割戻金を有難く思う感覚は、一種の錯覚?
掛け金が安く割戻金もある点において、加入者の方が納得されているのも、もっともなことだろうと感じます。共済(都道府県民共済)の主力商品は2,000円や4,000円で、掛け金は人が死亡する確率や入院する確率を高めに見込んで設定されているため、発生する剰余金は「割戻金」として返還されています。掛け金に対する割戻金の割合は例年30%程度に達していますから、掛け金2,000円の場合、割戻金額は2,000円×12ヵ月×30%で7,000円超、掛け金4,000円では14,000円超となる計算です。喜ぶ人は多いでしょう。
何より、筆者が評価しているのは、お金の流れに関する高い透明性です。「毎年、余ったお金は返還する」という仕組みが、わかりやすいと思うのです。
臨時収入ではなく「割戻金」なのに喜んでしまうこと、ありますよね
これは筆者も実感しています。たとえば、確定申告の還付金です。払い過ぎた税金が返金されるだけなのに、なぜか「臨時収入」のように感じられ、浪費が許されるような気持ちになります。
厳密に言えば、納税時と還付時には時差がある分、損をしていることになるのです。手続きに要した時間と労力にしてもタダではないだろう、と考えたいところです。
ところが、まさに時差があるがゆえに、失くしたお金が手元に戻ってくるような感覚が生じ、有り難く感じられるのです。会社員の方の場合、年末調整の際などに似たような感覚を体験なさっているのではないでしょうか。
もとより、保険や共済の掛け金は、不測の事態に遭遇した人のために使われ、何事もなかった場合にはいわゆる「掛け捨て」になることも、割戻金にお得感を感じてしまう一因かもしれません。
「お金の流れがわかりやすい」と先述しましたが、割戻金の存在は顧客の納得感だけでなく、満足度も高め、契約の継続率の維持・向上、口コミによる宣伝効果などにつながっているように思うのです。
とはいえ、繰り返しになりますが、割戻金は加入者が得しているわけではありません。筆者は、そろそろ「割戻金がもらえるのが嬉しい」と直感的に反応する段階から、一歩進んだ理解がなされることが望ましいように思います。
たとえば、今後、割戻金が減少していく可能性を想像してみましょう。共済の主力商品は、18~65歳まで均一料金で保障が提供されています。掛け金を値上げしないまま、保障内容を充実させてきたことも、以前、本連載で触れたとおりです。それは事実上の値下げの歴史と言えるものです。
それでも、人口構成の変化から、加入者の年齢層が高めになることで各種給付金の支払いが増え、結果的に割戻金が減ることも考えられます。すると「実質的な値上がりが進みつつある」といった受けとめ方をする人が出てくるかもしれません。
気持ちはわかるのです。ただ、もう少し複眼的に見たいのです。剰余金を割戻金として加入者に返還することは継続してほしいものの、割戻金が高額であることが、共済の目的ではないだろうと考えるからです。
割戻金は「負担」と「受益」に関する理解を深めるきっかけになる
もっとも重要なのは、各種の給付金と割戻金の合計が掛け金に占める割合、つまり掛け金の「還元率」ではないでしょうか。保険や共済では、掛け金から運営側の経費を引いた残りのお金が各種給付金の原資になるので、加入者側から見た収支は原則的にマイナスになります。還元率は必ず100%未満。そうでなければ、経営破たんして加入者も迷惑を被ることになってしまいます。この原則があるからこそ、より高い還元率が実現できているケースを称賛したいのです。
筆者は(仮の数字ではありますが)「給付率50%+割戻率30%=還元率80%」より、「給付率60%+割戻率25%=還元率85%」の共済(都道府県民共済)を好ましく感じます。
掛け金2,000円コースの場合、前者の実質的な掛け金は1,400円で、後者は1,500円になる計算です。しかしこれは単なる「負担増」ではありません。加入者側の「受益」が増えているからです。運営側の経費の使い方が拙く、割戻金が減るような事態とは根本的に違うのです。掛け金が据え置きの場合、給付=受益が増えると剰余金は減り、その結果、割戻額も減るのは当然です。
中高年の加入者が増える流れをものともせず、高い割戻金額が維持されることにこだわる人は、保障内容の変更を容認すべきでしょう。たとえば、生活への影響が相対的に軽いと思われる「短期入院保障」を行わないような改訂を認めるのです。それも一つの見識に違いありません。
いずれにしても、割戻金は、助け合いに参加する人たちの「負担」と「受益」に関する理解を深めるきっかけになり得ると思います。読者の皆さまにも、機会あるごとに考えていただきたいテーマです。
※この記事は、掲載当初協賛を受けて制作したものです。