“高級車からミニカー”まで。始まりは小さなエンジンメーカー
始まりが、小さな航空機エンジンメーカー(ラップ・モトーレン・ヴェルケ)であったことはよく知られていることだろう。1916年にBMW(バイエリッシュ・モトーレン・ヴェルケ)という社名となって、バイエルンの青空とプロペラを掛け合わせたエンブレムが誕生したのはその翌年のことだった。
第一次世界大戦後に航空機関連事業からの撤退を余儀なくされると、元から関係の深かった機体メーカー、バイエリッシュ・フルークツォイクヴェルケ社(BFW)とともにモーターサイクルの生産を始めたことが、事実上の起源であったと言っていい。
第二次大戦前夜、ディクシー社を買収して小型車の生産を始めると、航空機エンジン生産も再開。次第に自社開発の四輪車製造へと傾倒しはじめ、ついにキドニーグリルを持つ初のオリジナル設計モデル・303の開発に成功する。1933年のことだった。特徴的なこのグリル形状は、今日もなお、BMW車を特徴付ける最も大きな“印”である。 戦後は辛酸をなめた。工場が東ドイツ側にあったためだ。どうにか高級車&マイクロカーメーカー(イセッタ)として立ち直りをみせるも、大型車の販売が思うように伸びず、また小型車の利益は乏しく、経営は次第に悪化してゆく。期待のコンパクトカー、700シリーズ(伊ミケロッティデザイン)を発表するも、会社存続のためにはダイムラー・ベンツと合併するほかない事態にまで追い込まれていた。
ダイムラーによる買収に待ったを掛けたのが、現在も筆頭株主として君臨するクワント家だった。クワント家による救済ののち、果たして700シリーズが好調な販売を記録しはじめ、そこで得た資金を元手に、今日の大黒柱3シリーズや5シリーズの起源ともいうべき“ノイエ・クラッセ”が誕生する。現代BMWの興隆へと至る道筋が、ここにできあがったのだった。 現在のBMWは、英国のミニとロールスロイスを傘下においている。それはまるで、戦後に苦労した自動車ビジネス=高級車とミニカー、をもういちど取り戻そうとしたかのようで面白い。
最もコンパクト、Cセグメントの1シリーズ
最もコンパクトなシリーズが1で、BMWもまた、数字が大きくなればなるほど大型化していく。クラス分けを厳格にもつことがドイツプレミアムブランドの特徴でもある。現行型ハッチバックの1シリーズは、いわゆるCセグメントに属しつつ、後輪駆動であるという点がユニークだ。その完成度は非常に高く、乗り味は抜群。次世代ではFFになることがほとんど決定的なので、FRの小型BMWに興味のある方はお早めに。正直、これがホントの入門用BMWだとさえ思う。
このクラスにも流行りのSUVはある。X1だ。こちらはすでにFFがベース。ミニなどと共通のモジュールプラットフォームUKLを使用している。ここにきてようやく、BMWもBMWらしいFFの味付けができるようになってきた。X1もマイナーチェンジ後が楽しみだ。
入門スペシャリティモデル、2シリーズ
2シリーズは、ちょっとややこしい。1シリーズのクーペ(BMWでは偶数シリーズがスペシャリティという位置づけ)版、であるとともに、FFのトールワゴンタイプ(ツアラーシリーズ)も有するからだ。なかでもグランツアラーはBMW初のコンパクトミニバンとしてファミリー需要に適している。乗って楽しいのは、やはりクーペ&カブリオレだ。ただし、こちらもすでにラインナップが減らされている。モデル末期ということか。
SUVのX2は最新モデルでFFベースだが、ずいぶんと走りが良くなった。妙な突っ張りが消えて、前アシと後アシの連携もスムースで、洗練されている。それでいて、BMWらしくハンドリング性能も高い。今後のFF・BMWにも期待がもてる。
ブランドの屋台骨、Dセグメントの3シリーズ
BMWの屋台骨が3シリーズだ。こと日本においては、BMWは3シリーズに始まり3シリーズに終わると言っても過言ではない。セダンとツーリング(ワゴン)があり、エンジンラインナップも豊富だ。ツーリングボディのディーゼルあたりを選べば、高速ツアラーとしての実用度はピカイチ。モデル末期ではあるけれど、それゆえ熟成されている。完成された3シリーズを狙うなら、今もまだチャンスかもしれない。GT(グランツーリズモ)も面白い。いわゆる5ドアハッチバックで、実用度はセダンをはるかに勝る。ワゴンまで要らない、という人にはぴったり。ヒエラルキーフリーな存在感もいい。
このクラス(欧州Dセグメント)のSUVはX3で、FRベースとなる。それゆえ、乗り味的には完全にBMW。モデル末期の3シリーズが嫌なら、コチラという手もあり。
3シリーズのクーペ&スペシャリティ、4シリーズ
欧州Dセグメント、つまり3シリーズのクーペ&スペシャリティという位置づけが4シリーズ。以前は3シリーズクーペだったモデルだ。それゆえ、X3に対応するX4なる4ドアクーペボディSUVまで用意されている。つい先だって、フルモデルチェンジしたばかり。4シリーズは、奇をてらわない2ドアフォルムでラグジュアリークーペの王道をいく。パーソナルカーとしてベストチョイスの1台。カブリオレはリトラクタブルハードトップ式で、スタイル的にはソフトトップに劣るが、日常性を考えるとベターか。
面白いのはグランクーペ。いわゆる4ドアクーペで、3シリーズを少しつぶしたようなスタイルが格好いい。新たなクーペ需要を掘り起こしたモデルだと言っていい。
BMWの走りを体現する、中核の5シリーズ
世界的にBMWの中核を担うアッパーミドルクラス(欧州Eセグメント)のサルーン&ワゴン。3、5、7という並びのサルーンシリーズが72年登場の5シリーズから始まったことからも、そのことは伺える。日本では高級車の部類にカウントされるが、ヨーロッパでは上級職向けカンパニーカーという位置づけでもあり、王道のサルーンとして評価が高い。3シリーズよりもラグジュアリーな選択肢であることは間違いないけれど。
BMWのもつ自然なスポーツ性と、フラットなライドフィールを最もバランスよく体現したシリーズでもあり、実用車の最上級という捉え方もできる。ワゴンのツーリングなどはその際たるもの。パワートレーンの選択肢も豊富だ。
X5は、車名の表す通り、このクラスに属するSUVであり、大型SUVに乗用車テイストのライドフィールを持ち込んだ先駆者でもある。初代X5の存在があったからこそ、現在のSUVブームが生まれたのかも知れない。
復活のラグジュアリーGT 、6シリーズ
かつて、6シリーズといえば世界で最も美しいクーペとしてその名を馳せた。1980年代のことだ。その後、シリーズは途絶えていたが、2003年に復活。現在は復活後の第2世代を向かえている。大型の2+2ラグジュアリーGTという本来のコンセプトは踏襲した。クーペのほかにカブリオレ、そして4ドアクーペのグランクーペを用意する。
もっとも、大型クーペというコンセプトはこの世代で終わる。6シリーズクーペの後継モデルは事実上、8シリーズで、6シリーズそのものはGT(グランツーリズモ)としてその名を残すことが決まっている。往年の6シリーズファン(E24世代)としては、寂しいかぎり。
5シリーズのクーペ版、という位置づけでもあった。その関係をSUVに適用すれば、X5のクーペモデルがX6となる。19年に次期型へと進化する予定だ。
最新技術を満載する、フラッグシップの7シリーズ
フラッグシップサルーンの7シリーズ。ボディ構造にCFRPを用いたカーボン・コアを採用し軽量化と剛性向上を実現。ステレオカメラを用いたサスペンションの調整やリモートコントロールパーキングなど、最新装備も充実する
もっとも、世間の注目はサルーンよりSUVに集まっている。これまでフルサイズSUVを造ってこなかったBMWもようやく重い腰をあげて、X7の開発を終えた。BMWのフルサイズSUVが果たしてどのような走りをみせるのか。注目したい。
まもなく登場。ファン注目の8シリーズとZ4
8シリーズは大型の2+2ラグジュアリークーペ。事実上、6シリーズの後継モデルとして誕生する。90年代にも8シリーズは存在したから、BMWファンにとっては懐かしいネーミングの復活だ。2ドアクーペのほか、カブリオレ、4ドアクーペをラインナップする予定。またZ4もニューモデルがもうじき上陸する。トヨタスープラとの共同開発ばかり注目されるが、貴重なコンパクトオープン2シーターとして、また、8シリーズと同様、次世代のインテリアデザインを採用するモデルとして、BMWファンなら注目しておきたいモデルだ。
ハイパフォーマンスモデルの代表、Mモデル
BMWを語るとき、忘れてはいけないのが、BMW M社の存在だ。70年代のワークスモータースポーツ活動にその起源をもつが、現代ではモータースポーツとは少し距離をおいて、M専用モデルやM関連パーツの企画と開発、特注車両(インディビジュアル)の生産などを行なっている。M社が開発するMモデルは、現在、2~6までの乗用車シリーズと、X5、X6に用意されている。定義としては、パワートレーンとシャシー&サスペンションを専用開発したモデル、となる。
Mのビジネスはますます重要度を増しており、昨今、その展開も積極的だ。Mモデルを基本に、もう少し気軽にMテイストを楽しめるモデルとして、パワートレーンを専用開発せずベースモデルのMチューニングとしたMパフォーマンスを用意。さらに、Mモデルの上には、実用性とさらなる高性能を与えたMコンペティション、そしてサーキットパフォーマンスを高めた硬派なMクラブスポーツ(CS)を用意する。
BMWのEV化を担うサブブランド“i”
今後、BMWのサブブランドからメインフューチャーへと進化するかもしれない“i”。2011年に誕生した、BMWの電動化を担う新ブランドだ。現在ではi3とi8をラインナップ。カーボンファイバー強化樹脂を積極的に使い、キャビンとシャシーを別体設計して車体開発のフレキシビリティを拡げるなど、随所に“本流ではできない”新たな試みが見受けられる。近日中に、iブランド初のSUV、i5も登場する予定だ。i3は、コンパクトなフルEVもしくはレンジエクステンダー付きEVで、初のマイナーチェンジを受けたばかり。電池性能が向上し、航続距離が伸びたとともに、いっそうBMWらしい機敏な走りを手に入れた。
一方のi8はバタフライドアのスーパーカールックスで話題を呼んだスポーツタイプのPHEV(プラグインハイブリッド)だ。1.5Lの直3エンジンとモーター&バッテリーを組み合わせた。最新モデルとしてロードスターバージョンを用意している。
BMWらしさが味わえるオススメ3+1モデル
X2 ここにきてようやくBMWは、BMWらしい走りテイストをもつFFに仕立てあげてきた。ハンドリングのみならず、乗り心地もやっとFRシリーズに追いついてきたと言っていい(まだ差はあるけれど)。もうひとつ、X2ではエクステリアデザインに遊び心がある。これまで、どちらかといえば真面目一辺倒だったBMWのデザインが、ちょっとポップになった。そのあたりもまた、入門用としては好適だろう。5シリーズ なんだかんだ言って、BMWラインナップの中核を担うモデルだ。BMWワールドをホンキで味わってみたいのなら、まずは5シリーズのサルーンに乗ることをオススメしたい。スポーティなイメージが先行するBMW、実はそのフラットで奥行きのある滑らかな乗り心地も身上だ。もちろん、最新技術も満載。数あるパワートレーンから好みを選んで試してみて欲しい。
M2コンペティション スポーツドライブ派には断然コチラをオススメ。コンペティションが追加となり、いよいよパワートレーンもM開発となった。伸び感とパワーフィールが絶妙で、頃合いのボディサイズと相まって、これぞMの真骨頂(昔のM3のような、という意味で)だと思う。
実用性とスポーツ性を兼ね備えているという点で、U1000万円のスポーツカーのなかでは秀でた存在。普段乗りからドライブを楽しみたい向きには6MTを、サーキットなどスポーツドライビングを楽しみたい向きにはDCTを、それぞれオススメする。
新型3シリーズ(を待たないことには始まらない)
現時点で個人的なイチオシはM2コンペティションだけれど、この秋デビュー予定の新型3シリーズも早く試してみたい1台だ。BMWの屋台骨でもあるし、今後を占うという意味でも重要なモデル。その完成度はいかに。劇的なコンセプトチェンジこそないだろうけれども、軽量化が一段と進み、走りと装備の進化はかなりのもの、らしい。何はともあれ新型3シリーズの登場を待たないことには、始まるハナシも始まらない。BMWにとって、それほど3シリーズは重要なモデルであると言っていい。