ドラマ

視聴者にとって“しっくり”くる、ドラマの最終回って?

オリジナルの脚本が目立った秋ドラマ。最終回は視聴者にとっても物語がどうなるか気になるもので、理想形はあるようだ。その思いにどう応えるかはドラマにとっての永遠の課題と言えるかもしれない。

竹本 道子

執筆者:竹本 道子

ドラマガイド

物議を呼ぶ最終回はめずらしくない。教師と教え子の結末を視聴者に委ねた『高校教師』(1993年/TBS系)や、主人公が正義と悪の境界線を超えてしまった瞬間に幕を下ろした『BORDER』(2014年/テレビ朝日系)など、重石をズンとのせられる最終回はたしかにあった。どうあるべきか正解はないものの、視聴者にとって「見たい」最終回はありそうだ。
 

最終回で視聴者の想いに応えたドラマ


散りばめられた伏線、複雑化する社会問題、ただハッピーエンドにすれば視聴者が満足かというとそうでもないのが昨今のドラマ。最終回の完成度を高めるのは脚本だけではないが、オリジナル作品が多かった昨クールでは、物語の結末を知る視聴者はいないわけで、宮藤官九郎、黒岩勉、金子茂樹といった熟練の技は印象的だった。

 
最終回

  宮藤官九郎の脚本がみごとだった『いだてん』


行き来する時代がわかりにくいという意見もあったが、最終はみごとだった『いだてん』。時代が放つエネルギー、躍動感、すべての登場人物たちの人生を足早ではあるが、愛しくチャーミングに魅せきったのはクドカンならでは。伏線の回収はもちろんだが、新しい時代をつくろうと尽力した人たちの悔しさや哀しみまでを細やかに紡いだ脚本はことに印象的だった。

言葉の応酬だった『俺の話は長い』のクライマックスでは、ただ涙を流しながら歩く主人公の姿を描いた金子茂樹の巧さが光った。一見自信家にも見えるニート・満(生田斗真)の素直な想い、家族や街の人の声、うまくないロッキーのテーマ、何もかもが胸にしみる温かい最終回は絶品だったと言えるだろう。

一方、エンターテインメントの面白さを惜しみなく見せたのが黒岩勉の『グランメゾン★東京』。料理の世界をエネルギッシュに繊細に描き、鮮明な映像も加わって視聴者を最後までひきつけた。登場人物たちに無理なく青春をクロスさせた世界は圧巻、尾花夏樹(木村拓哉)ではなく早見倫子(鈴木京香)のスピーチで締めくくられる運びも粋である。

おそらく視聴者はハッピーエンドへの想いと同時に、「そうきたか……」のひとつ上の物語への期待があるのだろう。

 

最終回に課題を残した秋ドラマ


意味深な結末で視聴者を刺激する、次作に誘導する、思惑が渦巻く最終回は意外に難しい。物語が佳境に入り完成されていく視聴者のムードと制作サイドの手引きが合致しない場合があるからだ。
 
秋ドラマ

  最終回、楽しくざわついた作品でもあった『シャーロック』


「守谷は誰だ?」で早い段階から盛り上がった『シャーロック』の最終回は珍事と言えそうだ。本物か偽物かは謎だとしても、登場した犯罪者たちが傾倒する主人公の宿敵・守谷と、視聴者が(勝手に)膨らませてきた守谷像との差異にネット上ではトホホが充満。新しい時代のドラマの見方を改めて痛感した。しかし、興ざめさせることなく、洗練の世界観を維持させた井上由美子の脚本は素晴らしい。

賛否両論となった『同期のサクラ』。遊川和彦がかつて描いた『十年愛』(1992年)と同じく1話で1年の手法だが、時代が抱えたテーマは明確に伝わってきたものの最終回に向かってグイグイと加速するタイプの作品ではなかった。伝えたいことを何度も繰り返す手法に歯がゆさを感じる視聴者もいて、好みが分かれただろう。最終回=クライマックスとすることが是かは別としても、物語のスピードをどうコントロールするか、難しさを感じた。

『ニッポンノワール』にも課題は残った。視聴者の好奇心を背景に盛り上がることは間違いないが、スッキリと謎解きで終止符を打つか、最後に”意味深”を絡めるのかが、ここも難しいところ。一貫したメッセージを見つけきれないと、スピード感ある展開では傍観者的な立ち位置になってしまい、意味深に対しての興味が薄れるのかもしれない。



最終回は難しい。狙いすぎると視聴者は離れてしまうし伏線が残ることを嫌うが、シンプルばかりでは「どこかで見たような」と印象に残らない。SNSで視聴者の雰囲気が確立され、制作サイドの想いと違う方向に流れることもあるだろう。最終回をどうするか難しいところだが、令和のドラマで新しい形が誕生するはずだ。
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