プロ野球12球団対抗スプラトゥーン2大会

 
スプラトゥーンの図

スプラトゥーンとプロ野球のコラボ、といっても野球をするわけじゃありません


日本のeスポーツの未来に関わりそうな、大きなニュースが流れました。2018年7月27日、日本のプロ野球を統括する「一般社団法人日本野球機構(以下NPB)」は、スプラトゥーン2をサポートし、12球団対抗の「NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2」を開催すると発表しました。

NPBは、「全ての人々に野球とスポーツの新しい楽しみ方・関わり方を提供する」として、今回の発表の約1週間前、2018年7月19日に「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ」の開催も発表しています。このニュースは、つまり、プロ野球と、野球ゲームである「実況パワフルプロ野球(以下パワプロ)」が、同じ野球というスポーツの中で協力しあったという構図でした。

これもビッグニュースではありますが、しかし、続いてスプラトゥーン2もサポートするとなると、意味が全く変わります。プロ野球が、野球ではなく、本当にゲームをサポートした、ということになるからです。今回発表された内容とともに、それが日本のeスポーツにおいてどのような意味を持つか、ご説明したいと思います。
 

日本におけるeスポーツの問題

eスポーツの図

賞金や社会的認知など、まだまだ様々な問題がありま

今回の発表が日本における今後のeスポーツをどう変化させる可能性があるか、それを考えるには、日本のeスポーツが抱える問題を理解しておく必要があります。今回はこの発表に関わる3つの点についておさらいしておきます。

1つ目、そもそもeスポーツに適しているゲームが日本国内ではそれほど流行っていないということ。eスポーツについて語られる時、この点について言及されることは意外と少ないのですが、しかし、重要なことです。なにしろ遊ぶ人が盛り上がってなければ、観る人も盛り上がりません。

eスポーツのゲームと言えば、対戦ゲームです。シューティングゲームであったり、格闘ゲームであったり。しかし、日本において、シビアな対戦ゲームというのはそれほど流行っていません。格闘ゲームと言えばストリートファイターシリーズなど、日本のゲームのイメージがありますし、実際、日本には有名な格闘ゲームプレイヤーがたくさんいます。しかし、最新作である「ストリートファイターV」シリーズにしても、日本ではそれほど売れてはいないのです。

対戦ゲームそのものが売れていない、というわけではなく、アイテムがたくさんでてきて、運次第で大逆転も、といったパーティー要素の強いものは需要がありますが、シビアな実力を競うゲームはあまり流行っていません。つまり、競技性の高いゲームがそれほど売れていないのです。

2つ目、賞金問題。日本の法律では、高額の賞金をかけた大会を開くのは難しい、とされていました。参加者から参加費を募って、そこから賞金を出した場合には刑法賭博罪にあたる可能性があります。また、競技に使われるゲームを発売しているメーカーが賞金を出した場合には、景表法に抵触する恐れがあると考えられています。ですから、大きな大会を開くにあたっては、日本の法律に抵触しないことを確認しながら、進めていくということに注意払わなければいけません。

3つ目に、eスポーツ自体の認知が低く、社会的にスポーツと認められていない、という点が挙げられます。ゲーム業界においてeスポーツはにわかに盛り上がってきてはいるものの、おそらく、ゲームユーザーに限ったとしても、どういうものか浸透しきっているとは言い難いと思われます。ゲームをプレイする人の中にも、ゲームをスポーツに区分するのに違和感を感じている人はそれなりにいるんじゃないでしょうか。

それこそゲームをあまりしない人であれば、スポーツは体を動かすもの、汗をかいて運動するものというイメージで、スポーツを競技という意味でとらえて、競技性の高いゲームをeスポーツと呼ぶ、といわれてもピンとこない場合がかなりあるでしょう。
 

スプラトゥーンという特異点

スプラトゥーンの図

シューティングはeスポーツの代表的なジャンルですが、国内で対戦型のシューティングゲームがこれほど流行った例は他にありません

さて、これらの問題点と今回の発表の接点についてお話していきたいと思います。1つは、シビアに実力を競う対戦ゲームが日本ではそれほど流行ってはいない、という点について。それほど、という書き方をしましたが、全く流行っていないわけではありません。その例外中の例外が、スプラトゥーンシリーズです。

日本ではシビアな対戦ゲームはあまり流行らない傾向にありますし、オンライン対戦主体のシューティングゲームは、一部のコアゲーマーが遊ぶジャンルです。しかし、スプラトゥーンは初代がWii Uで発売されると、おおよそ新規のシューティングゲームタイトルとは思えない盛り上がり方をみせ、その人気は子ども達や女性層にも広がっていきました。スプラトゥーン2の売上は、任天堂の2018年3月期決算時点で国内261万本。文字通り桁が違うのです。

もし、日本のeスポーツが大きく発展するとしたら、キラーコンテンツは間違いなくスプラトゥーンでしょう。もともとスプラトゥーンは「スプラトゥーン甲子園」という全国大会をこれまで3回開催し、いずれも大きく盛り上がってきました。そのスプラトゥーンをNPBがサポートした、ということになります。
 

賞金ではなく手当

スプラトゥーンの図

プレイヤーにお金は支払われますが、勝敗に応じて手に入る賞金ではなく、活動に対する手当ということになります

賞金問題についてはどうでしょうか。スプラトゥーンがもともと全国大会として開催している「スプラトゥーン甲子園」では、賞金はありませんでした。今回のNPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2も賞金は出ません。しかし、手当が出ることになっています。

NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2の概要をご説明すると、2018年7月28日から開催している「第4回 スプラトゥーン甲子園」に出場するチームのうち、NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2への参加を希望するチームについて、選考を行います。チームの選出に当たっては、第4回 スプラトゥーン甲子園の各地区大会に、NPBの専門スカウトが訪れて、試合を観戦するということです。そして、12球団の各代表が選ばれることになります。

そして、その選ばれたチームは、大会の成績に応じた賞金というものは用意されませんが、プロモーション活動などに対する手当として、一律の金額を支払うということになっています。この方法だと、渡されるお金は賞金ではなくなりますから、前述した刑法賭博罪や、景表法とは関係が無くなります。

高額の賞金がかかっていなければ、選手も、観客も盛り上がらないだろうかというと、おそらく現時点においてはいささかも関係ないでしょう。厳密に言えば、スプラトゥーンを知らない人に興味をひかせるという点で言えば、高額賞金というのがひとつのフックにはなるはずです。しかし、スプラトゥーンが好きな人達は、お金がかかっているかどうかなんて些細なことなはずです。その証拠に、スプラトゥーン甲子園には賞金がなく、そして大いに盛り上がっていたのです。何故なら、ゲームが人気だからです。
 

プロ野球がゲームを「スポーツ」と認めた

eスポーツの図

誰もが認めるプロスポーツであるプロ野球が、eスポーツをスポーツだと言ってくれれば、ゲームをしない人にも説得力がありそうです

さて、最後の1つ、eスポーツの認知についてです。この点についても、NPBがサポートをしたという事実は非常に大きいでしょう。NPBは今回の発表にあたって「全ての人々に野球とスポーツの新しい楽しみ方・関わり方を提供する」としています。

なんでプロ野球がゲームをサポートするのか、というのは多くの人が疑問に思うはずです。冒頭にご紹介したパワプロなら、野球だから、と言えるでしょう。しかし、スプラトゥーンとなると話は違います。そこで、スポーツの新しい楽しみ方・関わり方を提供する、という文言になるわけですね。プロ野球が、ゲームはスポーツであり得る、eスポーツは新しいスポーツの楽しみ方の1つである、と言ってくれたことになります。

日本で最もメジャーなスポーツの1つである野球のプロ団体12球団が、eスポーツに取り組んでくれる、ということは、社会認知的に大変に大きなものです。メディアの露出も増えるでしょうし、今までeスポーツなんて観たことも聞いたこともなかった人が、その言葉に触れる機会も増えるでしょう。

また、非常に分かりやすくもなります。スプラトゥーン甲子園でどのチームが優勝したとか、誰がすごかったと言っても、現状ではスプラトゥーンのかなりコアなファンにしか届きません。実は、スプラトゥーンのプレイヤーだったとしても、そのレベルで興味を持っている人は一部でしょう。しかし、スプラトゥーン大会の決勝戦は阪神と巨人で、僅差で阪神の優勝、と言えば「おっ? なにそれ?」思う人が圧倒的に増えるはずなのです。

しかもNPBは、今後も野球以外のゲームに関して「NPB eスポーツシリーズ」を展開していく予定だということです。
 

日本eスポーツの牽引力となるか

スプラトゥーンの図

スプラトゥーンがプロ野球と組んで大きく成功した、という事例がもしできれば、それは他のゲームにも波及していくかもしれません(イラスト 橋本モチチ)

スプラトゥーンとプロ野球という、eスポーツにおいて国内でおおよそこれ以上の組み合わせは考えられないというぐらいの最強タッグが実現しました。そして、この話には夢があります。大会に優勝すると、高額賞金がもらえるというのも夢がある話でしょう。でも、もしかしたらこの枠組みは、もっと夢があるかもしれないとガイドは思います。

自分の得意なゲームでがんばれば、スカウトの人が見てくれていて、プロ野球の球団の公認チームになれるかもしれない。どうですか? すごく夢がある話に聞こえませんか?

国内eスポーツの問題点について色々と書きましたが、それらを解決する時、究極的に必要なことは、たくさんの人の盛り上がりや、熱狂です。たくさんの人がどうしようもなく盛り上がって、誰もが参加したい、誰もが観たいというものであれば、それはお金を出す人も現れますし、人も動きます、問題は解決に向かっていくのです。

一方で、全部の問題を綺麗に解決したとしても、ゲームを遊ぶ人がいなければ、それは意味がありません。

スプラトゥーンとプロ野球という組み合わせで、多くの人が興味を持ち、そこに熱狂が集まり、夢が感じられれば、日本のeスポーツ全体が大きく進んでいくきっかけになり得るかもしれません。

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