音楽ファンであれば、ライブ映像やドキュメンタリー映画に興味をひかれる人も多いでしょう。観ているだけで当時の空気感をそのまま体感できるドキュメンタリー映画のひとつといえば『festival express』。
2005年制作のグレイトフル・デッド、ジャニス・ジョプリン、ザ・バンドらがカナダ各地を列車でサーキットしたフェス・ツアーのドキュメンタリーで、当時、レコード会社勤務だった私のまわりの音楽好きな人たちの間で絶大な支持を集めた映画です。
鮮明なライブ映像で伝わる臨場感と高揚感
伝説のロックフェスティバルとして1969年の「ウッド・ストック」は誰もが知るところですが、「フェスティバル・エクスプレス」の名は知らないという人も多いかもしれません。1970年にカナダのトロントからウベェニペグ、カルガリーへと大陸を横断する形で開催された伝説のフェスティバルで、出演アーティストたち一同を乗せて移動した特別列車の名前「フェスティバル・エクスプレス」からとったもの。何度でも繰り返し観たくなるライブ映画といえば、この『festival express』をはずすわけにはいきません。
伝説のアーティストたちによる夢のジャムセッション!
グレイトフル・デッド、ジャニス・ジョップリン、ザ・バンド、バディ・ガイ、フライング・ブリトー・ブラザーズ、イアン&シルビア……。当時、60~70年代のアメリカでもっとも人気のあったロックバンドが集まり行ったカナダ横断ツアーには、今もなお音楽ファンから絶大な支持を得てる名が並びます。この映画は5日間にわたり繰り広げられた彼らの列車の旅を綴ったドキュメンタリーフィルムで、ライブ会場でのライブパフォーマンスに加え、たくさんのオフシーンによって構成されています。
なんといっても見どころは、移動の列車のなかで見せるステージ上では見られないスターたちの表情や会話、そして延々と繰り広げられた夢のジャムセッションです。今でもそうですが、たくさんのミュージシャンが参加するフェスティバル形式のイベントでも、ただでも忙しいスターたちにとってはなかなか参加者同士ゆっくりうちとけて過ごせる時間などないのが普通。
この『festival express』では24時間を一緒に過ごすことによって生まれる音楽を愛する者同士のコミュニケーションや互いにインスパイアされていく姿が映し出され、時代やジャンルを超えて観る側の気持ちをグッと熱くするほどストレートに届くんです。
音楽だけじゃない! 映像の美しさとクールなファッションも要チェック
この映画が秀逸なのは、音楽だけでなく映像をとおして1970年の空気感がそのまま伝わってくること。ジャニスを筆頭に彼らが身にまとうクールでカラフルなファッションも素敵! いかにもロックスターといったいでたちの男性ファッションも新鮮だし、当時のファッション誌のページをめくるような気持ちで思わず見入ってしまいます。とにかく全編を通してアーティストたちから伝わってくるのは音楽を愛するエネルギー。そして、そこに浮き出されるのはミュージックビジネスに無限の夢と希望が抱かれていた時代があったこと。
アーティストはもちろんマネージメントもレコード会社もイベンターも、誰もが成功と一攫千金の夢を音楽に託していた時代は、現在のミュージックビジネスシーンを知る人にとってはまた違う意味で眩しく映るはず。フェスへ行く前の気分の盛り上げや、フェスには行けないけれどフェス気分を味わいたいときにイチオシの1本です。
DATA
festival express
時間:90分