アントワープ・新進気鋭のショコラティエ「イースク」
JITSK。この名前をご存知なら、ベルギーチョコレートに詳しい方、またはかなりのチョコレートファンかもしれません。 JITSKと書いて「イースク」と読みます。チョコレートブランド名であり、ショコラティエの名前。イースク・ヘイニンク、という名前の28才のショコラティエによるブランドです。 昨年初めていただいたとき、これは?と気になりました。素材の香りが高く、複数素材の繊細なマリアージュ。目立ちたいといった「勝負感」のようなものがなく、見た目は潔いまでにシンプル。しかし味は落ち着いて味わうほど、ストイックです。「どこの国のどんな人が作るチョコ?」枠にはまらないチョコレートとの静かな出会いでした。 聞けば、ショコラティエは28才、お店は2015年にオープン。アントワープ郊外にあるそう。
アントワープといえば、ファッション、モードの発信地。世界的なアーティストやクリエイターを輩出する「クール・キャピタル」です。私の中で、チョコレートがアントワープの「新しいクリエイション」の息吹とリンクしました。
思い立ったが吉日。ということで、2018年秋、お店を訪れました。JITSKの拠点、アントワープへ!2019年バレンタインシーズンに日本で販売予定なので、チョコレートファンのみなさんは参考に。2018年の秋に私が訪れたときのレポートを、シェアします。
アントワープのショコラティエ「イースク」を訪ねて
「JITSK」は、アントワープ駅から車で10分くらいのところにあります。 かっこいい……!クリエイティブな男性たちの間でも、話題のお店だそうです。 JITSKは、大きなビール工場をリノベーションした建物の中にあります。
赤い壁にあるように、建物内には、ブッチャー、ベーカリー、チーズショップ、レストランなどが集まっています。どのショップも物作りに独自のフィロソフィーを持ち、インテリアやディスプレイがアーティスティック。
イースクシェフはどんな人?
JITSKのオーナーでショコラティエの、イースク・ヘイニンクさんです。 イースクシェフは、12歳から名門製菓学校PIVAで学び、チョコレートの国内ジュニア大会で優勝。18歳で起業し、地元の有名レストラン、ホテルにオーダーメイドチョコレートを販売していました。その後は世界50カ国でチョコレートのプロ向けに技術指導、起業6年目にして24歳で自らのショコラトリー「JITSK(イースク)」をオープンしました。「ディテールがインポータント」と流暢な英語で語るイースクシェフは、常に冷静で自分の考えと理想に忠実です。明確で論理的でお話していて気持ちいい。
趣味は「クラシックカーの修理」だそうで、いわゆる「理系」ですね。マシンが大好きで、機械の話となると目がキラキラ、チョコレート製造用機械の構造も深く理解しているそうです。
価値観が同じ仲間と協力しあう
そんなイースクシェフと、建物内のショップへ行きました。「ONLY CHEESE(チーズショップ)」も「BUTCHERS STORE (ブッチャー)」も、オーナーはイースクさんの仲間。 「チーズショップのオーナーはベストフレンド。センスと価値観を共有しているので、チョコレートのガナッシュに使うバターなどを取っています。ブッチャーも話題の店で、共同でプロジェクトを進めています。クオリティに対するマインドセットが同じもの同士なので協力しあいます。レストランにデリバーするときも一緒に、などですね」(イースクシェフ) レストランへのデリバリー、といえば、JITSKはミシュランの星付きレストラン向けにチョコレートを作っています。「NUANCE」(二つ星)向けには「寿司酢」や、高級フルーツ「ブッダハンズ」を使ったチョコレートを。別の有名レストランのシェフも友人だそうで、デザートのレシピやデザインを担当しています。 同じ価値観を持った、別フィールドの人物は仲間同士になり、協力しあい、新しいことが始まる。自分の領域で最高のものを生み出す人たちの信頼関係。ここはクリエイティブな場所なのです。イースクの、フルーツ・野菜・ハーブへのこだわりがすごかった
さて。特別に、ショップの奥にあるアトリエへ伺いました。すると私はいきなりびっくり!大きな「フェンネル」が束になっているのです。 ザクザクとカットし、ジュースを絞り出すスタッフ。イースクさんに「これをどうするんですか」とお聞きすると「もちろんチョコレートに使いますよ」と。 それにしても、すくすく育った感じ。太くて健康的なフェンネル。「僕が管理するオーガニックファームで作ったフェンネルは、香りが高く素晴らしい。キャラメル系のチョコレートにします。いや、レモンと使うかもしれない……フェンネルのジュースを使ったチョコレートができたら知らせますよ」。とイースクさん。(待っています!と私)
目を移すと、別の場所でイースクさんと4年仕事を共にするトーマスさんが、マンゴーを剥いていました。 「手を使って剥くのが大事なポイントです。夏に日本へ行った時は、フルーツを剥きやすいナイフを買いに、大阪までいきました」(イースクシェフ)。
- トロピカルフルーツは、専門店でクオリティをチェックして購入
- フルーツ、野菜はなるべくオーガニックを
- 必ず自分で買うものを決める
- 自身の農園産のものはできる限りフレッシュなうちに使う
オーガニック農園を管理し、素材を集める
イースクシェフは、自身で管理するオーガニックファーム(農園)を持っています。日が暮れかけてきましたが、シェフと一緒に出かけました。 町の中心部からは車で1時間ほど。空気が澄みわたり、とても静か。ここでフルーツや野菜に向き合っていると、私もすうっ……と気持ちがほどけていくようでした。なぜ農園の段階から素材に関わるのか、お聞きしてみました。
「一つ目の理由は、信頼できるオーガニックファーマーの友だちがいるからです。彼は畑をやっていて、僕の価値観を知っています。二つ目は、求める素材のためには「土」が重要だから。スーパーなどには、土を使わず栽培されたものが販売されていますが、僕は良い土から栽培されるラズベリーには良いフレーバーがあるのを知っています。多品種あるラズベリーの中から、僕は昔ながらのなかなか手に入らないものを使いたい。ファームがあれば栽培できます」(イースクシェフ) オーガニックファーマーのオリさんです。オリさんは、3ヘクタールのファームで、JITSK以外にも、高級レストラン向けに、貴重な野菜、キャベツ・トマト・水菜の希少品種を専門に栽培しています。
オリさんは、イースクさんが14歳の時からのお知り合い。「イースクとはいい関係です。彼はフォーカスが強い。何かやりたいと思ったらすぐにやりますよ」と、教えてくれました。
イースクの新作は野菜を使ったチョコレート
私が伺った日は、新作が完成していました。「オーガニックファームの野菜を使ったコレクションです。4種、全てに野菜が使われていて、日本で販売します」(イースクシェフ) 日本で販売する予定のもの!?と感激!!野菜、ハーブ、フルーツと、それを使ったチョコレートを並べてもらいました。
「ビーツ&ジンジャー」(写真上)
ジンジャーのガナッシュと、ビーツのゼリーの2層。両方の風味が繊細にマッチします。
「キャロット&シーバックソーン」(ドーム型)
人参のやさしい甘さにシーバックソーンの酸味が調和。最後にチョコレートの風味が追いかけて来ます。
「カシス&ヴァーベナ」(白いハート型)
バーベナの香りがとても高く、農園産のカシスの風味、そして酸味が調和します。
「ラズベリー&ミント」(写真下)
ナチュラルなミントの香りがさわやか、農園産ラズベリーが香るやわらかなゼリーの風味が追いかけてきます。 農園で採れたラズベリーをブラックティ(紅茶)と調和させた「ラズベリーブラックティ」は日本向けの一粒。シックなカラーです。
私は昨年「マンゴー柚子」「シナモンブロッサム」「モヒート」などが気に入っていましたが、今年はもうひとつ「レモンベイリーフ」が印象的でした。
ベイリーフのホワイトチョコレートガナッシュと、レモンのゼリーの2層です(※日本でもボックス入りで販売予定です)
イースク・ヘイニンクシェフに伺いました
ーショコラティエになったきっかけは?僕は1990年、ベルギー第2の都市アントワープで花屋を営む両親のもとに生まれました。小学生の頃には近所のパン屋さんに興味を持って手伝いをしていました。料理の勉強は14才から始めています。サービスも学びましたが、自分は「作る」ことが好き、「クリエイティブに考えて作ることが面白い」タイプだと気づきました。チョコレートのように、フレーバーの入っている小さいものを作るのは好きです。僕は色々やりたい人間なので、全然違うタイプのものを作れてあらゆる世界と関われるショコラティエは面白い道では、と感じました。 ーどんな姿勢でチョコレートを?
僕は「New Generation」です。技術力の必要なベルギーの伝統技法「シェル製法」を継承しつつも、とらわれたくありません。チョコレートのセンターがガナッシュか、プラリネか、といったカテゴリーだけにおさまる必要もないと思っています。
僕は色々なことに興味があります。父親には「色々やってもよい。ただしやるなら一生懸命にやりなさい」と言われました。自分はエネルギーがある方で、あまり寝る時間が要らないタイプです。一生同じことをやるかはわかりませんが、今はオープンマインドに、チョコレートを通して新しいチャレンジすることが面白いです。
ー色をチョコレートに使わない理由は?
色は味にならないからです。色があっても味は変わらない。イースクというブランド名で出すチョコレート、自分のコレクションには一切、色を使いません。「味が一番」です。アントワープではというか僕の周りではチョコレートは、逆に派手な色のものは買いたくない人が多いですよ。ただし日本で販売するにあたって「日本では色を使った方が受け入れられやすい」という声があったので、日本向けのみ若干、ナチュラルな素材を使って色を加えます。 ー使っているチョコレートについて教えてください
カカオ豆からチョコレートを作るつもりは今はありません。その道のプロに任せる領域です。ただし僕はチョコの質を自分でコントロールしたいので、自分が最適とする味のチョコレートをオーダーメイドしてもらっています。フルーティなマダガスカル、ナッティなメキシコをブレンドしたビター、カカオ分の高いミルク、ホワイトがあります。僕が使いたい素材とマッチするか、スムーズな口どけ、テクスチャー、ミルクフレーバーの良さは重要です。スイス風にミルクは全粉乳を使っています。
ーJITSKさんのボンボンショコラを美味しく食べる方法は?
センターはキャラメルでもガナッシュでもないもの、2層構造など、やわらかいものも多いので、ナイフなどで半分にカットしないで食べてみてください。そのままの方がチョコレートの良さがわかると思います。また、カジュアルなものでおすすめなのは、自家製オレンジのコンフィのチョコレートコーティングとヘーゼルナッツペーストです。ここですごく人気があります。オレンジのコンフィは美味しいですよ。スペインのオレンジを使って、コンフィチュールは独自のマシーンで作りました。
うれしいニュース!日本でもバレンタインシーズンに販売予定
JITSK(イースク)のチョコレートが、今年2019年のバレンタインシーズンに日本で限定販売されます。日本で入手できるチョコレートの詳細はこちら→ https://jitsk.jp/products/assort.html
販売される場所はこちら→https://jitsk.jp/news/post008.html
JITSKのチョコレートはベルギー国外でも評価されています。カタールの領事が訪れた際は「口の中で繰り広げられるサーカスのようだ」と評し、ゴー&ミヨが発行した、2016年「ベルギー・ショコラティエとパティシエ」(初版)では、JITSKが「Dicovery」として一軒のみ紹介されました。
久しぶりに「こんなベルギーのチョコレートがあるのか」と感じたイースクシェフのチョコレート。小さな一粒に込められた上品な香りから「素材への徹底したこだわり」を感じてください。
お知らせ!
2019年バレンタインシーズンは、イースクシェフが来日予定です。シェフを見つけたら実際にお話してみてくださいね(190㎝以上の長身、遠くからでも見つかりやすいはず!)。落ち着いたやさしい口調から、チョコレートへの、ぶれない誠実な向き合い方が感じられると思います。
■DADA
JITSK(日本向けサイト)
JITSK(本店サイト)