私がイチオシしたいのは「奈良ホテル」。設計は、日本銀行や東京駅などを設計した日本近代建築の父、辰野金吾氏です。建築好きである私は、各地の「辰野式」と言われる建物を見てきましたが、辰野氏と言えば洋風建物のイメージが強く、奈良ホテルの和の佇まいに最初は驚きました。
今回は、明治・大正・昭和・平成と激動の時代を見守ってきた名建築「奈良ホテル」の魅力をご紹介します。
館内は和洋折衷。創業110年、激動の時代の名残を感じる
和の佇まいの理由は、周囲の景観や建物と馴染むようにという指示があったからだと言います。壁は漆喰、屋根瓦には寺院のように鴟尾(しび)が配された御殿風檜造りで、玄関には赤い絨毯が敷かれ、重厚な雰囲気が漂います。
大階段には、奈良の赤膚焼で作った擬宝珠(ぎぼし)があるのですが、もとは真鍮製だったそう。戦時中に供出して今の姿になったと言います。食事の時間を知らせた銅鑼(どら)は、大戦中には空襲警報を知らせる役目もあったとか。ほかにも珍しい調度品が多く、聞けばさまざまなエピソードが出てくるのは歴史あるホテルならでは。
「西の迎賓館」と呼ばれた奈良ホテルのゲストには、アインシュタイン、ヘレンケラーなど歴史に名を残す著名人が大勢名を連ねます。多くのVIPを迎えた館内は、上村松園や横山大観など大家の絵画も多く、まるで美術館のよう。
ダイニングへと続く廊下には、歴史を感じる貴重な品や写真の展示があります。
イチオシはメインダイニングでの朝食。建築美と歴史を堪能
「奈良ホテルを堪能するなら本館への宿泊」と言われることが多いのですが、私のイチオシは創業当時のままという「メインダイニングルーム三笠」での朝食。宿泊者以外も利用でき、興福寺を望む景色も素晴らしく、優雅な一日の始まりにぴったりです。食後は建築や調度品、館内の展示や絵画などを見学し、ホテルショップで記念品を求めるのはいかが?
フロントには、建物や館内の美術品などを解説したパンフレット「美術品&調度品めぐり(無料)」が用意されています。ぜひ手にして、歴史ある建物、ホテルが見守ってきた時代や人々の姿を想像し、楽しんでみてくださいね。
DATA
奈良ホテル
奈良県奈良市高畑町1096
TEL:0742-26-3300(代表番号)
チェックイン 15:00 / チェックアウト 11:00