たびたびピンチが伝えられるニンテンドースイッチ
発売以来好調を維持している任天堂のゲーム専用機『ニンテンドースイッチ』。しかし、不思議なことに、なぜかたびたび、売れていないという報道を目にします。中身を読んでみると、根拠となっているのは任天堂の出している今期の目標が全世界で2,000万台となっていまして、これが達成できそうか、あるいは難しそうか、というところで、評価をくだしているようです。【関連記事】
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短期的にみると、株価の動きが知りたい投資家などの方々は、任天堂が発表した目標値が基準となって株の売り買いが起こる側面があるので、それが重要になるのでしょう。しかし、目標に達しなかったらニンテンドースイッチはゲーム機として失敗か、人気がないかというと、それはちょっと簡単に考えすぎではないかと思います。というのも、任天堂が掲げている目標の台数というのは、もともとが相当に強気なものだからです。
というわけで、ニンテンドースイッチの全世界的な数字のチェックをしてみたいと思います。
1年間で2,000万台という目標
任天堂が発表したニンテンドースイッチの今期目標2,000万台がどういう数字であるのか、という話をまずは確認してみましょう。任天堂は3月期決算で、毎年3月末を節目として年間目標を立てます。ニンテンドースイッチの発売日が2017年3月3日、ここから約1年が経過し、2018年3月末時点の世界累計が1,779万台でした。この時点から2019年3月末までの年間販売目標を2,000万台に設定しました。これに対して、2019年4月~9月末までの販売台数が、507万台。実はこの数字は、2018年同時期と比較すると微増しているのですが、目標は2,000万台なので、10月から3月末までで残りの1,500万台を販売しなければいけません。任天堂は年末商戦に非常に強いメーカーですので、ここから大きく伸ばしていくことが予想できますが、それでも厳しいのではないか、ということでニンテンドースイッチがピンチだという報道が出ることになります。
任天堂の設定した目標に対してピンチなのはそうかもしれません。任天堂としては、年末商戦で大きく伸ばせなければ達成できませんし、もし達成しなければビジネスプランを見直す必要があるでしょう。しかしこれが、ニンテンドースイッチというゲームが売れていない、世の中に受け入れられていない、ということを示しているかというと、ちょっと意味が変わります。
発売2年で3,800万台の意味
ここで、任天堂の目標がどういうものなのか、というお話をしたいと思います。ガイドは、任天堂の決算などで数字を精査してみて、この目標は相当に強気の目標だな、と思いました。任天堂が目標の2,000万台を販売できた場合、2019年3月末、つまりは発売から約2年1か月後に世界累計販売台数は3,779万台になります。現行世代において、世界で最も売れているハードはソニー・インタラクティブエンタテインメントが販売するPlayStation4(以下PS4)です。ハイエンドの据え置きゲーム機市場が縮小してしまった日本では、PS4はそれほど売れていない印象があるかもしれませんが、全世界的には大ヒットゲーム機です。そのPS4の世界累計3,000万台を突破したタイミングが、おおよそ発売2年後で、これはPlayStationプラットフォーム最速記録となります。というと、ほぼ同じくらいのタイミングで3,800万台近くを売りたいと言っている任天堂の目標が非常に高く設定されていることがおわかりいただけるかと思います。
ちなみに、このPS4の記録は歴代ゲーム機の中では2位となり、過去最高速で3,000万台を達成しているのはWiiです。そのWiiの2008年10月末、これはWii発売からおおよそ1年11ヵ月ぐらいのデータになるんですが、この時点で3,455万台でした。Wiiはこの時点で発売から年末商戦を1回しか経験していないということを考慮すると、年末商戦2回を経て2年1ヵ月で3,779万台は、おおむねWiiのようなスピード感を狙っている、ということが言えるかもしれません。
ニンテンドースイッチの人気と、任天堂の目標
Wiiは発売と同時にWiiスポーツが世界的なムーブメントとなり、スタートダッシュに大成功したハードです。任天堂はこの成功体験をかなり意識しているようにも思いますが、だとすると相当強気だな、というのがガイドの印象です。この水準に届かなければゲーム機として人気がないということになるかというと、それはちょっと違うでしょう。前述した通り、PS4は世界的に人気のハードです。そういう視点で見た時に、株価があがったり下がったりするのとはあまり関係なく、現状のニンテンドースイッチは人気のハードですし、かなり良いペースで売れています。もし、任天堂の目標値に届かず、2019年3月でやっと3,000万台到達したとすれば、株価は大きく下がるのかもしれませんが、ゲーム業界的には、Wiiほどの爆発的スタートダッシュはかなわなかったものの、原稿据え置きハードで最も普及しているPS4と同等の売れ行きである、と言うことができます。
少なくとも、何か危機的状況とか、ピンチであるとか、そういったニュアンスのことはないでしょう。これで売れていないということになると、ほとんどのハードが売れてないということになっちゃいますからね。
年末商戦の動向
まずはピカブイがニンテンドースイッチをかなり牽引している模様です(イラスト 橋本モチチ)
売上を牽引したソフトの1つは『ポケットモンスター Let's Go! ピカチュウ・イーブイ(以下ピカブイ)』ですが、このソフトはちょっと売上の評価が難しいんですね。初日の世界累計が300万本を突破しているんですが、これは、ポケットモンスターシリーズの本編と比較すると、かなり少ないスタートなんです。前作となる『ポケットモンスター サン・ムーン』は初日で全世界1,000万本を売り上げているので、文字通り桁が違います。そう考えると、かなり寂しい数字であるともいえます。ただ、そもそもピカブイがリメイクであることと、これまでのポケモンとは違うゲームの遊び方を提案しているスピンオフ的な位置にあることから、過去本編と単純比較をするのはあまり適切ではないかもしれません。また、ニンテンドースイッチというハードにとっては、初日300万本というのは、実は過去最高記録だという事実もあります。
整理すると、ポケモンを遊んでいて、初日に買うようなコアな層がごっそりニンテンドースイッチに移動してきているような売上ではないが、ニンテンドースイッチのハードを牽引するには十分な役割を果たしている、ということになります。ピカブイはこれまでのポケモンと比較して、かなり遊びが簡略化され、初心者や小さな子どもに遊びやすく設計されていますから、逆にコアなポケモンファンには響かなかった部分はあるかもしれません。それでも、ポケモンはパワフルでした。
そして、2018年12月7日には、もう1つのキラータイトル『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL(スマブラSP)』の登場です。ニンテンドーのキャラクターオールスターに、各有名メーカーのキャラクター達も参戦し、こちらも、大いにハードを牽引するパワーのあるタイトルです。この2タイトルを主力に、『スーパーマリオパーティ』が脇を固め、さらに、昨年発売された『マリオカート 8 デラックス』や、『スーパーマリオ オデッセイ』など、昨年発売されて定番化されたタイトルも数を伸ばしていくでしょう。
というわけで、ニンテンドースイッチは売れていないというような報道がたびたびでています、人気か人気ではないかと言えば、人気ですね。今回は世界累計ということでお話しましたが、日本でもピカブイにスマブラSPと、年末に遊ぶのが楽しみな人がたくさんいるんじゃないでしょうか。
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