介助犬とは?身体に障害のある人をサポートする補助犬の種類
「介助犬」とは、肢体に障害がある人の日常的動作や生活をサポートする犬たちのことを指します。介助犬と、視覚に障害がある人を安全に歩けるようにサポートする「盲導犬」、聴覚障害のある人に生活の中で必要な音を知らせてサポートする「聴導犬」の3種を合わせた総称を「補助犬」といいます。補助犬は、介助犬・盲導犬・聴導犬の3種。それぞれの役割によって、必要とされる性格要素には若干違いもある:(c)公益財団法人日本補助犬協会
介助犬に向く犬種・犬の性格と実働頭数
補助犬としては、3種共通して以下のような性格が求められます。- 人に対する愛着があり、人と一緒に何かを楽しむことが好きで、人との生活に積極的に関わろうとする性格。
- 順応性があり、環境の変化に左右されず、いつも自分らしくいられる。
- 集中力や、率先力がある。
- 生活の中でいつも飼い主を意識し、呼ばれたらすぐにスイッチの入るタイプ。
- 物を拾うにも様々な材質や状況があるので、何度もトライして諦めない性格。
介助犬の仕事
では、介助犬はどんな仕事をするのでしょうか。その例を写真で見てみましょう。ドアノブに結ばれたハンカチを引っ張ってドアの開閉。指示を与えるには、動詞は英語、名詞は日本語が使用される。その数、動詞で約60語、名詞は約30語(指示語は育成団体によって異なる):(c)公益財団法人日本補助犬協会
ユーザーさんが靴下やスリッパを脱ぐお手伝いも。「take(咥える)+スリッパ+pull(引っ張る)」=「スリッパを脱がせて」:(c)公益財団法人日本補助犬協会
冷蔵庫から飲み物を持ってくることもできる:(c)公益財団法人日本補助犬協会
介助犬の誕生から訓練、リタイアまで(日本補助犬協会の場合)
ユーザーさんにとってはなくてはならない存在である介助犬なわけですが、その誕生からリタイアまで、介助犬は主に以下のような一生を送ることになります。介助犬訓練事業者や介助犬を認定できる厚生労働大臣指定法人はいくつかありますが、今回は日本補助犬協会のケースでご紹介します。気質や血統、病気、飼育環境のことなどきちんと考えて繁殖された子犬は、生後2ヶ月になるとパピー・ファミリー宅に預けられ、そこで1歳まで過ごす間に、人への信頼感を育み、人との社会生活に必要な基本的マナーやしつけを身につける。
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1歳を過ぎると訓練センターに戻り、介助犬に向くかどうか、約3週間かけて適性評価を行う。
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適性のある犬は、その後、座れ、伏せ、待てなどの基本訓練や、「物を咥える」「持ってくる」「それを渡す」などの基本的な介助動作訓練を行い、候補犬が作業できる内容と、介助犬を必要とする人のニーズや相性などを見てマッチング。ペアが決まると、ユーザーとなった人のニーズに合わせた訓練をさらに行う。基本訓練と介助動作訓練で、約10ヶ月程度。
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ユーザーと候補犬との合同訓練へ。犬の飼育方法を学ぶと共に、基本訓練、介助動作訓練を約40日間行う。
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認定試験を受ける。認定団体は厚生労働省の指定法人。
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合格するとユーザーとの生活が始まる。最初の1年間は、様々な経験をしながら互いの信頼関係を築いていくもっとも大切な期間。介助犬としておおむね2歳~10歳まで8年間活動する。
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10歳を過ぎると引退となり、ボランティア宅/一般家庭/元パピー・ファミリー宅/引き続きユーザー宅、のいずれかで余生を過ごす。
介助犬を希望するには(日本補助犬協会の場合)
こうして多くの人の手によって大切に育てられた介助犬を希望する場合は、育成団体に申し込みをし、面接の結果、貸与が適当であると認められれば、希望者の性格や体格、生活環境などを考慮して候補犬を選びます。その後、犬との合同訓練を行い、認定試験に合格すれば、晴れて介助犬ユーザーとなることができます。そうなるためには次のような条件も。
- 18歳以上であり、身体障害者手帳をもっていること。
- 候補犬との4週間にわたる合同訓練が行えること。
- 愛情をもって介助犬を飼育できる人。
補助犬に関連する法律
補助犬に直接的に関連する法律としては、2002年に施行された『身体障害者補助犬法』がありますが、この中で、「国や地方公共団体、公共交通機関、不特定多数の人が利用する施設などを身体障害者が利用する際、補助犬の同伴を拒んではならない」としています。
ということは、公共施設はもちろん、飛行機や電車、バス、タクシーなどの乗り物、宿泊施設や病院、飲食店、スーパーマーケットなどいろいろなところで補助犬の受け入れが義務化されているということです(ただし、従業員50人未満の民間企業や民間住宅などでは努力義務)。
さらに、2007年の法改正では、一定規模以上の民間企業に勤務している身体障害者が補助犬を同伴している場合、その受け入れも義務化され、各自治体では補助犬にまつわるトラブルに関する相談窓口も設置されることになりました。
厚生労働省発行の啓発ステッカー。この他、全国盲導犬施設連合会や自治体発行の啓発ステッカーもある:厚生労働省ホームページより
育成費用は1頭につき300万円。補助犬をめぐる現状
しかし、そのような法律がありながら、実際はいまだに入店・乗車拒否はなくなりません。なぜなのでしょう?国内で唯一、盲導犬・介助犬・聴導犬の3種を扱い、その育成および認定を行っている公益財団法人日本補助犬協会広報担当の安杖直人さんは、「盲導犬はよくても、介助犬や聴導犬であると入店や乗車を拒否されてしまうことがあります」とおっしゃいます。
安杖さんご自身、交通事故で車椅子が必要となって以来、介助犬と生活を共になさっている。2代目介助犬ダンテと(ラブラドール・レトリーバー、オス、6歳)。ダンテはオーストラリアの盲導犬協会出身:(c)Pmoo
加えて、前出の法律についても知らない人がまだ多いのだと思います。
もうひとつには、国内での補助犬の総数自体が多いとは言えないため、一般の人が目にする機会もあまりないことが、認知度や理解度の不足を呼んでいるのかもしれません。実際、補助犬の受け入れ体制をつくった企業や施設があったとしても、補助犬に出会う機会がないままに、いつしかフェイドアウトしてしまうケースがあるそうです。それはとても残念なことですね……。
国内での補助犬の実働数は、盲導犬941頭、介助犬75頭、聴導犬74頭/身体障害者補助犬実働頭数(都道府県別)、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部(2018.5.1現在)より:(c)公益財団法人日本補助犬協会
安杖さんは、「だからこそ、もっと多くの方に補助犬について知っていただきたいです」とおっしゃいます。
補助犬は、多くの人の理解と協力、援助を必要としている:(c)Pmoon
日本での介助犬第1号は、アメリカからやって来たブルースという名のチェサピーク・ベイ・レトリーバーで、1992年のこと。当時は、犬雑誌でも度々取り上げられていましたが、それから26年。今この時も、介助犬を待ち望む人たちがいることでしょう。
取材協力・資料提供:
公益財団法人 日本補助犬協会