家庭内で多発する子どもの誤飲事故
子どもの誤飲事故は、思わぬ物で起こります。何でも口に入れてみようとする年齢は、特に注意が必要です
安全なはずの家庭内で多発する子どもの誤飲事故。2023年6月からは、誤飲リスクがあるおもちゃが新たに規制対象になります。子どもの誤飲事故について、わかりやすく解説します。
<目次>
- 誤飲事故の危険性……直径3.9cm以内は飲み込みリスクあり
- 誤飲による消化管異物の症状・対処法・硬貨・スーパーボールなど
- 子どものおもちゃも規制対象に! 「マグネットセット」「水で膨らむおもちゃ」
- ボタン電池誤飲は非常に危険! 2~3時間で胃に穴が開くことも
- 誤飲による急性中毒の症状・対処法……タバコ・医薬品・化粧品など
- 誤飲したかもしれないときの対処法・予防法
誤飲事故の危険性……直径3.9cm以内は飲み込みリスクあり
「誤飲」と「誤嚥(ごえん)」は似ていますが、「誤飲」は食物ではない異物を誤って消化管内へ飲み込んでしまうこと、「誤嚥」は異物や食物が誤って気道内に入ってしまうことをいいます。子どもに多いのは「誤飲」による事故です。誤飲が多く見られるのは1歳前から3~4歳前の子どもですが、間違えて飲み込んでしまうものは、シャツのボタンのようなごく小さなものだけではありません。3歳前後の子どもの口には、「直径が3.9cm以内のもの」はすべて入ってしまう可能性があるため注意が必要です。ちなみに、直径3.9cmはだいたいピンポンほどの大きさですので、多くの方がイメージされているよりもかなり大きいと思います。
また、誤飲は「消化管異物」と「急性中毒」の2つに分けられます。
「消化管異物」は、その名の通り、飲み込んだ異物が消化管内に入ったり引っかかったりしてしまうことで、毒性のない安全なものでも起こります。「急性中毒」は、洗剤などの化学物質、タバコ、大人の薬などを誤飲したときにみられます。それぞれ危険なものと対処法を解説します。
誤飲による消化管異物の症状・対処法・硬貨・スーパーボールなど
もしものどで引っかかってしまった場合は、気道を塞いで窒息のリスクがあるため、速やかに異物を取り除く必要がありますが、それ以外の消化管異物の多くは無症状のことが多いです。しかし異物が引っかかった位置や、飲み込んだ物の種類や大きさによって、痛み、嘔吐、吐き気、出血、飲み込みにくいなどの症状が出ることがあります。家庭によくある硬貨、おもちゃのコインやスーパーボールなどはのどや食道で止まってしまい、痛み、吐き気、飲み込みにくいなどの症状が出ます。ボタン電池や、小さなマグネットなどのおもちゃは、胃まで入ってしまいます(※ボタン電池の危険性については後述します)。
無症状の場合は、無理やり吐かせるのはやめたほうがよいでしょう。吐き出させる過程で気管内に入ってしまった場合、速やかに取り除けずに窒息してしまうリスクがあるためです。紙の切れ端や小さなビーズなどは、食品ではないですが毒性もありません。苦痛なく飲み込めたサイズのものは、いずれ苦痛なく便とともに排泄されます。胃よりも先の小腸の方まで移動した異物については、基本的には便として排泄されるのを待つことになります。
ただ危険性の低い物でも食道にとどまってしまった場合は、食道に穴があいてしまう危険性がありますので、異物を取る必要があります。小腸の方まで移動した異物は基本的に1~3日程度で排泄されますが、異物が腸につまったり、それにより腸が破れたりするようなリスクが生じた場合は、手術が必要になります。
子どものおもちゃも規制対象に! 「マグネットセット」「水で膨らむおもちゃ」
経済産業省は2023年5月16日、子ども向け玩具に対して、新たな規制を導入することを発表しました。強力で小さな磁石を多数用いてさまざまな形を作って遊ぶマグネットセットと水を吸収して大きく膨らむおもちゃは、販売が禁止されます。これは、『消費生活用製品安全法施行令の一部を改正する政令』の閣議決定によるものです。強力な磁石を複数個用いたマグネットセットと水を吸収することで大きく膨らむおもちゃは、2023年6月19日以降「特定製品」に指定され、販売できなくなります。消費者も購入しないよう注意が促されています。マグネットセットはすべて規制されます。
水で膨らむおもちゃ(正式には「吸水性合成樹脂製玩具」)は、乳幼児が誤飲して腸内で大きく膨らみ、開腹手術による摘出が必要となった事故が起こっています。マグネットセットでは、子どもが複数の磁石を誤飲し、腸壁を挟んで強力な磁石が引き合うことで、開腹手術による摘出が必要となった事故が報告されています。これらの事故が、今回の規制の理由になっております。
また、これらのおもちゃには、食道などで詰まってしまう危険もあります。
ボタン電池誤飲は非常に危険! 2~3時間で胃に穴が開くことも
また、危険性の高さがよく知られているのはボタン電池です。ボタン電池そのものを置いていなくても、小型の家電やデジカメ、ゲーム機などから外れて表に出てしまうこともあります。万が一飲み込んでしまったことに気づいたら、すぐに小児外科があるか子どもの内視鏡検査のできる救急病院を受診しましょう。ボタン電池は小さく丸いため簡単に飲み込め、胃に入ってもすぐには何の症状も出ないことが多いのですが、胃の中で一箇所にとどまると電池の内容物が漏れ出し、胃に穴を開けてしまう危険性があります。内容物が漏れ出すのは、水銀電池で4時間、アルカリマンガン電池、酸化銀電池で8時間、リチウム電池でわずか2~3時間です。種類によっては誤飲してからの時間が非常に短いため、至急対応する必要があります。
誤飲による急性中毒の症状・対処法……タバコ・医薬品・化粧品など
子どもの誤飲による急性中毒の多くは家庭内で起こっています。特に多いのはタバコ、医薬品、化粧品です。基本的には、子どもの手が届く場所にこれらの化学物質などを置かないことです。厚生労働省の調査によると、子どもの誤飲事故の原因製品としては、「タバコ」が281件(41.8%)、「医薬品・医薬部外品」が101件(15.0%)、「金属製品」が45件(6.7%)、「玩具」が44件(6.5%)、「硬貨」が32件(4.8%)、「プラスチック製品」が25件(3.7%)、「化粧品」が23件(3.4%)、「洗剤・洗浄剤」が22件(3.3%)、「乾燥剤」が14件(2.1%)、「電池」が14件(2.1%)でした(2004年度家庭用品に係る健康被害病院モニター報告)。
2018年度家庭用品に係る健康被害病院モニター報告では、「タバコ」130 件、「医薬品・医薬部外品」109 件、「食品類」77 件、「玩具」67 件、「プラスチック製品」44 件、「金属製品」
41 件、「硬貨」19 件、「洗剤類」18 件、「文具類」16 件、「電池」11 件で、タバコの割合が減っています。とはいえ、まだタバコが1例になっております。
タバコの誤飲は生後5カ月頃から見られ、8カ月頃の子どもに多いです。誤飲から2~3時間以内に吐き気、嘔吐、よだれ、顔色が悪くなるなどの症状が出てきます。3cm以下のタバコの誤飲であれば処置は不要なことが多く、誤飲から4~5時間経っても無症状であれば、基本的には心配ないと判断しますが、飲み込んでしまったタバコの量が不明で誤飲から2~3時間以内の場合、胃洗浄を行うこともあります。タバコを誤飲したときには、タバコの葉からさらに中毒成分であるニコチンが溶け出してしまうので、水を飲ませないようにしましょう。タバコの誤飲は同居する大人が喫煙しなければリスクをゼロにすることができます。
医薬品の中でも催眠鎮静剤、抗不安剤、精神神経用剤などの向精神薬、血糖降下剤(糖尿病治療薬)及び気管支拡張剤などを子供が誤飲すると、重い中毒症状を起こすので要注意です。
また、クレヨン、絵の具、口紅、石鹸、シャンプー、乾燥剤などはケミカルな印象があるためか、誤飲に驚いて病院を受診されることもありますが、これらは毒性が低いため、多くは処置は不要です。同じく、パラジクロルベンゼンなどの防虫剤、塩化カルシウム、生石灰などの乾燥剤、中性洗剤は、なめた程度、少しかじった程度などごく少量であれば、水を飲ますだけで、病院での処置は不要なこともあります。しかしいつもと違う様子が見られる場合は病院を受診しましょう。また、ごく少量ではなく明らかに食べてしまったのであれば、日本中毒情報センターで情報提供を受けた上で判断しましょう。
一方で、除草剤、漂白剤、トイレ洗剤、防虫剤、殺虫剤などは毒性が強く危険です。これらは治療が必要になりますので、基本的には絶対に子どもの手が届く場所に置かないこと。そして万一誤飲を起こしてしまったときには、胃洗浄を行うために1時間以内に受診することが望ましいので、場所によっては救急車を呼び、すぐに病院を受診しましょう。これも病院に受診するかどうかや病院受診までの処置(水などを飲ませるのかどうか)には、原因によって異なりますので、日本中毒情報センターで確認しましょう。
誤飲したかもしれないときの対処法・予防法
子どもが何かを誤飲してしまったかもしれない場合、万一窒息が疑われる場合はすぐに異物を取り除かなくては命に関わります。まずは救急車を呼びましょう。意識があるかどうかを確認し、もしも意識がなければ、心肺蘇生法を行う必要があります。意識があり、呼吸がうまくできていないような場合は一刻を争うため、助けられる人が自分しかいない場合は異物除去すべきケースがあります。1歳以下の子どもであれば背中を叩く「背部叩打法」。1歳以降の子どもであればこぶしを胃のあたりに押し当てて上に数回素早く押し上げる「ハイムリック法」が行えるようにしておきましょう。毒性の低い物の誤飲で無症状であれば、慌てずに、医療機関や救急ダイヤルなどに相談しましょう。驚いて無理に吐かせようとしないことです。原因物質については日本中毒情報センターで教えてくれます。
もし繰り返し吐く、胸を痛がるなどの何らかの症状があれば、医療機関を受診し、可能であれば誤飲したものと同じものを持参しましょう。
誤飲事故は防ぐことができます。
子どもの誤飲事故を防ぐためには、何よりもまず子どもの手の届く場所に危険なものを置かないことが基本です。そして子ども向けのおもちゃであるスーパーボールやマグネットなども含め、どんなものも子どもにとっては危険なものになりえます。家庭内にも誤飲事故につながるリスクが多く潜んでいることを念頭に、子どもが過ごす環境をより安全なものにできるよう、ぜひ一度チェックをしてみてください。