそのままに、人間の持つ生々しさを熱く放出したことと、有利と不利が入れ替わる熾烈な展開においても草なぎ剛が冷静に”ことば”を届け、視聴者がメッセージを受け取ることができたから。回想シーンが多くなると、くどさを感じることもありますが草なぎ剛はそのさじ加減も巧い。赤裸々な激しさがある一方で、グッと感情を抑え、内なる高まりを引き算の演技で見せ、最後まで視聴者を引きつけています。愛にお金に二転三転するなか、新しい草なぎ剛を発見できるでしょう。
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フジテレビ『銭の戦争』
出演:草なぎ剛、大島優子、木村文乃、高田翔、新川優愛、志賀廣太郎ほか
原作:パク・イングォン『銭の戦争』
脚本:後藤法子
演出:三宅喜重、白木啓一郎、鈴木浩介
プロデューサー:三宅喜重、河西秀幸
エンディング:SMAP「華麗なる逆襲」
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フジテレビ『嘘の戦争』
出演:草なぎ剛、藤木直人、水原希子、菊池風磨、マギー、姜暢雄ほか
脚本:後藤法子
演出:三宅喜重、宝来忠昭、中西正茂
プロデューサー:三宅喜重、河西秀幸
実在した人物の魂を宿し、私たちに伝えてくれる『神様のベレー帽~手塚治虫のブラックジャック創作秘話~』
時代劇に限らず実在した人物を演じることも多い草なぎ剛。その人物の魂を宿す演技は絶品です。『神様のベレー帽~手塚治虫のブラックジャック創作秘話~』では、一見奇異にも見える手塚治虫の一心不乱な姿を織り交ぜ織り交ぜながら、豊かで無心な漫画への愛と好奇心を生き生きと表現しています。東洋のストラディバリと呼ばれたバイオリンの製作者・陳昌鉉を演じた『海峡を渡るバイオリン』では、鬼気迫る熱量に観ているこちらがおののきました。実話をベースにした物語ではエンターテインメント性を打ち出すのか、ドキュメンタリーとして見せるのかはさまざまですが、方向性にかかわらず作品の狙いをていねいに咀嚼し体現する彼の感性は秀逸です。演じ手によっては、ドキュメンタリーが苦手だったりコメディが苦手だったりするものですが、草なぎ剛にはそれがありません。だからといって器用なのかと言えばそれも違います。彼のお芝居は努力の賜物であり、日々努力をしているからこそ、演じる人物の魂が宿るのだ思います。
2018年放送の『未解決事件 file.06 赤報隊事件』(NHK)で演じたのは、赤報隊事件の真実を追う新聞記者。熟した演技で主人公の信念を誠実に力強く見せてくれました。色のない重厚なドキュメンタリーですが、余分なものをそぎ落とすことでジリジリとした緊張感を維持、視聴者の事件への探求心を駆り立てています。どの作品も、時代を生きた人物を鮮明に伝えるみごとな演技です。
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関西テレビ『神様のベレー帽~手塚治虫のブラックジャック創作秘話~』
出演:草なぎ剛、大島優子、田中圭、岡田義徳ほか
原作:『ブラック・ジャック創作秘話~手塚治虫の仕事場から~』(原作:宮﨑克、漫画:吉本浩二 /秋田書店刊)
脚本:古家和尚
演出:三宅喜重
プロデュース:安藤和久
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『海峡を渡るバイオリン』
出演:草なぎ剛、菅野美穂、オダギリジョー、田中邦衛、ふせえりほか
演出:杉田成道
脚本:池端俊策、神山由美子
音楽:岩代太郎
主題歌:中島みゆき「二隻(にそう)の舟」
切なくはかない物語をこんなにも美しく見せた『ミッドナイトスワン』
草なぎ剛演じるトランスジェンダーの凪沙と暮らす遠い親戚の一果(服部樹咲)が、バレエの才能を開花させていく『ミッドナイトスワン』。バレエをモチーフにした作品は少なくありませんが、その専門性からか演者の”がんばりました感”が先行し、バレエの持つ崇高さや気品がおざなりになることがあります。しかし、『ミッドナイトスワン』はすばらしかった。凪沙の揺れる肩、ヒールの足取り、メイクをする指先、こんな演技ができるものなのかと見入り、その美しさに草なぎ剛が演じていることすら忘れそうになります。憂いをまといながらこぼれる静かな声とあふれる愛は豊かです。
育児放棄、トランスジェンダーといった現代社会の生き難さが提示されるものの、明快な解決策は見つからないままですが、凪沙という美しい女性をしっかりと永遠に記憶にとどめておこうと思う気持ちが生まれることに、作品のやさしさと光を感じます。凪沙と一果が階段で一緒に踊るシーンが好きでした。こんなにやさしくて心が洗われるレッスンを見たことはありません。穏やかに心を通わせる風景をぜひ目に焼き付けてください。
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キノフィルムズ『ミッドナイトスワン』
出演:草なぎ剛、服部樹咲、田中俊介、吉村界人、上野鈴華ほか
原作:
監督:内田英治
脚本:内田英治
脚本監修:西原さつき
音楽:渋谷慶一郎
エグゼクティブプロデューサー:飯島三智
プロデューサー:森谷雄、森本友里恵
ラインプロデューサー:尾関玄