アドバイス1 奨学金は夫婦ともこの3年で完済したい
家計においてポムさんが3年間の海外赴任中にすべきことは、現金を増やすということ。つまり貯蓄です。理由は、今が「貯められる環境」にあるということ。もうひとつは帰国後、いろいろライフイベントが控えています。それらを実現するためには、当然、今の貯蓄では不足します。できるだけ資金を増やしておく必要があるからです。そして、悩まれている奨学金の返済ですが、ある程度貯蓄が貯まったところで一括返済してしまっていいと思います。データを見る限り、ご夫婦とも無利子で借り入れられているようです。だとすれば当然、毎月の返済だけでも総払い額は変わりませんが、余裕のあるうちに返済しておく方が賢明。また、少なくとも海外赴任中は貯蓄ペースが高いので、一括返済して貯蓄が大きく減っても1年足らずで取り返せます。
赴任期間は延長もあるとのことですが、ここでは3年間という設定で、具体的に試算してみましょう。
まず現在の貯蓄ペースが毎月25万円ですから、年間300万円。3年間の海外赴任期間中に900万円貯めることができます。ここから、ポムさんのスクーリングの学費80万円とそれにともなう帰国費用5回分を加えた130万円を差し引きます。
さらに残り770万円から、奨学金を一括返済します。残高は明記されていませんが、まだ300万円近くあったとしても、手持ちの貯蓄と合わせて600万円が帰国時の資産として手元に残ります。これだけあれば、帰国後の生活で困ることはないですし、その後のライフイベントの資金に回すことができます。
アドバイス2 妻の職場復帰は家計にとって大きなプラス
帰国後の家計ですが、ご主人の収入はボーナスが出る代わりに給与は下がって、結果的に海外赴任中と変わらないとのこと。支出で増える費目としては、家賃として新たに7万~8万円。クルマは購入を想定し、車両価格以外のランニングコストとして月2万円(先の家賃は駐車場代込みとする)とします。他にも水道光熱費や通信費は増えそうですが、奨学金の返済がなくなり、教育費(英会話)も不要になるとのことで、相殺はできると思います。結果、月10万円の支出増として、毎月の支出ざっと30万円。計算上、毎月15万円は貯蓄に回すことができます。
ただし、お子さんが生まれれば、当然貯蓄ペースは落ちます。
教育費だけでも、想定されている中学から私立となれば、トータルの教育費として1人1500万円(大学は私立文系、学校外教育費も含む)は見ておきたい。2人であれば3000万円。このうち、児童手当の受給総額が1人200万円ですから、残り2600万円を自前で準備することになります。
20年間で準備するなら、月11万円。また、教育費以外の世帯の生活費もお子さんの成長に合わせてアップしていくでしょう。そうなると、毎月15万円の貯蓄ペースも実質、月2万~3万円(教育資金のための貯蓄は除く)になるわけです。
そう考えれば、帰国後、ポムさんの教職復帰はマネープラン的に大きなプラス材料。ポムさんの収入を、そのまま貯蓄に回すことも可能だからです。出産や育児があり、具体的にいつからどの程度働くことができるか、また収入等も不確定ですが、少なくとも世帯で年間100万円の貯蓄は目標としたいところ。
仮にポムさんが35歳から60歳まで25年間働くとすると、貯めることができるのは2500万円。他に、帰国時の預金600万円がありますが、60歳までにクルマを3~4回買い替える(うち1回は最初の購入)とすれば、その預金はほぼクルマの費用でなくなることも考えられます。したがって、実際に貯蓄できる額は2500万円と考えていいでしょう。
アドバイス3 「貯められる」うちに貯めておく
それだけ貯められるのであれば、もうひとつのライフイベントである住宅購入も見えてきます。例えば、ご主人38歳のときに購入するとします。返済期間は25年、金利を全期間固定1.5%とすると、2500万円借り入れて毎月の返済は約10万円(ボーナス払いなし)。2000万円の借り入れなら月8万円の返済です。
3000万円の一戸建てを購入するとして、頭金500万円に諸費用100万円を貯蓄から出すとすれば、先に試算した貯蓄額2500万円は1900万円になります。加えて、毎月の返済は家賃より2万円高く、他に固定資産税や後の修繕費用を考慮すれば、少なくとも月2万円はランニングコストが必要。したがって、住宅コストが月4万円アップしますから、年間100万円の貯蓄ペースは半分の50万円となり、ポムさん60歳の時点で貯蓄は600万円程度になってしまいます。
もろちん、住宅の物件価格を下げることで貯蓄ペースは上がります。あるいはポムさんの収入次第ではもっと貯めることも可能でしょう。お子さんの進路や、クルマを所有するしないによっても、マネープランは大きく変わってきます。
現時点ではどれも不確定要素であり、数字は試算に過ぎません。言い方を変えれば、それだけ選択肢があるということ。そして、その選択肢を増やすためにも、冒頭でも触れましたが、貯められるうちに現金を貯めておくことが、現時点での最大の家計ポイントです。期間としては海外赴任中と、帰国後まだお子さんがいなければ、出産するまで。そして、準備した資金に合わせて、無理のないライフプランを組み立てていくことが重要です。
相談者「ポム」さんから寄せられた感想
専門的な方からアドバイスいただき、大変に良い機会となりました。将来的には未確定な部分が多くありますが、「今が貯め時」と知ることができよかったです。教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。近著に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/清水京武
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