「魔の9週」妊娠9週はなぜ"流産の壁"と言われるのか?

妊娠9週の壁・魔の9週・流産の壁  超音波写真

妊娠9週の壁を越えられなかった赤ちゃん CRL21mm

妊娠初期、赤ちゃんの心拍を確認した後の次の健診で、診察台で経腟超音波検査を受けていると、「前回は見えていた心拍が、今日は確認できません。流産かもしれません」と先生からの話。

出血や腹痛などの自覚症状がない場合も多く、初めての妊娠、ひとりで受診されている方には、
「日を改めて(翌日~7日後位)、もう一度、確認しましょう」と、次回の家族同伴を勧められたり、出血や腹痛などの症状がある人、経産婦や流産経験者には、その日のうちに、「今回は流産のようです」と宣告されることもあります。
 
このような事態は、妊娠9週前後の健診で起こりやすく、つらい経験をされた方が「妊娠9週の壁」と表現されるようになりました。
 

【INDEX】
日本の医療事情と「妊娠9週の壁」 
妊娠9週の医学的な意味
流産の種類と原因
妊娠9週の壁を経験された方へ
 
 

日本の医療事情より生まれた「妊娠9週の壁」

市販妊娠検査薬や経腟超音波検査が普及する前は、予定月経が1ヶ月以上遅れてからでないと医師にも妊娠判定は難しかったので、妊娠の初診は妊娠8~9週頃でした。

現在は、初診時期が早くなり、妊娠6、7週に経腟超音波検査で赤ちゃんの心拍が確認でき、その次の健診は2週間後の妊娠9週前後になります。この時に「赤ちゃんの心臓が止まっている」、「前回から育っていない」と判明し、想定外の突然の展開に、よりいっそう辛い思いをする、これが「妊娠9週の壁」です。
 
これには、日本の医療事情も関係しています。
  • 市販の妊娠反応が陽性になったら、早くから自由に産婦人科を受診できる(診察予約が必要な国では、妊娠反応が陽性でも、症状がなければ、初診が2~3週後です)
  • ある地域では、心拍が確認できた頃に分娩予約しないと、希望する分娩場所を確保できない
  • どの産婦人科クリニックにも、必ず経腟超音波検査があって、早期の心拍が確認できる
  • 流産が確定すると、流産手術を勧めることが多い(最近は、自然流産の待機も増えました)
妊娠9週までは胎児異常による流産が多く、それが妊娠9週頃の健診で判明します。妊娠9週に流産が増えるのではありません。
 
 

「9週の壁」の医学的な意味

妊娠9週の壁 器官形成期

妊娠9週の壁 運命の器官形成期と胎児期の境


「妊娠9週の壁」は産婦人科専門書に記載はありませんが、発生学的に妊娠9週には重要な意味があります。個体の発生は生命進化の歴史をたどるとされ、妊娠9週ごろまでに重要臓器が作られ、器官形成期といいます。
 
■器官形成期(胎芽期):重要臓器の構造ができあがる時期、
■胎児期:臓器の機能が発達する時期
 
実際の器官形成期と胎児期の境はきっちりしたものではなく、妊娠9から10週あたり、CRL(頭殿長)が21~30mmに相当します。
 
三木成夫の名著「胎児の世界 人類の生命記憶」中公新書からの引用、

「受胎の日から数えて30日を過ぎてから、わずか1週間で、あの1億年を費やした脊椎動物の上陸誌を夢のごとくに再現する」

受精後日齢
28日目(妊娠6週0日):CRL4mm、心拍確認、魚の心臓
32日目(妊娠6週4日):サメの顔、魚のエラ
36日目(妊娠7週1日):爬虫類の顔つき、陸上動物の特徴
40日目(妊娠7週5日):爬虫類と哺乳類、人間の面影が混ざった顔貌
42~49日目(妊娠9週):CRL21mmで人間の外観、心臓の形態が完成

以上は、おおよその目安です。
器官形成期に、海から陸の生物に進化する過程を経て、人間の器官が完成します。
 
染色体異常による形成異常や、薬剤・放射線・感染症による細胞障害が、器官形成期に起こると致命的な障害になり、発育が停止します。無脳症で頭部がない、腎臓がない、手足がないなどの場合でも、心臓が正常であれば育つので、心臓の形態異常が最も影響します。

流産の多くは「自然淘汰の結果」と考えられ、その自然淘汰が妊娠9週までに起きやすいということです。
 
 

流産の原因と種類

■生化学的妊娠(旧 化学的流産)
妊娠反応が陽性、つまり、精子と卵子が受精し着床までは育ったが、超音波検査で胎嚢を確認できる前に、月経様の出血とともに流産してしまったもの。この流産は、習慣流産や不育症の診断する際の流産としてカウントしません。
もし、妊娠反応をしていなければ、「月経不順で遅れていたので、いつもの月経より少し出血が多かった」と考えていたかもしれません。
 
■稽留流産
出血、腹痛などの症状がなく、心拍が停止した流産を、稽留流産と言います。「妊娠9週の壁」で経験する流産は多くの場合、稽留流産と診断されます。
 
■早期流産
胎嚢を確認した後、妊娠12週未満の流産。原因は染色体異常が多い。
 
■後期流産
妊娠12週以後の流産。原因として、絨毛膜下血腫、絨毛膜羊膜炎、頚管無力症、不育症などが多くなる。  
 
 

妊娠9週の壁を経験された方へ

流産の割合は、どの時点で妊娠とするかにもよるので、正確な数字は難しいのですが、多くの報告から、経腟超音波検査で胎嚢を確認した人の約15%が流産になります。その内、10%が心拍確認前に流産、心拍を確認してから流産は5%。妊娠12週を過ぎてからは1~2%が流産となります。
 
妊娠9週の壁を経験した方は、
「もし、もう少し早く受診して、薬で治療していたら助かったかもしれない……」
「もし、仕事を休んで家で安静にしていたら、流産しなかったかも……」
と考えてしまいますが、原因のほとんどは、染色体異常などによる自然淘汰なので、時間はかかるかもしれませんが、事実として受け止めていくしかありません。
 
出生前診断として、NIPT(無侵襲的出生前遺伝学的検査)、コンバインドテスト、絨毛検査、羊水検査などが話題になりますが、ダウン症(21トリソミー)は最も軽い染色体異常なので、現在、平均寿命が50歳を越えています。ダウン症よりも重症な染色体異常には、母体年齢と関係するもの、関係ないものなどが、ダウン症の数十倍あって、それらの多くが、妊娠9週までに寿命を終えると考えられます。
 
稽留流産と診断された場合に、流産手術か?自然流産を待機か?については、発育の大きさ、初妊娠、経産婦などを考慮して、本人、家族と相談して決めます。


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