いつの時代も「みんなで盛り上がるドラマ」がある
猛スピードで物語が展開していくジェットコースター型ドラマは90年代にもあったわけで、学校の教室や職場であれこれ想像しては、いったいどうなるのだろうと会話が弾んだもの。令和の時代にはSNSが登場し、座談会は見知らぬ人との捜査会議に花を咲かせることになる。イベント性のあるドラマの視聴スタイルが発展したと言えるだろう。その醍醐味を存分に堪能できたのが『あなたの番です』。「真犯人探し」にその楽しみ方が集中した特殊なケースでもある。
黒幕は誰だ!?4つのタイプに分けられる視聴者の推理法
ふだん批評しがちな視聴者が、今回は全員が探偵化。自分が熟考した推理をSNSにアップし、議論を楽しんだ。そんな“視聴者探偵”は大きく4つのタイプに分類される。
1.物的証拠を積み重ねる検証型
録画を何度も何度も見直して、物証や映りこむ人物、整合性のない行動や言葉などを積み上げて真相を突き止めようとする正統派。SNSに画面をアップする視聴者探偵をリードする手腕はおみごと。視聴者探偵を盛り上げる心強い存在だった。
2.テレビ視聴の経験値から推察を重ねる熟練深読み型
「連続殺人犯を演じるのであれば彼ではないか」「いや、豹変型の演技が必要であれば彼だろう」「企画は秋元康さんだから、こう来るはず」「放送はあと〇回だから、まだ二転三転しなくては・・・・・・」等々。かつての傾向をあれこれ持ち出し推察するのがこのスタイルだ。ミドル世代やマニア的視聴者に見られるようだが、テレビドラマへのアプローチとしては、このタイプも説得力があった。
3.感情移入による祈りにも似たファン心理による推理型
黒島ちゃん(西野七瀬)が黒幕であってほしくない。菜奈ちゃん(原田知世)が、翔太くん(田中圭)が、二階堂さん(横浜流星)が、田宮さん(生瀬勝久)が犯人じゃありませんように……と、ついつい推理に感情が入ってしまうドラマファン猛進タイプ。と言っても、まったく知らない人が犯人だとつまらないし、あっと驚きたい気持ちもあったようだ。
4.想像、妄想、オリジナル、自由な推理を見せる個性派探偵
ここまで混沌としてくると、謎を整理しきれない。すべての整合性をかなえるなんてそもそも無理。もっと飛躍した推理を披露するのも一手で想像力に頼り切る推察を披露する個性派も存在する。早川教授=秋元康説や秋元康黒幕説、みんなの考察を読み進め制作サイドが犯人を決める説、次は「あなたの番です」と視聴者に丸投げするんじゃないか説……納得してしまいそうな説に、思わず頷いてしまった。
最終回の直前直後、人間味あふれるSNSが加速する
残すところあと1話となったところでは、物語がさらに混乱。謎を解決すべく主人公の相棒・二階堂が、主人公への攻撃に転じてしまうところでは、冷静に分析を重ねる探偵が多い中「お手上げ」「疲れた」「もう無理」など真相究明を放棄したり、「じゃあ、江藤で」「わかんないけど黒島ちゃんに一票」と勘に頼った犯人予想を投稿する探偵も増殖。なんとも楽しく、人間的だった。
視聴者が置いてきぼりになった印象が少なからずある最終回直後は、結末への物足りなさや、さらなる謎に興ざめする「イマイチ」ツイートが散乱したが、さらに時間が経過すると、反省会開催や新たに謎解きをはじめる投稿、ツッコミを笑いに転じた投稿など、作品を楽しむ姿勢がふたたび広がったことも興味深い。
『あなたの番です』スタイルは定着するのか
前半「毎週、死にます」とセンセーショナル性に特化したかのドラマをどう見るか、視聴者にとっても戸惑いはあった。最後の最後に何かが起きて、来週見るしかない!のスタイルは意外に古典的でもある。
しかし、俳優陣の熱量がまったく衰えないところに「何か」が成熟し、そこに視聴者の発信が重なって後半グイグイと勢いを増した本作。いくつもの伏線をはり「黒幕探し」の1点集中で視聴者を巻きこんだスタイルは今後どうなっていくだろう。テレビ×SNSで盛り上がる作品はさらに進化を見せそうだ。