不妊症

産後の抜け毛がひどい……原因と対策法

【漢方薬剤師が解説】産後の抜け毛は、急激なホルモンバランスの変化が原因で起こります。シャンプーのたびにごっそりと抜ける髪に、不安になる女性は少なくありません。市販薬は効きにくいので、産後の回復を助けることで抜け毛を防ぐアプローチが大切です。詳しく解説します。

住吉 忍

執筆者:住吉 忍

薬剤師 / 妊活サポートガイド

産後の抜け毛がひどい……薄毛にならないか不安

産後の抜け毛イメージ

産後、急激に増える抜け毛に不安を感じる女性は少なくありません


私の担当する漢方外来では、 妊娠前から、妊娠中、産後までご相談をお受けしています。産後に多く寄せられるご相談の一つが「抜け毛」に関するものです。
 
産後の抜け毛はごっそりと抜けることが多く、シャンプーの後で排水溝に溜まった抜け毛の量にショックを受けてしまったと話される方もいらっしゃいます。いずれ落ち着く症状ではあるものの、薄毛が気になり帽子が手放せなくなった、おしゃれが楽しめなくなったと言う声も多いので、できる限りの対策をお伝えできればと思います。
 

産後の抜け毛の原因は「ホルモンバランスの変化」・市販薬の効果は?

産後の抜け毛は、ホルモンバランスの変化によって毛髪サイクルが変化することが原因で起こります。妊娠中に分泌が盛んになる女性ホルモンのエストロゲンには、抜け毛を防ぐ作用があります。そのため妊娠中は、サイクル的には抜けるはずだった毛髪が残りやすくなります。その分、産後にエストロゲン分泌が急激に減少すると、それまで抜けなかった毛髪も含めて髪がごっそりと抜けてしまうのは、珍しいことではありません。

また、一般的な抜け毛とは異なるため、「抜け毛を防ぐための薬!」と直接的に抜け毛を減らす方法が効きにくいという特徴もあります。以下で詳述しますが、漢方薬などの薬を使用する場合も、直接的に抜け毛を止めるのではなく、産後の回復を助けることで抜け毛を防ぐというアプローチになります。
 

産後の抜け毛を減らす生活習慣・食事のコツ

エストロゲンの急激な減少を防ぐことはできないため、根本的な原因を解決することは難しいのですが、中医学では産後の体調、ホルモンバランス、生活習慣や栄養状況も、抜け毛や髪が痩せてしまうことに影響すると考えますので、この部分からのアプローチは可能です。
 
1. 産後の体調
中医学では、女性はお産により気血(生命エネルギーや、血を含む栄養素)を消耗すると考えられています。「産後の肥立ち」と言う言葉がありますが、産後3ヶ月はその消耗した気血を養うために、ゆっくりと養生(体に優しい生活習慣)することが大切です。
 
この時期にしっかり養生ができない場合には、産後の不調が長引いて気血が充足しないため、抜け毛が増えたり、髪が痩せてしまったりすることの原因となります。このような時には、十全大補湯や人参養栄湯など補気、補血作用が多く入った処方が効果的なことがあります。
 
2. 産後のホルモンバランス
上記でも書きましたが、産後は大きくホルモンバランスが変化するので、その変化に伴い抜け毛が起きます。さらに、ホルモンバランスの変化により、疲労感を強く感じたり、情緒が不安定になることでストレスがあり、それらも抜け毛をさらに助長させます。これらのホルモンバランスの変化には、芎帰調血飲第一加減 などの処方が効果的なことがあります。
 
3. 産後の生活習慣
産後はどうしても赤ちゃんに合わせて生活を送ることになるので、食事の時間も定まらず、睡眠不足にもなりがちです。結果として、慢性的な疲労やホルモンバランスに悪影響を与えることがあるので、眠れるときに休むことが大切になります。リズムが崩れてしまい、なかなか睡眠に入れないときは、酸棗仁湯や帰脾湯といった処方が有効なことがあります。
 
4. 産後の栄養状態
産後は自分のためにバランスの良い食事を用意することが難しいこともあると思います。可能であれば、甘えられる手段を使い、産後の体を労わるために、栄養バランスの取れた食事を取るようにしましょう。漢方の考えでは、産後の気血を補う食材として、黒い色の食材(黒米、黒ごま、黒きくらげ)や、優しい甘みのかぼちゃや、さつまいも、なつめ、鶏肉、小豆、などを積極的に摂取するように勧められています。
 

産後の抜け毛に効く主な漢方薬・効果と特徴

上記で紹介した漢方薬は、次のような特徴を持っています。
 
■十全大補湯
全身の気と血が減少すると、それにより脾胃(胃腸)の働きが悪くなったり、さらなる体力の低下や貧血、低血圧、皮膚の状態が悪くなったりします。また、血流も悪化し、倦怠感や手足の冷えも出てきます。このような気血両虚タイプの方に処方されます。
 
■人参養栄湯
十全大補湯から川芎を除いて陳皮、五味子、遠志を加えた処方です。上記のように全身の気と血が減少した状態で、さらに心の血が少なくなると、不眠や精神症状が見られるようになります。このような気血両虚、心血虚タイプの方に処方されます。
 
■芎帰調血飲第一加減
脾胃(胃腸)の状態が悪いところに、出産や月経などで出血があり引き起こされた、体力の低下やイライラ、血流の低下による月経不順、冷えや痛みがある気滞瘀血タイプの方に処方されます。
 
■酸棗仁湯
疲れているのに眠れないというときに利用されます。ストレスや疲労があり、ふらつきや不眠、寝汗、また、動悸や不安感などのある心肝血虚タイプの方に処方されます。高血圧や強い便秘のある方には使えません。
 
■帰脾湯
疲労やストレスによる脾気の低下によって胃の働きが低下し、体力の低下、貧血などの症状があり、さらに心血の不足によって精神活動が不安定になり、健忘や不安、不眠などの症状がある心脾両虚タイプの方に処方されます。 
 

漢方薬の飲み方・注意点

「漢方は副作用が少ない」と思っている方も多いですが、実は、副作用報告は少なくありません。漢方は本来体質をベースに処方を検討しますので、体質を見ることなく、病名から漢方を処方されることが原因になり得ると考えられています。
 
また、頻度の高いものとしては、下痢、軟便、食欲不振、浮腫などがあります。気になる症状が出た場合には、医師、薬剤師に相談しましょう。
 

いずれは回復する産後の抜け毛……ママ自身のケアもできる範囲で大切に

産後の抜け毛は、新生児育児で気力も体力も衰えているタイミングで起こります。自分のケアまで気が回せないときにごっそりと髪が抜けてしまうと、「ちゃんと元に戻るのだろうか」「このまま薄毛になってしまったらどうしよう」と、不安に感じてしまうのは、無理のないことだと思います。
 
産後の抜け毛は、心配しすぎる必要はありません。ホルモンバランスが元に戻る中で、抜け毛も回復していきます。
 
しかし、ホルモンバランスの崩れが続いたり、気力・体力の衰えが大きかったりすると、髪自体の痩せや、本当の薄毛に繋がってしまうこともあります。過度に焦ったり、悲観したりする必要はありませんが、赤ちゃんだけでなく、ママ自身のお身体もできるだけ労わって過ごしていただければと思います。
 
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