好例としては、「宝くじに当たった」人や、「高額の年俸を受け取っていたスポーツ選手」などが、挙げられます。
英国の国営宝くじ事業の運営会社、キャメロットグループの追跡調査によれば、宝くじ当せん者のうちの多くが、家族や友人を失い、当選前よりも苦しい生活をしているのだとか(1)(2)。
他にも、米NBAプレイヤーや、NFLプレイヤーの多くが、多くの所得を手にしていたにも関わらず、高確率で破産しているという話も有名です(3)(4)。
せっかくお金を稼ぐ能力を身に付けても、使い方を知らなければ、待ち受けるのは悲惨な未来です。ですから、お金を稼ぐ以前の問題として、「上手にお金を使うコツ」を知っておく必要があると言ってよいでしょう。
やりくり上手は「遅延割引(時間割引)」の誘惑に負けない
お金持ちになりやすい人の特徴としては、「将来の大きな報酬を受け取るために、今すぐ受け取れる小さな報酬を我慢できる!」ことがわかっています。この概念は、「遅延割引(時間割引)」と呼ばれています。テンプル大学が収入に直結する8つの要因について研究した結果(5)によると、遅延割引の効力は、職業や教育、住んでいる場所や性別など、「なかなか変えることが難しい」4つの要素に次いで、遅延割引がもっとも収入に直結する要因であることが分かりました。
遅延割引の有効性については、スタンフォード大学の心理学者、ウォルター・ミシェルが行ったマシュマロ実験(4)が有名です。
この実験では、「今すぐマシュマロを1つ食べるか、15分間、我慢した後にマシュマロを2つもらうか」の二択を子どもに選ばせました。実験の結果、マシュマロの誘惑を我慢できた子どもは、20年後にも成功している可能性が高かったのだとか。
つまり、「長期的な視点で考えられる人」「将来のために、今を我慢できる、自制心を持っている人」が、経済的にも成功しやすいということです。最近になって、マシュマロ実験は一部反証されましたが、それでも有効な要素の1つであることには違いなさそうですね。
複利の力を活かす
遅延割引の誘惑に負けない人…つまり、今我慢し、将来の大きな報酬を受け取れる人は、こと「複利」の力を活かすことに長けていると考えられます。複利の影響力は凄まじく、かつて、物理学者のアルバート・アインシュタインが「人類最大の発明」「宇宙で最もパワフルな力」と呼んだといわれています(6)。
一般に、株式投資の利回りは、年率にして「金利+4%~5%」と考えられています。仮に年4%、複利運用でお金を増やすことができたとすれば、18年後には資産を2倍にすることができます。36年後には4倍、54年後には8倍、72年後には16倍です。
遅延割引の誘惑に負けない人は、「いま1万円もらうか?」「それとも、18年後に2万円をもらうか?」という二択を迫られたとき、後者を選択することができます。かしこい若者であれば、さらに欲張って「72年後に、16万円を受け取りたい!」ということでしょう。
短期志向は失敗につながる
また、「短期志向の人は、お金を増やすのが下手!」という研究事例は豊富です。有名どころとしては、経済学者のブラッド・バーバーとテランス・オーティーンによる共同研究(7)で、「ひんぱんに株取引をしている人(≒短期志向)ほど、運用成績が悪い!」事がわかっています。ほかにも、上智大学の研究(8)によれば、「短期投資をしている人は不幸で、ストレスを抱えやすく、成績が安定しにくい上、資産形成が上手くいきにくかった!」なんてことも分かっています。
お金の運用に限って言えば、「短期志向は負債!」と言い表すことができるでしょうな。
まとめ
「今すぐ1万円をもらうか?」「18年後に2万円をもらうか?」の二択があるとして、あなたはどちらを選びますか? この答え次第で、あなたがお金持ちになれる可能性が、判断できることでしょう。心理テストとしても使えるでしょうから、友人に問いかけてみても面白いと思いますよ。ちなみに、「遅延割引」に関する感覚は、年齢や性別によって変わることが分かっています。具体的には、「年を取るほど短期志向になる!」や「男の方が女よりも短期志向!」といったことが分かっています。
個人投資家のメイン層は、中年~定年後の男性です。これらの研究結果を知り、覚えのある失敗も、いくつかあるのではないでしょうか。本記事の内容をきっかけに、これまでの運用を振り返ってみてはいかがでしょうか。
●参考文献
- 書籍:西中勤, 2018, 『1万人の人生を見た弁護士が教える お金に悩まず、幸せになれる方法』, PHP研究所
- 記事:Claudio, 2015, "10 Trudy Shocking Facts You Didn't Know About The Lottery", The Richest, 2018年12月9日時点
- 記事:Dave Feschuk, 2008, "NBA players' financial security no slam dunk", The Star, 2018年12月9日時点
- 記事:Daniel Robert, 2015, "16% of retired NFL players go bankrupt, a report says", Fortune, 2018年12月9日時点
- 論文:William H. Hampton, Nima Asadi, and Ingrid R. Olson, 2018, “Good Things for Those Who Wait: Predictive Modeling Highlights Importance of Delay Discounting for Income Attainment”, frontiers in Psychology, 9(1545), pp. 1-10
- 記事:"Bank Performance Annual", Warren, Gorham & Lamont, 1978, p. 509(※諸説あり)
- 論文:Brad M. Barber and Terrance Odean, 2000, "Trading Is Hazardous to Your Wealth: The Common Stock Investment Performance of Individual Investors", The Journal of Finance, 55(2), pp. 773-806
- 論文:川西諭, 田村輝之, 功刀祐之, 2012, "長期分散投資vs短期集中投資
日経マネー誌アンケートから見えるネット投資家行動の実態", 行動経済学, 5, pp. 152-156