投資を始めるのは「知識」が先か、それとも「経験」が先?
「老後2000万円」の不安は、若い人をかなり行動に駆り立てているようです。新聞報道などによれば、iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)の口座開設数が増加傾向にあるそうです。将来の不安を解消するべく、実際の口座開設に至るということは「行動」につながったということですから、とてもいいことです。だとすれば、今回の騒動のケガの功名といえるかもしれません。
ところが、ここにちょっと古いデータがあります。SMBC日興証券が今年1月に公表した調査結果ですが、投資の始め方について調べたものです。
調査によると投資未経験者は、たとえば「株式投資は学んでからやるもの」(73.0%)のように、「勉強してから投資」と考えるあまり、投資に踏み出せない傾向があるという結果が出ています。
一方で、投資経験者の属性は対照的です。「まずは口座開設をしてみた」(64.1%)、「気になる銘柄をなんとなく購入した」(62.2%)となっており、「経験が先で、あとから学んでいけばいい」というようなスタンスだというのです。
実は投資を始めるのに「知識が先」か「経験が先」かという問題があります。「卵が先かニワトリが先か」のようなものです。今回のマネーハックでは、このテーマを取り上げてみます。
「知識が先」のメリットとデメリット
○メリット投資の知識を先に習得して投資デビューと考えるのは、何もおかしなことではありません。ボードゲームを始めるのにルールを先に覚えるのは、当然のことでしょう。投資という「ゲーム」の基本ルールを知ることは、勝率を高めたいのなら必要なことです。
また、あやしい金融商品は詐欺グループにだまされないためにも、最低限の理論武装はしておいたほうがいいと思います。「安全、確実、高利回り」ですよ、と言われたら、「そんな都合がいい商品はないですよね」と、切り返すくらいの知識はほしいところです。
○デメリット
しかし、知識を先に、と考えることの最大のデメリットは、結果としていつまで経っても、投資をスタートできない恐れがあることです。せっかく意識は、投資の重要性を認識するところまできているのに、数年、あるいはそれ以上、投資の「一歩前」のところで踏みとどまってしまいます。これはとてももったいないことです。
また、「どこまで学んだらスタートしていいか」という明確なラインは存在しないので、人によってはいつまでも学び続けては、実経験を先延ばししてしまうこともあります。
「経験が先」のメリットとデメリット
○メリット経験が先でとりあえず投資をするメリットは、「口座開設」というハードル、「実際の売買」というハードルを勢いで乗り越えてしまうことです。
それがたとえ、「株で稼いで一儲け」という感情だったとしても、口座開設というハードルを乗り越えられるか、越えられないかは大きく、マジメな人ほどいつまでたっても越えられないことがあります。
そして、実経験は代えがたい財産でもあります。どんなにゲームで遊んだとしても、実際の車の運転経験にはかなわないように、実際の投資経験は一気にあなたをステップアップさせてくれます。また、経験が知識を求めることで、レベルアップがはかどることも多々あります。
手痛い失敗をしないようにちょっとした注意ができれば、経験を積みながら、後追っかけで知識を手に入れるメリットはあります。
○デメリット
経験が先、とばかりに知識をほとんど持たずに投資デビューするデメリットは、やはり「カモにされる」可能性が高いことでしょう。
あなたがもしFX(外国為替証拠金取引)や短期売買のデイトレードで投資を、と考えているのなら、あなたの軍資金はあっという間に底をつくはずです。
経験不足は、基本的にマイナスです。判断する材料もなければ、あなたの心理的余裕も奪います。
最小限の知識を身につけたら、少額デビューしてみよう
今回、「老後に2000万円」不安から投資デビューをした人に、「失敗は小さく、成功体験の確率は高く」なるようなアドバイスをしてみます。損失を最小限にする3つのアドバイスとは?
○アドバイス1:入金額は少なく、いっそゼロ円から
「100万円くらいの入金」が、投資デビューの軍資金だと思っている人が多いのですが、入金額が多いほど失敗したときのダメージも深刻なものになります。
iDeCoやつみたてNISAの場合、基本的に「ゼロ円から積立スタート」になります。これをオススメします。100万円の20%値下がりではガマンできない初心者も、積み立てで始めた1万円の20%値下がり(つまり2000円の損)であれば、ぐっと堪えることができるからです。
同様に、レバレッジ(FXなどでよく用いられる、100万円で2500万円相当の売買を行うこと。この場合25倍のレバレッジになる)も行わないことです。
○アドバイス2:売買頻度は少なくする
投資といえば「何度も売買」するものというイメージがありますが、これも初心者には向いていません。「売買タイミング」を判断する必要があるからです。株価が高いか低いか、今は買うときか売るときか考えることは、そもそも初心者向きでないのは当たり前です。
初心者ほど、「もう少し待てば株価が戻る」ときに慌てて売って損失確定しますし、「その値上がりはもうピークがきている」ときに慌てて買ってしまい、たいして儲からないどころかちょっと値下がりし、また損をして売ってしまいます。
投資スパンを長く置いて、積み立てを続けることのほうが初心者向きです。なぜなら、長い目でみれば企業や経済全体が成長していく可能性が高いからです。この場合、むしろ何度も売り買いしないほうがうまくいくものです。
○アドバイス3:投資対象を広げる
「個別銘柄を選ぶ」のが投資だと考えがちですが、むしろ「日本の株式市場を全部まんべんなく手を出す」とか、「世界中の株式市場を全部まんべんなく手を出す」のような投資のほうが、大失敗するリスクを回避しやすくなりますし、平均的に勝つ道を残しておくことができます。
どんなに景気がいい時期でも、月に1社くらいは株価が半減します。そんな企業を選んでしまうと投資はうまくいきませんが、そういう企業ほど業績はいいように装っていたりします。悪いニュースは初心者ほど見分けられませんし、下がるときはあっという間です。
投資信託やETFという金融商品を用いると、少額でかつ幅広く投資ができるようになり便利です。初心者はぜひ、投資信託を活用してみることをオススメします。
「投資はゼロ円からスタートでいい」
「売買頻度は少なくてもいい」
「個別株ではなく、日本中や世界中を対象にすればいい」
あなたがもし、「経験が先」で投資をスタートさせるなら、この3つのアドバイスを参考にしてみてください。これで大失敗のリスクはほぼなくなります。
なお、オススメの口座は「つみたてNISA」か「iDeCo」です。これらは、3つのアドバイスをクリアすることができる仕組みでもあるからです。
あなたの口座開設という投資「行動」が、良い「結果」を伴いますように!
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【参考】
2019年1月、SMBC日興證券「「投資の始め方」に関する意識調査」