恋あり謎ありアクションあり。ふんだんに笑いを盛り込んだ『ルパンの娘』は、テレビドラマの楽しさをギュッと詰め込んだ極上エンターテインメント。泥棒であるLの一族の娘、華(深田恭子)と警察一家に生まれた和馬(瀬戸康史)のロメオとジュリエットのような悲恋かと思いきや、コメディ度も高め。私たちの想像をはるかに超えたドラマショーに注目だ。
魅力1.ツッコミ無用!自由で楽しい生き方の登場人物たち
俳優陣のはじけた演技が作品を盛り上げているが、一人を突出させることはない。三雲家と桜庭家の極端なコントラストに、相関図に登場する元警察犬どんの姿。遊び心があふれている。おもしろいことを大真面目に淡々と、しかしクールすぎない熱量で演じる俳優陣のセンスも圧巻だ。
「おちゃのこさいさいや」が口ぐせの華の祖母マツ(どんぐり)は、「ちょっと考えてみるわ」のあと間髪入れずに「思いついたで」とアイデアを披露。鍵師としてのスキルはもちろんだが、あの年齢にしてあのスピード感は恐るべし。
「オホホッ……」と高笑いする母・悦子(小沢真珠)には古いドラマに登場するお金持ちのステレオタイプが満載。父・尊(渡部篤郎)のダンディぶりは、宝田明や岡田真澄の流れを汲みつつ現代風エッセンスが加わって磨きがかかる。甘すぎる二人のやりとりも嫌味なく楽しめる。裸で竹刀を振る和馬が見せるアクションもカッコいい。
しかし、そんな誰よりも強いのが華。その秘密は言葉づかいも変えてしまうスーパースーツにありそうだが、そこも謎めいていて楽しい。
魅力2.演者だけではない!各裏方パートの本気が結集したドラマショー
ミッション遂行時の臨場感あふれる男性コーラス、ミクロの世界で活躍するてんとう虫、各国の名品が並ぶ三雲家のゴージャスなインテリアに父と母が着こなす舞踏会のような衣装。音楽、照明、美術、小さな一つひとつに妥協を許さないプロたちの技術と心意気が随所に生きている本作。その高い技術を結集してコメディをつくりあげていることに脱帽だ。
テレビドラマを意識しながら、既成概念をスルりと超える実力派、徳永友一の脚本とサカナクションの主題歌『モス』も心憎い。洗練しすぎず野暮ったすぎずのバランスが素晴らしい。
魅力3.「テレビは娯楽」。古き良きエンターテインメントを受け継ぐ
テレビの黎明期だった昭和時代、テレビはシンプルに娯楽だった。しかしそのクオリティは実に高い。
例えば、『夢であいましょう』や『シャボン玉ホリデー』。短い時間のなか、次々と新しいコーナーに切り替わり、夢の時間はあっという間に過ぎていった。そんな極上エンターテインメントの匂いが『ルパンの娘』には漂う。豊かなハーモニーと伸びやかな歌声、華やかなダンスに洗練されたコント。昭和クオリティーがそのまま息づいている。
さらに魅力を引き上げているのが、華の幼なじみの円城寺(大貫勇輔)。毎週織り込まれるミュージカル風シーンの唐突さと、卓越した歌と踊りで、作品を盛り上げている。第5話では、張り巡らされたレーザー光線を『オーシャンズ12』のように突破。進化したテレビ技術によるスリリングと基礎からしっかり作り上げられたエレガントなダンス、テレビの前で「ブラボー!」と声をあげてしまった。
『ルパンの娘』は、どこかなつかしさを含んだアクションドラマであり、おしゃれな恋物語だ。もちろん昭和に限らず平成ドラマのパロディも満載。テレビの原点を令和の時代にうまく落とし込んだ『ルパンの娘』に、最後まで目が離せない。