アドバイス1 貯蓄ペースを上げるしか対処法はない
今年になって住宅を購入し、来年早々に3人目のお子さんを出産したとして、まずは住宅コストと教育費を考えてみます。住宅コストですが、金利を0.5%とすると、毎月の住宅ローンの返済額は約8万8000円(借入額3400万円、35年返済、変動金利)。これに、固定資産税や将来の修繕費用の積立分を加算して、11万円と想定しているとのこと。これで、賃貸住宅のときと比較して、住宅コストのアップは月額2万8000円。結果、他のコストが賃貸住宅のときと同じであれば、毎月2万7000円の赤字(貯蓄性のある保険の保険料も便宜上コストとする)が発生します。ボーナスから貯蓄に回るのは10万円ですから、少なくとも貯蓄は増えません。
次に教育資金ですが、高校が私立の可能性があるとのこと。だとすれば事前の準備が必要です。卒業までの3年間にかかる費用は300万円ほど。一方、公立なら120万円程度。さらに大学は私立文系なら4年間で380万円、私立理系なら520万円が平均額となります。したがって、高校~大学については1人500万~820万円と幅が広く、3人なら1500万~2500万円となります。一応、準備するなら2000万円がひとつの目安になるでしょうか。
現在貯蓄が100万円。産休や育休の期間中、チョコソースさんの収入は6~7割に減ることを考えれば、増えるどころか一時的に底をつくリスクすらあります。少なくともしばらくは貯蓄が増える状況ではありません。
また、加入されている保険の中には満期金等により教育資金として利用できるものもありますが、それも部分的です。また、世帯収入として3人目のお子さんの児童手当が新たに加わります。3人目以降は12歳まで月額1万5000円の支給、それ以降が1万円ですから計250万円。これを全額貯蓄しても、やはり必要な教育資金をカバーするものではありません。
したがって、貯蓄ペースを上げるしか、住宅ローンを支払いながら教育資金を準備する方法はないということになります。
アドバイス2 外貨建て保険はリスクと考え、払済保険に
貯蓄ペースを上げる方法は2つ。収入アップと家計の見直しです。しかし、収入アップは現実的ではありません。副業は物理的に無理がありますし、転職はすぐに結果が出ないことが十分考えられるからです。そして、その間にも貯蓄が目減りしていきます。つまり、一刻も早く家計を見直す、そのことが最優先と考えてください。では具体的にどう見直すか。まず、児童手当は今後全額貯めます。第三子への支給分と現在のお子さんの支給分、合計で約550万円になります。明確にわかるよう別口座に貯めるといいでしょう。
それと、チョコソースさんも「掛け過ぎでは」と言われているように、保険料負担は過大となっています。とくに米ドル建て保険の保険料コストは貯蓄に回したい。保険料は固定費のため、一度見直せばその後は効果が持続するのもメリット。そこで、加入している3本のいずれか、あるいはすべてを思い切って払済保険します。
払済保険にする理由は主に2つ。まず、資金を増やすための保険加入だと思いますが、為替差損によって貯蓄性が相殺される可能性は否定できません。また、日本円と米ドルの換金に対して一定の手数料が発生します。しかも、換金は保険料の支払いと満期金の受け取りで往復となりますから、手数料は2回発生することになります。もし、差損が出た場合、為替レート以上に差損は大きくなるわけです。もちろん、逆に為替差益が生じて、さらに資産が増える可能性もあります。ただし、それに関しては不確定であり、それこそがリスクです。余裕資金であればそういったリスクも取れますが、現状、その余裕はありません。
もうひとつ、満期時期から教育資金として利用できるのは、うち1本だけ。残り2本は老後資金づくりが目的となっています。当然、老後も大事ですが、それによって住宅維持や教育に必要な資金が回らないのならば、それはマネープラン的にも本末転倒です。
保険についてさらに言えば、夫婦とも死亡保障が不足しています。ご主人が現在1700万円、チョコソースさんが300万円。お子さん3人とすれば、持ち家であってもそれぞれ1000万円は加算したいところ。保険期間15年、割安な定期保険で確保してください。保険料は夫婦合計で4000円台半ばといったところ。
さらにご主人が加入している定期保険ですが、保険料1万4000円は割高です。特約は外して主契約の死亡保障だけに。別途、入院5000円に先進医療特約が付加された医療保険もしくは医療共済に加入する。それでも、保険料は半分以下にはなるはずですから、浮いた分で新たに加入した定期保険の保険料がカバーできます。
外貨建て保険3本すべて払済保険にした場合、年間の保険料77万円(1米ドル=110円換算)を全額貯蓄に回してください。実際の保険料は支払い期間がまちまちですが、それに関係なくこの金額をずっと貯蓄し続けます。ご主人が定年となる60歳までの20年間で1540万円。児童手当を積み立てた分と合算すると2090万円。これで一応、お子さん3人分の教育資金が用意できるわけです。
アドバイス3 ボーナスの半分は貯蓄に回したい
ただし、準備すべきは教育資金だけではありません。老後資金はもとより、住宅ローンの完済がご主人75歳のとき。定年後、15年間も毎月11万円の住宅コストは相当な負担です。対策としては、繰上返済しかありません。当然、その資金も用意する必要があります。仮に、それら資金用に毎月3万円を別途貯めるとします。当然、保険以外の生活費を見直すことになります。しかも、すでに住宅コストが月2万6000円アップしていますし、児童手当も貯蓄として教育資金に織り込んでいますから、実質、現在の生活費から月8万円下げなくては、月3万円の貯蓄はできないことになります。
どこをどう下げるかは、チョコソースさんの家族の中で優先順位の低いもの、コストを下げてもいいものから削っていく作業となります。食費なのか、小遣いなのか、雑費なのか。しかし、それでも限界があるはず。だとすれば、ボーナスからより貯蓄に回すしか方法がありません。家族で楽しむイベントのコストがボーナスの使いみちに計上されています。これをすべて削るのではなく、何とか創意工夫でコストを抑えることは大事になってきます。
結果、半分貯蓄できれば、毎月の貯蓄ペースは月4万円程度となります。自動車ローンの完済後は月2万5000円が浮くので、その後はさらに貯蓄がラクになりますが、買い替え時にまたローンを組めば同じこと。できればキャッシュで購入すべきです。逆に言えば、それが可能な価格帯のクルマを選択するということです。
また、2000万円の教育資金は高校~大学までの分です。つまり、現在家計に計上している教育費は、中学卒業までしか発生しないことになります。第三子を来年出産なら、ご主人57歳からは毎月の教育費は0円。定年までの3年間で180万円ほどが新たに貯蓄できることになります。ただし、児童手当も途中から支給が止まり、実際は第三子の中学までの教育費を新たに計上しなくてはなりません。なので、結局その新たな貯蓄分は支出に回ると考えていいでしょう。
アドバイス4 60歳以降も元気に働くことが有効な老後対策
別途月3万円の貯蓄ができたとすると、年間36万円。定年までの20年間で720万円。このうち500万円を60歳のときに繰上返済すれば、返済期間は5年短縮、支払利息は約32万円軽減されます。それでもなお完済は70歳ですが、75歳よりははるかに老後の負担が軽くなります。結果、老後資金は残り200万円に退職金の800万円を合わせて1000万円。今ある貯蓄100万円はチョコソースさんの育休の間の生活費に回るはずですから、残ってはいないと考えていいでしょう。
では、この1000万円が老後資金としては足りるかどうかは、まだ20年も先の話ですから、何とも言えません。生活費も公的年金の受給額も、そしておそらく受給開始時期も不確定と言えるからです。また、お子さんの進路によっては、用意した教育費が余る可能性もあります。
ただし、一般的に見れば、老後資金は「心許ない」と言わざるを得ません。対策としては、60歳以降も働く。チョコソースさんの世帯は、アルバイトで構わないので、できれば住宅ローンの支払いが続く70歳まで夫婦とも働くことが、もっとも効果的な老後対策となるはずです。現状収入アップができなくても、長く収入を得ることで、その分をカバーする。そういう発想が大事になってくるでしょう。
相談者「チョコソース」さんより寄せられた感想
診断の結果を聞き、自分では将来への貯蓄と考えていたことが「リスク」で「本末転倒な結果」となる可能性があるのでやめるべきとのお話や、かなりの削減をしなければ将来が厳しいとのお話で、いいようのない不安に襲われてしまいました。ただ、第三者の意見を聞く重要性やなんとかなるでしょといった自分の甘さも痛感致しました。今後の子どものことや家計のことを再考するいい機会ととらえ、主人と話をしていきたいと思います。また、夫婦ともに定年後も働くことには全く抵抗はないので、かかる費用を計算し赤字の出ない程度には元気に働けたらいいなと思っています。そのためにも健康管理をしっかりとしていきたいと思います。お忙しい中診断頂きありがとうございました。
教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。近著に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/清水京武
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