菅、義、偉の字の成り立ち、本来の意味はあまり知られていない
「菅」は中が空いた草のこと
まず「菅」の字の下側の「官」は、建物と開いた貝の絵を合わせたもので、いつも開いている公共の建物のことです。単独では役所をあらわす字として使われますが、ほかの字の中では「開く」「空く」という意味で使われています。中が空いている竹のクダを「管」と書きますし、開放された食事場所を「館」と書き、また空けたまま置いておくヒツギを「棺」と書きます。
クサカンムリをつけた「菅」は、茎の中が空いている草をあらわし、スゲ、あるいはもう少し広い範囲の一般にカヤと呼ばれる草のことです。私たちがよく目にするススキもその一種で、榧(かや)の木とは別のものです。菅、茅(かや)、萱(かや)は、同じような草をさしていると考えていいことになります。
カヤが茂っていた場所は、茅場町(かやばちょう)などの地名にも残っていますが、菅の字も全国の地名や名字にたくさん見られます。菅原さんという姓は地名からきたといわれ、菅原道真(すがわらのみちざね)が有名です。菅野(すがの)さんの場合は、女優の菅野(かんの)美穂さんのように、カンと読む場合もあります。そして首相になった人でも、菅(かん)直人、菅(すが)義偉と、読み方が違う人が出ているわけです。
ただ読み方がどうであれ、カヤは家畜の飼料や畑の肥料だけでなく、水を通しにくいので、菅笠(すげがさ)や茅葺(かやぶき)屋根にも使われました。まさに私たちの祖先の衣食住全体を支えていたものといえそうです。
「義」の字は筋道、けじめをあらわす
「義」の字の上側はヒツジの絵です。ヒツジは白くて緑の草原で見えやすいことから、「よく見える」の意味で使われました。洋(見通せる海)、鮮(あざやかな色の魚肉)、詳(わかるように言う)、翔(ハデに飛ぶ)、養(きちんと食べさせる)、祥(祈りの結果があらわれる)などの字に含まれています。
下側の「我」はモノをひっかく道具で、「はっきり分ける」ということをあらわし、また他人と分けられる自分の意味でもあります。
俄(突然あらわれる)、蛾(ハッキリした模様のムシ)、餓(食べ物と離れる)、峨(ギザギザの山)の字が作られています。
羊と我を合わせた「義」の字は、「はっきり筋道をつける」という意味をあらわします。
さらにこの字は、議(筋道にそって話し合う)、儀(筋道にそって行う)、蟻(計画的に動くアリ)の字にも含まれています。
「偉」の字は周りを人が動くこと
「偉」の字の右側の「韋」の部分は、モノと方向のちがう足を描いており、モノのまわりを行ったり来たりすることで、方向が変わること、往復することをあらわします。違(ことなる)、葦(いろいろな方向に伸びるアシ)、衛(行ったり来たりしながら守る)、緯(横向きに往復させる糸)、などの字に含まれています。
ニンベンと合わせた偉の字は、訓読みでは「えらい」と読みますが、私たちがふだん「あの人はえらい」という言い方で使う意味とは少し違います。周りを人が囲んで行ったり来たりするような、中心にいる重要な立場の人、という意味です。
実際は名前に使われることは非常に少ない字ですが、もちろん名前で生き方が決まったりはせず、偉の字が入っているから総理になったのではありません。