婚約破棄したものの、今も残るモヤモヤ……彼は私を愛していたのか

死別後の再婚

「生き別れにいっても死に別れにはいくな」とかつては言われたそうだ。離婚なら納得ずくだろうが、妻を亡くした男性は先妻に未練をもちがちで、もし結婚しても比べられるだけだから、と。そんな彼の気持ちを感じて、結婚はとりやめたものの、いまだにもやもやしたものが残ると話す女性がいる。

 

親には大反対されたけれど

18歳年上の男性と結婚を考えていたのは、サチコさん(35歳)だ。

「30歳のころ仕事関係で知り合った彼は当時、48歳。45歳のときに奥さんが病気で急逝したそうです。ときどき一緒に食事をしたり飲みに行ったりする関係が2年ほど続きました」

なんとなく今日は誰かと飲みに行きたいなと思ったときに限って、彼から誘いが来る。彼女から誘ったときも、彼は「今日あたり会いたかったんだ」と言ってくれる。そんなタイミングが積み重なり、サチコさんの32歳の誕生日に、彼から告白されたという。

「あなたには同世代の男性が似合っているはずだから、つきあってほしいと言うわけではない。ただ、僕があなたをとても大切に思って好きでいることだけわかってほしいと言われて。そんなこと言われたら意識しちゃいますよね。私も彼のことは好き、だけどそれが異性としてかどうかはわからずにいたんです。でも好きだと言われたことで、心に火がついたようでした」

少しずつ距離が縮まっていった。つきあい始めた当時、彼には遠方の大学に行っている21歳の長男と、大学1年生の次男がおり、彼は次男と同居していた。

「奥さんの七回忌がすんだところで、たまたま戻っていた長男くんも交えて家族に紹介されました。彼は『おとうさんが今、いちばん親しくしている女友だち』と言ってましたね。私もその紹介のしかたが気に入ったんです。すごく素直でストレートな子たちで、『つきあってるんですか』『結婚を考えているんですか』などと質問してきて。まだわからないと答えるしかありませんでしたけど、なごやかな食事会でした」

33歳の誕生日に、ついにプロポーズされた。手のかかる子どもがいるわけでもないし、つきあっている期間、彼には本当に大事にしてもらってきたという実感があったので、彼女も結婚に気持ちが傾いていく。

「私は実家住まいでしたから、親にも結婚しようと思う相手がいると話しました。すると親は大反対。とにかく年が違いすぎる、子どもは産むのか、結婚したとたんに介護になるのではないか、ともう矢継ぎ早に質問攻めで。親は60代で、自分たちはまだまだ元気なのに、どうして娘が結婚する50代の彼がすぐに介護を必要とするのか(笑)。まあ、親としては心配だったんでしょうけど」

彼は何度も実家に来てくれ、両親と話をする機会を得た。両親も彼の誠実さに徐々に心を開いてくれたという。結婚にあたって支障はなくなった。

 

先妻の名前を知って

結婚を決めてから、サチコさんは初めて、彼に先妻とのなれそめやどういう人だったのかを聞いた。それまでは無責任に先妻のことを聞くのは悪いと思っていたのだ。

「迂闊だったんですが、先妻さんの名前がサチカだったんです。彼は私のことを“サチちゃん”と呼んでいた。でもそれ、先妻さんの呼び名でもあった。そのことを初めて知ったんです。あれ、と思いました。呼び名を同じにしたのは、彼の先妻さんへの未練かな、と」

いったんそう思い始めると、「彼の先妻への未練」をあちこちに見いだすようになった。彼がときどきテーブルに飾っている花は、私のためではなく先妻が好きだった花ではないか、ブルーのニットを着ているときすごく似合うと言ってくれたのは、先妻がブルーの似合う人だったからではないか、などなど。

「妄想かもしれませんが、当時はそんな思いがどんどん募って苦しくなっていきました。次男くんが私を慕ってくれていたので、それとなくどんな両親だったのかと探りを入れてみたんですが、“ごく普通でしたよ”という程度の答えしか返ってこなくて」

彼と婚約はしたものの、サチコさんの気持ちは晴れない。悶々としたあげく思いあまって彼に、「前の奥さんのこと、今、どう思ってるの」と聞いてしまった。彼は「いい妻だったよ」とひと言だけ。彼女は、「これからはサチコのことだけ考えると言ってほしかった」と言う。

「本当に結婚していいかどうか。そこから悩むようになってしまった。彼は結婚したら次男は近所でひとり暮らしをするから、ふたりきりでいられるよとか、新婚生活を楽しみにしているようでしたけど、私は『私でなくても、彼は新婚生活が送れることが楽しいんじゃないか』と考えるようになっていきました。自分に自信がなかったんでしょうね」

自分の彼への愛情についても自信がもてなくなっていったのだろう。34歳のとき、彼女はついに彼に婚約を白紙に戻してほしいと伝えた。

「その直前、親友に子どもが生まれたんですよ。会いに行って、親友と同い年の夫と赤ちゃんの3人を客観的に見たら、私が彼と結婚したらこういう幸せはないんだなと思ったんです。彼は子どもはほしがっていなかったから。それでも親友の話をしたら彼が、『もし僕たちにもできたら、そのときはしかたがないよね、育てるしかない』って。しかたがないから育てるってひどい言い方。彼は自分の年齢で子どもを育てるのは無理だと言いたかったのかもしれないけど、それが決定打になりました。先妻さんとの子は大事にしていくけど、私との子はいらない。できたら『しかたがないから育てる』。それはやはり傷つきました」

どうしてもやっていけるとは思えない。そう伝えたとき、彼は顔を苦しそうに歪めたが、彼女を問いつめたりはしなかった。

その3ヶ月後、彼の次男くんから連絡があった。彼はあれからうつ状態となり、入院しているという。

「オヤジはあなたを心から愛していた。僕から見ると、僕の母親よりあなたのほうを愛しているように見えて、ちょっとおもしろくないところもあったくらい」

そのメッセージを読んだとき、サチコさんは泣き崩れたという。自分は先妻より愛されていないと不信感を抱いたが、先妻の息子である次男くんにはまた違う思いがあったのだ。

「今さらどうしようもないことですが、今もチクチク心が痛みます。私が彼の後半生を狂わせてしまったのかもしれない。もっと話し合えば、私が納得するような言葉を彼からもらえたのか。あるいは婚約解消が正しかったのか。何度考えてもわからない」

あれから1年、サチコさんの心はあのときから止まったままだ。


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