「湿疹の原因が梅毒だった」は、皮膚科の診療現場でも珍しくないケース
「湿疹が出たので皮膚科を受診したら梅毒だった」……診療現場では珍しくないケースです
「梅毒」は最近増えている性感染症という認識があるかと思いますが、実際にどのような症状が出るかご存知でしょうか? 意外かもしれませんが、皮膚の発疹から梅毒の診断がつくことは珍しくありません。湿疹やじんましんのように見える赤い発疹が出て皮膚科を受診し、梅毒だとわかることは稀ではないのです。
私の診療経験では、男女問わず20~30代の若めの患者さんで、体を中心に全身に赤みが出現して皮膚科を受診され、採血で梅毒と診断したケースが多いです。今回は、どのようなときに梅毒を疑うべきかを解説します。
梅毒とは……初期症状は陰部の潰瘍・皮膚全体に多発する赤み
そもそも梅毒とは、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)という特殊な細菌が原因の感染症です。性交渉で感染する性感染症の一つとして知られています。古くからある感染症ですが、近年増加傾向であることがニュースでも報道されています。梅毒の初期症状は、感染から3週間程度で起こる、陰部の痛みを伴わない潰瘍(えぐれた傷)です。通常は1箇所のみで痛みもなく、膣や肛門内にできることも多いため気づかれないこともあります。梅毒と違い、ヘルペスによる水ぶくれやキズは痛みを伴います。
この最初の症状から数週間して、皮膚全体に赤みが多発する症状が出現します。この時点で初めてクリニックを受診する方が多いです。通常かゆみはなく、手のひらや足の裏にまで赤みが出現するのが特徴です。一部がガサガサしていることもあります。若い患者さんで手のひらや足の裏に赤みがあり、かゆみのない発疹の場合、採血して梅毒が陽性になることは稀ではありません。
梅毒が未治療の場合、長い潜伏期間を経て神経や心血管に影響を及ぼすことがあります。抗生剤の治療が開発される前まで、梅毒は致死率が1割という病気でした。現在は抗生剤で適切に治療することが可能です。未治療で長期間放置すると臓器に影響が及ぶことも多いので、早期治療が肝心です。
梅毒の皮膚症状の症例画像
赤みが体(胴体部分)から始まり、腕、脚と全身に広がるのが特徴です。特に、手のひらや足の裏まで赤みが出ることが多いです。手のひらや足の裏まで広がる全身の赤みがある場合、梅毒を疑う必要があります。痒みは通常はありません。表面のガサガサを伴うこともあります。
梅毒と似た皮膚症状が出る病気・違いの見分け方・特徴
■湿疹体から腕にかけて出た湿疹。赤みが全身に出ることは稀
■ジベルばら色粃糠疹
比較的若い方に多く、体を中心としてガサガサした丸い赤みが多発します。かゆみはあることもないこともあります。2ヶ月程度で消失してしまう特殊な病気ですが、自然に治るので心配はありません。手のひらや足の裏には通常赤みが出ません。
■乾癬 体、腕、脚と全身に丸い赤みと強いガサガサが出現するので、梅毒と見分けが難しい場合があります。ガサガサが強いこと、赤みだけでなく厚みをもって盛り上がることもある点、などは梅毒と異なります。
■水虫(白癬)
体部白癬といい、体に丸い赤みが出現することがあります。この場合は足に水虫があったり、ネコを飼っていて水虫がうつったりと、水虫を疑うほかのサインがあることが一般的です。また、水虫でも全身に赤みが出ることは稀です。
梅毒が疑われる皮膚症状が出た場合、何科を受診すべきか
梅毒は泌尿器科や産婦人科で診断されることも多いですが、皮膚症状がある場合は、まずは皮膚科を受診するのがいいでしょう。性感染症かもしれないのに皮膚科を受診してよいのか躊躇われる方もいるようですが、皮膚症状から梅毒を疑う所見があれば、皮膚科でも血液検査で診断を確定することができます。「もしかしたら梅毒ではないか?」と不安を抱えている方へ
皮膚の病気は見た目や採血だけでは判定が難しく、皮膚を一部切り取る検査が必要なものもあります。その点、梅毒は血液検査でわかるので、比較的診断が容易な病気と言えます。梅毒は適切な治療をせずに放置してしまった場合、臓器に影響を及ぼす可能性もあります。抗生剤の使用により皮膚科で治療まで行うことができますので、不安を抱えている方はまずはお近くのクリニックを受診してください。