慢性閉塞性肺疾患とは
別名「タバコ病」とも呼ばれる慢性閉塞性肺疾患(COPD)。食事療法も非常に大切です
『笑点』などで国民から愛されていた桂歌丸さん。名誉顧問を務められていた横浜橋通商店街でも悼まれています
ごく簡潔にこの病気を説明するならば、「肺が汚れてしまうことで肺が十分に機能しなくなり、呼吸困難に陥ってしまう病気」と言えるでしょう。肺が汚れる主原因はタバコだと言われています。そのため、「タバコ病」と称されることもあります。また、慢性閉塞性肺疾患という正式な病名が長いため、略称の「COPD」の方が馴染みがある方もいらっしゃるかもしれません。
「COPD」という呼び方では、過去に和田アキ子さんが出演されて「タバコは良くない」と呼びかける病気啓発のCMあたりをきっかけに、一般に知られるようになったように思います。
私自身も、COPDの患者さんに対して食事療法のお話をすることがあります。患者説明の際には、必ず以下のようなことをお伝えしています。
「このお鼻のチューブをつけてもらっている人は、100メートル走を全速力で走った後と同じ状態です。だから、普通の人より息をするのにエネルギーが多く要ると考えてください。食欲はないと思いますが、頑張って食べてもらわないと、体に障ります」
今回は、具体的なCOPDの食事療法について解説したいと思います。
COPD治療の食事療法のポイントは「少量で高エネルギー」
COPDになると、食欲が減り、やせることで、体力や筋力が低下してしまいます。そのため息がきれて動きたくなくなるため、さらに食欲が減ってしまう……という負のスパイラルに陥りがちです。この悪循環を断ち切るために大切な唯一の方法が、「食べること」なのです。実際に歌丸さんも生前に、「医者から太ってくださいといわれるのはアタシくらいなもの。」とお話されていました。太るためには、「使用エネルギーよりも摂取カロリー」を多くする必要があります。
基本的な考え方は以下の4点です。
- エネルギーをしっかり摂る
- 脂肪の多いものを食べる
- たんぱく質の多いものを食べる
- 食事回数を増やしたりおやつを食べる
ご本人の嗜好や生活スタイルにあわせて、この4つを組み合わせて食事療法を組み立てていきます。
歌丸さんが亡くなられる1年ほど前に「初めてから揚げを食べました」と話されていたのも、この食事療法に則ったものです。さすがに70代後半で初めてから揚げを食べるのは大変だっただろうと気の毒に感じたのを覚えています。
また、呼吸機能をそれ以上悪くしないために、お薬による治療をしっかり行うこと、そのために風邪やインフルエンザといった感染症を予防することこなども大切です。
食欲がなく食べられない場合の食事療法のポイント
さらに歌丸さんの生前のコメントで、「でもね、食べられないんだもの。」というものが印象的でした。考えてみれば、当然です。100メートルダッシュした後のように呼吸が苦しいのに、食が進む人は稀でしょう。そのため、上記の「高エネルギー」に加え、「嵩ができるだけ小さいこと」も重要なポイントになってきます。
ご本人の嗜好にあわせて食べられるものであれば、まんじゅうや菓子パン、チョコレートなどのような菓子類でも構いません。とにかく食べてもらうことが大切です。
それでもどんどん痩せてしまうようであれば、高エネルギーの補助食品も考慮します。管理栄養士であり、歌丸さんのご自宅にほど近い場所で暮らす私が、歌丸さんの訃報に触れて思ったのは、「高エネルギー補助食品を“薬だと思って飲んでください”と言って渡したかった」ということでした。以下で、市販されている高エネルギー補助食品をご紹介します。
COPD食事療法にも有効な市販の高エネルギー補助食品
私が調べた中から、実際にCOPDの食事療法に有効と考えられる市販の高エネルギー補助商品をご紹介します。■メイバランスシリーズ(明治)
スーパー、薬局等で手軽に手に入ります。
■ニュートリコンク2.5(ニュートリー株式会社)
プレーン味なので、コーヒーを入れてカフェオレ風にしたり、牛乳みそ汁風にしたりアレンジが容易です。
■スティックゼリー カロリータイプ(林兼産業株式会社)
※リンク先はPDF
極少量のため、食べきりが容易です。
■ブイクレス ハイプチゼリー(ニュートリー株式会社)
■エネプリン(日清オイリオ)
■テルミールアップリード(TERUMO)
嵩が一番小さく、1ml=4kcalと高エネルギーをとることができます。
これらの製品は開けてすぐに食べられる手軽さもあるため、使いやすいと思います。
■MCTオイル(日清)
料理に入れると料理の色が真っ白になってしまうものの、かなりの高カロリーを摂取することができるため、利用価値が高いです。
これらの商品を組み合わせてエネルギーアップを図るのもよいでしょう。
実は、私の父親も歌丸さんと同じように下戸のヘビースモーカー。診断こそついていませんが、COPDに似た症状が出ており、診断がつくのも時間の問題だと思っています。もし私自身の父親に食べさせるとしたら、アップリードとMCTオイルパウダーを併用するつもりです。できれば発症前に自分で気がついて、今の段階で禁煙をしてくれることが一番なのですが……。
■参考
- 慢性呼吸器疾患について (ヘルシーネットワークナビ)
- COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2018[第5版] (日本呼吸器学会)