亀山早苗の恋愛コラム

家に居場所がない ……専業主婦の私に価値はあるのか

人にはそれぞれ、持ち場や役割があるといわれる。だが、誰もがそのことに自覚的で自信をもっているわけではない。家に居場所がないと感じる専業主婦の方も多いもの。「人の存在意義」とは、何かをしなければ成立しないのか……。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

恋愛ガイド

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家に居場所がない……専業主婦の悩み

家に居場所がないと悩む専業主婦

家に居場所がないと悩む専業主婦

人にはそれぞれ、持ち場や役割があるといわれる。だが、誰もがそのことに自覚的で自信をもっているわけではない。自粛生活の中で、自分の居場所を失ったような気持ちにかられた女性がいる。
 

専業主婦の立場って……

「前から専業主婦って立場が弱いなと思っていたんです」

そう言うのは、マリさん(42歳)だ。結婚して13年、11歳を筆頭に、8歳、4歳の子がいる。5歳年上の夫は、父親が経営する会社で副社長として働いている。

「そう言うと聞こえがいいんですが、小さな企業です。決してお金があるわけではありません。私たちが住んでいるのも築40年の古いマンションです」

親戚の紹介で知り合って結婚を決めたのだが、会社員だったマリさんは仕事を続けるつもりでいた。仕事が好きだったし、万が一、夫の会社が倒産しても自分が働いていればなんとかなると思ったからだ。

「でも2番目の子が体が弱かったんです。同じ頃、夫の母が倒れて長期にわたって療養が必要となりました。夫はひとりっ子なので、誰もめんどうを見る人がいない。悩みましたけど、私しかいなかったから、退職せざるを得なかった」

幸い、義母は徐々に回復、2年かけて身の回りのことはできるようになった。体が弱かった子も、徐々に元気になっていった。

「パートでもいいから仕事に復帰したいと思ったんですが、3番目ができてしまって(笑)。夫も子どもが大好きなので、私は家庭に専念しようと腹を決めました」

幸い、夫の会社は大もうけをすることもなかったが、世間の景気に左右されて仕事が減ることもなく、着実に経営できている。

「ただ、夫は仕事が好きなんでしょうね。何かアイデアを思いつくと、時間を忘れて没頭しちゃうところがあって。子ども3人の育児や家事は私ひとりで切り盛りしてきました」

そこに不満がなかったわけではないが、「うちは役割分担しているんだ」と自分に言い聞かせた。実質的な協力はしないものの、「いつもありがとう」と夫が言ってくれるのも救いだった。

「子どもが学校に行くようになると、周りのおかあさんたちはみんな仕事をしている。専業主婦は肩身が狭いなあとつくづく思いました。PTAの仕事なんかも押しつけられちゃいますね。断りようもないし」

それでも自分の居場所は家庭だと割り切ってがんばっていた。
 

自粛生活に入って

新型コロナウイルスの影響は、マリさんの夫の会社にも及んだ。

「取引のある企業がみんな在宅勤務になって、義父と夫も話し合って社員は基本的に在宅としたのが4月に入ったころ。夫は週に2回ほど会社に行っていましたが、基本的には家で仕事をするようになりました」

そこで発揮されたのが夫の意外な家事能力だった。今まで全部任せていたから、と張り切った夫は朝食を作ってくれ、洗濯や掃除を終わらせてから仕事にとりかかる。

「昼食は私が作っていましたが、午後になると夫は子どもたちを連れて外に出かけていき、帰ってくると仕事をしながら夕飯を作ってくれる」

そんな話を昔からの友人たちのグループにLINEで報告すると、「羨ましい」の嵐だった。だけど、とマリさんは小声になる。

「夫はリビングに陣取って仕事をしていたんです。家事もして仕事もして、子どもたちの勉強も見て。日頃から、家事も育児もで大変だわと愚痴っている私へのあてつけなのではないだろうかと思うくらい、鮮やかに全部こなしている。子どもたちも私といるときより楽しそうなんですよね。それを見ていると、私なんかいなくてもいいんじゃないかと思えてきて……」

ただでさえ外の世界では肩身の狭かったマリさん、今度は家の中でも自分の居場所を失ったような気持ちになっていった。

「どんどん鬱々としていくんです。夫が盛り上げようとすればするほど、ありがたいと思う半面、私の存在価値がなくなっていくような気がして」

夫に本音は言えなかった。ひとりで抱え込んでひとりで苦しんでいた。そんなとき、ようやく緊急事態宣言が解け、夫の会社も少しずつ日常を取り戻すようになった。

「まだ社員の半分は在宅だし、希望者は在宅でやっていくようですが、夫はほぼ毎日、出社するようになりました。今まできちんと整理しきれなかった仕事もたまっているようで忙しそうです。子どもたちも学校が始まって、私も徐々に自分の居場所を取り戻している。だけど、やはり私がいてもいなくてもいいんだという気持ちは払拭できません」

今日こそ、その気持ちを夫に話そうと毎日思っている。だが、疲れて帰ってくる夫の顔を見ると言えなくなる。その繰り返しだという。

「いちばん下が学校に入ったら仕事を始めようか、あるいは今のうちに何か資格をとっておこうか。いろいろ考えるんですけど、『私の居場所は家庭内で確立しているわけではない』ことは頭に入れておこうと思っています。そもそも、人生は結婚して家庭を作ることだけではないと考えていたのに、いつの間にか家庭に取り込まれてしまっていた。もちろん、子どもを育てたり家庭を維持していくことは重要なんだけど」

そうやって考えていくと、頭の中がぐるぐるしてしまうんですよねと彼女は小さく笑った。

「人の存在意義」とは、何かをしなければ成立しないのか。存在していることそのものに意義があるとは考えられないだろうか。彼女の思いがけない苦悩を聞きながら、私自身も考え込んでしまった。

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