映画

「生き方」だけでなく「死に方」を直球で問う実話を基にした名作『ブレス』

ご家族の介護に取り組む方にとってヒントとなる情報を発信している介護福祉士ガイドの小山朝子さん。ヒントを与えてくれるような映画についても積極的にイチオシしてくれています。今回紹介してくれたのは、自身の経験を重ねたという実話ベースの映画です。

小山 朝子

執筆者:小山 朝子

介護福祉士ガイド

breath

車いすに乗った患者たちが列をなして街に出るシーンも印象的
 

胴体を大きな箱に入れられ、首から上だけを出した患者がズラリと並んでいる病棟の光景――。そのシーンを見たとき、私はかつて祖母が入院していた病院の光景を思い出していました。

高齢の患者たちは箱にこそ入れられていないものの、胴体や手首にベルトを装着させられベッドに縛られていました。鍵付きのつなぎ服を着せられていた人もいました。介護現場では、このように高齢者の自由を奪うことを「拘束」と呼んでいます。私たち家族はこの病院からなんとか祖母を“脱出”させようと試みたことがありました。

このようなかつての苦い体験と重なり、私にとって忘れられない作品となったのが、実話に基づいて制作された映画『ブレス しあわせの呼吸』です。

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余命わずかのタイミングで主人公が下した決断

出張先でポリオを発症した主人公のロビン。彼は首から下が麻痺して自力で呼吸ができなくなり、人工呼吸器を装着して病院のベッドに寝ているだけの状態に。やがて、彼は「2週間で死んでしまう」と止める医師に抗い、妻とともに自宅へ帰ります。この決断が彼の運命を大きく変えていくのですーー。
 

病院から自宅に帰って取り戻した笑顔

ちなみに、本作の製作がロビンと妻・ダイアナの実の長男、ジョナサン・カヴェンディッシュ(『ブリジット・ジョーンズの日記』などを手がけた名プロデューサー)であるというのも感慨深いものがあります。

現在、在宅医療の現場を取材していると、人工呼吸器を装着しながら自宅で生活している方にお会いする機会は珍しくありません。私自身も気管切開をした祖母とともに自宅で暮らしてきましたが、病院では見られなかった祖母の笑顔を見て、自宅に戻るという選択をしたことの迷いがなくなったように思います。

この映画で描かれているのは1950年代のこと。時代の流れとともに医療も進歩し、人工呼吸器を装着していても自宅で生活ができ、旅行も楽しめる時代になりました。とはいえ、当事者・家族からすると、今もなお車いすやストレッチャー(寝台)の人が外出しやすい社会的基盤の整備はまだ整っていないと感じる面もあります。
 

超高齢社会の課題をも問う衝撃的なラスト

28歳で余命数ヶ月を宣告されて36年。彼は妻や息子、友人たちの愛情を受けながら「呼吸」し続け、自らの人生を切り開いてゆくのです。この映画は体の不自由な主人公が生きる希望を見い出す感動的なストーリーに終始するのみならず、尊厳死(人が人としての尊厳を保ったまま迎える死のこと)についても問題提起しています。

あなたはどのように生き、どのように死にたいですかーー。

このシンプルかつ難解な疑問を、この映画から直球で問われた気がします。
 
DATA
ブレス しあわせの呼吸

監督:アンディ・サーキス
出演:アンドリュー・ガーフィールド、クレア・フェイ
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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