不妊症

排卵障害は漢方で治る?原因と西洋医学・漢方による治療法

【不妊クリニック・漢方外来薬剤師が解説】排卵障害は、多嚢胞卵巣症候群、黄体化非破裂卵胞症候群、高プロラクチン(PRL)血症、甲状腺機能異常など様々な原因で生じます。西洋医学による治療と漢方による治療の2つを併用することで治療効果が高まることがあります。詳しく解説します。

住吉 忍

執筆者:住吉 忍

薬剤師 / 妊活サポートガイド

「基礎体温がガタガタ」「高温期がない」……排卵障害の悩み

排卵障害の相談をする女性のイメージ画像

排卵障害の原因は様々です。適切な治療を行うためにも、早めにクリニックで相談することが大切です。

不妊クリニックでの漢方相談では、基礎体温を拝見しますが、

「体温がガタガタで、いつ排卵をしているか、分からないんです」
「体温が2層になっておらず高温期がないので、排卵していないかもしれません」

といったご相談をお受けすることがよくあります。

妊活に取り組む段階で初めて基礎体温をつけ、このようなことに気づき、「排卵していないかもしれない……」と不安になってしまう方は多いようです。妊娠はまだまだ先の話と思っていても、なるべく早めに基礎体温を測る習慣をつけ、ホルモンバランスの状態を観察してみるのがよいでしょう。
 

基礎体温とは……生理開始~排卵前の低温期と、排卵後の高温期

基礎体温をつけると、生理開始から排卵前は低温期となり、排卵が起きた後には高温期となるので、基本的には、排卵の有無をご自身でチェックもできますが、体温が上がっていても排卵していない黄体化非破裂卵胞症候群(LUF)になる周期もあるので、確実にチェックをするには、クリニックで排卵チェックがお勧めです。

また、上記のように、体温が2層にならない、ガタガタとした体温で排卵の時期が分からない、その他にも、周期がバラバラな状態が続いたり、不正出血が続いたりする場合には、クリニックでのホルモン検査がお勧めです。

結果として排卵障害と診断された場合には、状態に応じた治療を進めていきますが、筆者が担当するクリニックの漢方相談にも、多くの方がご相談にいらっしゃいます。

今回は、排卵障害の原因、西洋医学による治療、漢方での対応をご紹介したいと思います。
 

排卵障害や無排卵の原因……ストレスや極度のダイエットも原因に

不妊の原因として女性の排卵障害の割合は高く、30%以上と言われています。排卵障害になる原因は様々。1つではなく複合していることも多く、治療も比較的容易なものから、難治性のものもあります。

月経周期が安定しないためにご自身の排卵に不安をお持ちの方や、排卵時期が分からないために、自然妊娠に向けたタイミングが取れず、不妊治療をスタートしようかと考えている方もいらっしゃるかもしれません。女性は通常1ヶ月に1回のペースで排卵が起こりますが、この排卵が、数ヶ月に1回になることを、稀発排卵といい、排卵が起こらなくなることを、無排卵といいます。

排卵は、脳の視床下部、脳下垂体から分泌されるホルモンが卵巣に働きかけることでおきますが、どこかに異常があると無排卵となります。視床下部は心身のストレスの影響を受けやすく、極度痩せや、強いストレスが引き金となって無排卵になることもあります。
 

排卵障害の原因となる主な病気

排卵障害の原因には、
  • 中枢性(視床下部・下垂体性)
  • 多嚢胞卵巣症候群(PCOS)
  • 卵巣の機能低下
  • 黄体化非破裂卵胞症候群(LUF)
  • 高プロラクチン血症
などがあります。

漢方では「同病異治」という言葉で表されるように、体に出ている症状や体質の違いにより、一人ひとりに異なった漢方薬が使われますので、考え方を中心にご紹介します。
 

中枢性(視床下部・下垂体性)の無排卵に効果がある治療法・漢方薬

急激なダイエット、激しいスポーツなどでの体重の増減、また甲状腺機能低下症や下垂体腫瘍によって起こることがあり、体重の変動により排卵が止まっている場合には、元の体重に近づけることが優先されます。

西洋医学の治療では、カウフマン療法(ピルを用いて月経を起こす)、挙児の希望がある場合には、クロミフェンなどの排卵誘発剤を用いて治療します。

漢方では、
  • 原疾患がある場合には、それらの改善に向けた処方
  • ダイエット等による体重減少の場合には、気血を養う処方(体の基本的な機能がうまく働くようにサポート)
  • 腎精(両親から受け継がれた生殖能力の源)を補う処方
  • 肝(自律神経を司る)の状態を改善させる処方
などを用いて、排卵の障害になっている体質の改善を図ります。

実際には、無排卵だった期間が長いほど自力排卵の回復までに時間がかかることが多いので、ダイエットにより月経が止まってしまった場合には、放置することなく、早めに受診をして、原疾患の特定と、治療の相談を進めましょう。
 

多嚢胞卵巣症候群(PCOS)に効果がある治療法・漢方薬

無排卵の原因として最も頻度の高いのが多嚢胞卵巣症候群です。卵巣内にたくさんの未熟な卵胞ができてしまうことをいいます。また、卵巣表面の部分が硬くなり、排卵しづらい状態になることが多いです。

超音波検査でネックレスサインと呼ばれる卵胞が連なって見えることがあります。血液検査ではLH高値(生理3日目、LHがFSHの1.5~2.5倍。FSH正常、LH7以上)、高アンドロゲン(男性ホルモン)、高プロラクチン(30を越える)などがみられます。

漢方では、多嚢胞性卵巣障害の原因を
  • 腎虚(生殖能力を司る腎の機能低下)
  • 瘀血(血流が悪い)
  • 痰湿(余分な老廃物が溜まっている)
  • 気滞(ストレス過多などによりエネルギーの流れが悪い)
などの体質が複合していると考えます。

原因となる体質の改善を行うこと、また西洋医学の治療による副作用(OHSSや、クロミフェン内服による、内膜が薄くなる、頸管粘液の減少)を抑えるフォローも行います。

不妊治療専門のクリニックの漢方相談でも、非常にご相談の多い疾患です。漢方での体質改善を通じて、PCOSだけではなく、抱えられていた不調も改善していただけることが良くあります。また、長年妊娠できずに悩まれていた方が、PCOSの改善により、スムーズに妊娠される事例も多いので、西洋医学での治療と合わせて、漢方での体質改善もお勧めです。
 

卵巣の機能低下、異常に効果がある治療法・漢方薬

視床下部や下垂体から卵胞を育てるよう指令が出ているのにも関わらず、卵巣が反応が悪くなっている状態です。卵巣のなかにある原始卵胞が少なくなることが原因です。育つ可能性のある原始卵胞数の目安は、血液検査で、FSHの基礎値(生理周期2~5日目の値)が10IU/L以上になることやAMH(抗アンチミュラー菅ホルモン)を調べることで予測できます。

西洋医学の治療では、エストロゲンとプロゲステロンを周期的に服用するカウフマン療法などで卵巣の活動を休ませます。その後の治療法として、エストロゲンを補充しゴナドトロピン(FSH, LH)を抑制し、卵胞の発育がみられたら、排卵誘発剤であるhMG、hCG注射をして卵胞を育てていきます。早発卵巣不全(40歳未満の早い時期に排卵がなくなること)同様の治療が行われます。

漢方では、
  • 生殖能力を司る「腎」の働きを高める補腎剤
  • 中枢神経系(自律神経)の活動を司る「肝」の働きを助ける疎肝剤
  • 脳の指令となるホルモンを卵巣に届ける血を充足させ、流れをよくする補血剤、活血剤など
を、体質に応じて使い分けていきます。
これらの対応は、西洋医学、漢方どちらかを選択するのではなく、両方の治療を併用することが可能です。

実際のご相談では、年齢を気にされる方、年齢に関係なく「卵の質が悪い」と言われた方などは卵巣機能に問題がある場合が多く、漢方に取り組んでいただく場合にも、早ければ早い方が有効です。また、AMH(抗アンチミュラー菅ホルモン)に関しては、数値が低かった場合に、「もう閉経してしまうのでしょうか……?」とご相談いただくことが多くあります。AMHは、活動性の卵の数の目安で、卵子の質と直接関係があるわけではないので、適切に治療を進めていけば、妊娠の可能性は十分にあります。
 

黄体化非破裂卵胞症候群(LUF)に効果がある治療法・漢方薬

排卵期のホルモンが分泌されても卵胞が放出されず排卵しないまま残り、黄体化してしまうことをいいます。基礎体温は2相性となり、排卵が起こっているように見えるため、超音波で排卵済みかどうかを確認することで診断されます。連続して起きるとは限りませんが、月経不順がある時や、月経量が少ない時、不正出血がある時は、LUFが起こっている可能性があります。翌月に持ち越したLUFは月新しい卵胞の発育に影響することもあれば、悪さをせずに吸収されることもあります。

西洋医学の治療では、LUFが残っていても、新しい卵胞の成長が期待できる場合には、治療が進められることもありますが、卵の成長への悪影響が懸念される場合には、ホルモン剤を服用してリセットして、次の周期に備えます。

漢方では、
  • 卵巣壁が硬い
  • 卵巣壁厚くなること
  • 卵巣周辺の血流が悪いこと
がLUFを招きやすくなると考え、粘膜のや皮膚の「津液(体に必要な水分)」を保持しやすくなる処方、活血剤(血流を改善させる処方)などを用いて、LUFが起きないようにしていきます。
また、できてしまったLUFが吸収されやすくなるために、生殖能力を司る「腎」の働きを高める補腎剤、中枢神経系(自律神経)の活動を司る「肝」の働きを助ける疎肝剤を用いるなど、体質と治療の方針に沿った対応を行います。
 

高プロラクチン(PRL)血症に効果がある治療法・漢方薬

プロラクチン(PRL)は、乳汁分泌ホルモンと呼ばれ、出産後、脳下垂体から分泌される、母乳が出るために必要なホルモンです。大量に分泌される授乳期間中は排卵が起こらなくなります。高プロラクチン(PRL)血症とは、このプロラクチンの分泌が授乳中でないにも関わらず、増加する症状で、無排卵の原因となります。また、受精卵の着床を阻害することもあります。原因としては、ストレス、甲状腺機能低下、多嚢胞卵巣症候群、脳下垂体のプロラクチン産生腫瘍、また、胃薬や精神安定剤などの副作用による薬剤性の高プロラクチン血症もあります。

西洋医学の治療では、薬剤性の場合には、原因となる薬物を中止します。薬剤性以外の高プロラクチン血症では、一般的には治療は、カベルゴリン(商品名カバサール)などの投薬によってプロラクチンの産生量を抑える治療が選択されます。脳下垂体のプロラクチン産生腫瘍が原因の場合は、手術療法が適応になる場合もあります。

漢方では、高プロラクチン血症を、
  • 腎陽虚(生殖能力を司る「腎」に熱を生む力がない」
  • 肝鬱気滞(中枢神経系の活動を司る「肝」の働きが悪くなり、「気(エネルギー)」の流れが鬱滞している)
  • 瘀血(血流が悪い)
などが単一、もしくは複合的に絡まりあった状態だと考えます。

そのため、補陽剤、疏肝剤、活血剤などを体質を確認した上で処方を検討します。カベルゴリンとの併用にされる場合には、まれに起きる吐き気などの副作用の対策も行います。
 

甲状腺機能異常に効果がある治療法・漢方薬

甲状腺機能の異常には、甲状腺機能が亢進して、ホルモンの分泌が増加するバセドウ病などの甲状腺機能亢進症と、甲状腺機能が低下して必要なホルモンの分泌が減少する橋本病などの甲状腺機能低下症があり、どちらのケースでも無排卵や流産の原因となります。甲状腺機能異常は、ストレスが原因となることもあり、甲状腺機能低下の場合は、痩せすぎも要因となります。

西洋医学の治療では、甲状腺機能亢進症の場合には、内服薬(抗甲状腺薬:メルカゾール、チウラジール等)による治療、放射性ヨウ素を使って、甲状腺ホルモンの産生を抑える治療、甲状腺組織を切除する手術があります。甲状腺機能低下症の場合には、適切な量の甲状腺ホルモン薬(商品名:チラーヂンS)を内服し、ホルモンを補充します。甲状腺ホルモンの数値が正常の場合には、基本的に治療は必要ありませんが、妊娠した場合には、流産予防のために正常範囲のホルモン値でも内服の指示が出ることがあります。

漢方では、甲状腺疾患は、自己免疫の異常が原因となりますが、漢方薬の中には、免疫の調整を行う作用のあるものがあるので、これらを体質に合わせて処方します。また、西洋薬の投薬により、随伴症状が改善されない場合には、症状の緩和を目的とした処方を行います。
 

排卵障害について実際のご相談

実際の漢方相談の中で「排卵ができない」というご相談は、「妊娠を望むまでは、意識をしていなかった……」とお話いただくことがとても多いです。月経周期がバラバラでも、月経が稀にしか起きなくても、「そのようなもの」「月経がない方がラク」と感じてしまっていたというお話を聞くことも少なくありません。結婚、妊娠出産を意識したタイミングで、月経が不規則なことを気にされて、受診するとホルモンの異常が見つかったり、その他の疾患が見つかることもあります。

ホルモン剤などの治療は、即効性を期待できるので、積極的に取り組んでいただき、ご自身の長年の生活習慣や生まれ持った体質が原因となっている場合には、漢方での体作りが有効なことも多いです。もちろん、食事、運動、睡眠と言った、基本的な生活習慣も大切ですが、それらは「大変なこと」ではなく、「ご自身をいたわるための生活習慣(養生)」として、取り組んでいただきたいと思います。

先日、中枢性の無排卵を抱えていらした方から、漢方を開始してから3ヶ月目に、こんなメッセージをいただきました。

「4年間ずっとできなかった自力排卵ができたんです。主人も家族もびっくり。先生に会えて、本当に良かったです」

大きなストレスが原因で、排卵が出来なくなり、もう自力では出来ないと思い込んでいたそうです。それが克服できた! という、とても嬉しいご報告で、個人的にも感慨深いものでした。筆者も、妊娠を希望していた時期に、ストレスからの体重減少で、排卵が止まってしまった経験があり、不安な毎日を過ごしていました。

「このまま排卵できなかったらどうしよう、卵が育たなかったら、どうしよう」

そんな不安に押しつぶされそうな時もありましたが、漢方を通じて改善してきた経験があります。妊娠に向けて自然排卵にこだわる必要はありませんが、誘発剤を使うケースでも、自然排卵の力を高めることは、卵の成長をスムーズにします。

自然排卵できない女性にとって、自分の力で排卵できるようになることは、精神的にも大きな意味がありますし、医学的に見ても、やはり自然排卵の力を高めることは、卵の成長をスムーズにすることにつながるため、非常に大切なことだと考えています。

繰り返しとなりますが、漢方では、単純に「無排卵なので、この処方」というご提案ではなく、その方の体質、状況に合った処方を行います。

例えば、胃腸に不調があったり、頭痛や、重い生理痛があったり、大きなストレスを抱えていたりと、併発している症状にも注意を向ける必要がありますので、取り入れる際には、専門家にご相談ください。漢方での体作りが、排卵障害に悩まれている方の一助となりましたら、幸いです。
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