家事

with/afterコロナ時代の家事

世界的に、社会的に。私たちの暮らしを根幹から多面的に、前代未聞のレベルで揺るがしたコロナ禍は、家庭における「家事」のあり方も変えた。しかしそれはもうすでに変わっていた物事の可視化でしかない。私たちが直視すべき家庭の、家事の現実を直裁に記す。

藤原 千秋

執筆者:藤原 千秋

家事・掃除・子育てガイド

コロナ禍のせいで家事が増えた?

洗濯物

在宅している家族が多い、だから家事が増えた? どうして?

 


さる2019年11月、中華人民共和国・武漢市で発生したとされる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。この日本国内での流行は、2020年の私たちの暮らしを、根幹から、多面的に、前代未聞のレベルで揺るがしました。
 
人から人へと転移していくウイルスを断ち切るがための、ソーシャルディスタンシング、そしてステイホームといった大号令。私たちは、たとえ要請レベルではあっても、そして生活ダメージが決して小さくなくても、学校の臨時休業を、不要不急の営業自粛を、三密回避のテレワークを、防疫上の理屈に見合っている限り粛々と受け入れてきたのでした。
 
生活の大変動。家事においてもそれは然り。
 
市場からみるみる消え去っていく生活雑貨をなんとかして手に入れること。頻繁に買い物に行けなくなった食料品をなんとか手配し続けること。外食も中食もレトルト食すら不自由するなか、これまでの何倍もの時間、台所に立たなくてはならなくなった家事従事者は多いはずです。
 
それ以外にも在宅人数と在宅時間に比例して汚れが酷くなる家。コロナを侵入させたくないゆえの消毒・掃除にかかるプレッシャー。乳幼児保育の自粛、さらには児童生徒の学習ケアまでが重なるなど、あらゆる家事の増量ぶりに“自分史上最悪”の高負荷、高ストレス下にある方も少なくないのではないでしょうか。

ふと、問いたくなる。「なぜ、私にばかりこの負担が…?」。

でも待ってください。エッセンシャルワーカー(生活を営む上で欠かせない仕事に従事している人)でない限り、在宅している家族が普段より多い…ということは…むしろ家事に勤しめる人員は増えているはず…ですよね?

 

家事とは何か

家事ってなんでしょう? 一度ザックリおさらいしてみましょう。

一説において「家事の“さしすせそ”」、つまり家事とは、「さ」いほう(裁縫:衣類や寝具のケア)、「し」つけ(躾:子どもの教育)、「す」いじ(炊事:食事作りや食材の確保)、「せ」んたく(洗濯)、「そ」うじ(掃除)といった内容を網羅する営みである、という定義があります。

しかし家庭内で行われる家事は基本的にアンペイドワーク(金銭的な対価を伴わない仕事)であり、往々にしてペイドワークに比べて低く見積もられがちであるといわれています。

もちろん反論もあるでしょう。でも正直な気持ちとして、家事を全て引き受けたい、喜んで家事をしたい、と、どれほどの方が考えておられるものでしょう…?

ペイドワーク含め社会的な仕事が店舗であるなら、家事はバックヤード。社会的な顔が俳優であるなら家事はマネージャー。家庭はいわば楽屋であり、そこでの仕事は基本的に人目に触れることはありませんし、その必要もありません。

各家庭ごと、完全な分業がなされているならそれも合理的です。問題は、現状家事に従事している人の大半は、「自分で自分をマネジメントしながら、さらに同業者数人分のマネジメントまで引き受けている売れっ子」ばりの無理な働き方を余儀なくされている。その上に乗っかってきた現コロナ禍である、ということです。

そもそも家事は趣味や娯楽ではなく、私たちが生きるために欠くべからざる、本質的、まさにエッセンシャルな仕事です。つきつめれば先の「さしすせそ」の要素あまねく、生命をつなぎ、健康を守ることこそが主目的であり、それ以外の作業…要素は、ひらひらした装飾にすぎません。

コロナ禍が不要不急と軽視する「ひらひら」が、ときに人の心をほぐし、豊かにする側面に疑いはありません。しかし有事にも装飾に固執すべきなのか? 実にそのことによって家事に疲弊している向きも実際あるのではないかと懸念しています。
 

家事の「ニューノーマル(新常態)」を求めて

 
生ゴミ

ゴミの始末は誰の仕事?

 

共働き家庭数が専業主婦家庭数を超えた(※1)、ここ20年間ほどの家事周りの言説を定点観測してきて気付いたことがあります。

「ネオ家事」「ゆる家事」「ラク家事」「やめ家事」「時短家事」「名もなき家事」「家事シェア」といった、メディア発のコピーは、実はどれもが「もうこれ以上がんばらなくていいよ」「装飾を無くそう!」という方向性のメッセージを発しています!

けれども、家事従事者…受け手は「よりいろいろ頑張らねばいけない」と、なぜか真逆に読み取ってしまうのです。

この、意図がすれ違う根深い理由は、経済高度成長期に勃興した専業主婦による、趣味的・娯楽的家事幻想にあると私は考えています。あの時代の豊かすぎる思い出が「ちゃんと!」という幻聴とともに蘇り煽る。でも、専従家事従事者は家庭にいないのです。

未曾有の有事。もう「自分で自分をマネジメントしながら、さらに同業者数人分のマネジメントまで引き受ける」スタイル、家事の属人化、負担偏重は終わりにしませんか?

私たちは家事の本質が「生きるための営み」にある前提で、家にいる全ての人員による「家事のニューノーマル」を、今あらためて築いていかなければならないときにきているのですから。


(※1)専業主婦世帯と共働き世帯の推移 - 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000118655.pdf
 

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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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