一人ひとりの心の中にある「月9」
「月9」と聞いて『東京ラブストーリー』『ロングバケーション』といったラブストーリーをイメージする人もいれば、『ガリレオ』『鍵のかかった部屋』といったミステリーをイメージする人、また『CHANGE』『コード・ブルー』といった誇り高き働くドラマをイメージする人もいるでしょう。正解はありませんが、一人ひとりが「わたしにとっての『月9』」を確立していることは特筆すべきことです。ドラマの魅力は、あの日あの時を思い出し、ドラマが放送されていた時期を誰かと語り合えること。その醍醐味が特別大きいのが「月9」です。22時スタートの大人ドラマに比べ、未完成で未熟な若い登場人物たちが伸び伸びと描かれる作品が多く、そこからこぼれ落ちるほろ苦さに月9らしさを感じます。
しかし、「月9」は若い世代だけのものではありません。振り返ると、シニア世代や男性からも支持された話題作&人気作が多いことに気づきます。では、どんな作品があったでしょう。90年代以降の作品の中からいくつか振り返ってみましょう。
いろいろあるけど、やっぱり愛しい 家族を想うドラマ
1.泣いても泣いても涙があふれる 『ひとつ屋根の下』(1993年)
脚本は1991年に『101回目のプロポーズ』を書いた野島伸司。両親亡きあと、バラバラだった兄弟がクリーニング店を営みながら、長男の柏木達也(江口洋介)を中心にひとつ屋根の下で暮らす物語です。そばにいると厄介なのに、いないと寂しく感じるのが家族。兄弟6人が痛ましい現実を乗り越え未来に向かう姿が力強く描かれます。パート1(1993年)の第11話で最高視聴率37.8%を記録した感涙必須の感動作です。
2.キラキラ輝く男たち 『人にやさしく』(2002年)
「ピースよりもっと幸せになれるから3ピース」の看板を掲げた一軒家で暮らす、やんちゃ×ワケありの大人3人(香取慎吾、松岡充、加藤浩次)と少年・明(須賀健太)をユーモラスに描いた『人にやさしく』。
不器用でガサツな大人たちと明の成長は清々しく、大人になっても学ぶことはたくさんあることとを教えてくれました。THE BLUE HEARTSの楽曲も印象的、いくつになっても『人にやさしく』のタイトルを聞くたびに「ちゃんとできているだろうか」と自問しては「がんばらなくちゃ」と背筋が伸びます。
もどかしさこそ恋心 「月9」の王道 恋愛ドラマ
3.ファッション、ライフスタイル、今なお全方位のかっこよさ
『ロングバケーション』(1996年)
婚約者に逃げられた葉山南(山口智子)とピアニストの瀬名秀俊(木村拓哉)のラブストーリー。人生に挫折しながらも、かけがえのない時間を共に過ごす二人の姿が生き生きと描かれました。
ナオミ・キャンベルとコラボレーションした久保田利伸の主題歌『LA・LA・LA LOVE SONG』、ファッション、インテリア、話し方や歩き方、飲み方に食べ方、すべてがお洒落だった『ロングバケーション』。今見ても色あせないカッコよさです。スーパーボールを窓から落とすドキドキ感あり、白無垢で街を滑走するトホホ感あり、何をやっても”さま”になる、視聴者を虜にした名作です。
4.幸せは探すものではなく気づくもの 『やまとなでしこ』(2000年)
お金持ちとの結婚を夢見る客室乗務員の神野桜子(松嶋菜々子)と彼女に一目惚れするお金持ちではない中原欧介(堤真一)とのラブストーリー『やまとなでしこ』。
今の若い世代にも熱く支持される大人のロマンチックにあふれています。お金に執着する桜子の姿はキュートでコミカル、振り回される欧介にも笑いがこぼれます。最終回のニューヨークの風景とMISIAが歌う『Everything』は夢ようなのハッピーエンド。「月9」マジックと言える胸の高鳴りを、ぜひ堪能してください。
5.大人になっても解けない恋の不思議
『デート~恋とはどんなものかしら~』(2014年)
素数にときめくマニュアル重視の国家公務員・薮下依子(杏)と「結婚=寄生」を企む自称”高等遊民”の谷口巧(長谷川博己)、恋したことがない2人の恋物語は、脚本家・古沢良太の巧さが光ります。
リケジョと文学文化を愛する青年のプライドに満ちた論戦は妙に説得力があるものの、時々屁理屈にも聞こえ大笑い。恋のゆくえを案じながら、気がつくとこちらの胸までキュンキュンしているから不思議です。2人を見守る人たちの温かさにも心が和みます。
胸を張って働く姿が心に響く 仕事ドラマも月9ならでは
6.全世代が夢中になった 『HERO』(2001年)
東京地検城西支部を舞台に検事・久利生公平(木村拓哉)が型破りな手法で事件の真相に迫る『HERO』は、スペシャルドラマや劇場版も制作された大人気シリーズ。男女を問わず幅広い世代に支持され第1期(2001年)の平均視聴率は34.2%を記録しました。
取調室の扉を開けて集まる城西支部メンバーの会話は舞台劇のようにコミカル。テンポのよさと自由な空気が魅力です。事件の扉を開け続け、映画版では大使館の大きな扉を開けてしまう鈴木雅之の演出と福田靖の脚本の奥深さに感動します。
7.命に向き合う若き魂
『コード・ブルー』(2010年)
2018年夏に映画化も決定している『コード・ブルー』(画像はAmazonより:http://amzn.asia/f4LjDqA)
ファッショナブルな雰囲気はなく、骨太に命を描いた「月9」にはめずらしい医療ドラマ『コード・ブルー』。
医療現場での苦渋の決断や人生の選択を経験しながらフライトドクター&フライト看護師たちが成長する姿を臨場感をもって描いています。山下智久、新垣結衣、戸田恵梨香、比嘉愛未、浅利陽介が未熟な医師や看護師を好演、甘くはない現実をありありと見せてくれます。葛藤しながら奮い立つ彼らを祈りながら見守ることになる生命力あふれる作品です。
夢に向かって奮起する姿を魅せる「月9」
8.いくつになっても、新しい自分になれる 『ビギナー』(2003年)
8人の司法修習生たちを描いた『ビギナー』(画像はAmazonより:http://amzn.asia/bCohigk)
年齢も経歴もさまざまな8人の司法修習生たちを描いた群像劇。課題に取り組む討論では、元OLの楓由子(美村里江)や元不良の羽佐間旬(オダギリジョー)たち8人の個性が炸裂、ビギナーたちの視点に笑ったり納得したりしながら、引き込まれていきます。一気に加速する法廷ドラマとは違う見せ方も「ビギナー」ならではの味わい。学び続ける彼らの一歩一歩が胸にしみます。
9.日本中が「ブラボー」と歓喜する『のだめカンタービレ』(2006年)
日本中にクラシック旋風を巻き起こした『のだめカンタービレ』(画像はAmazonより:http://amzn.asia/f6ofROm)
超個性的&超マイペースな主人公の野田恵(上野樹里)がピアニストとして羽ばたく物語。コンサートシーンやBGMでクラシックの名曲を存分に楽しめた『のだめカンタービレ』は、小さな子どもからシニア世代まで、日本中にクラッシック旋風を巻き起こし、みんなを明るく照らした愉快で素敵な作品です。桃ヶ丘音大生たちによるSオケの演奏会(Lesson4)は圧巻、クラシックがはじける演奏に「ブラボー」とテレビの前で立ち上がりました。
謎解きはクールに攻める 洗練されたミステリードラマ
10.好奇心こそ無限の可能性 『ガリレオ』(2007年)
福山雅治演じる湯川の決め台詞も話題になった『ガリレオ』(画像はAmazonより:http://amzn.asia/12fEo58)
東野圭吾原作の推理小説「ガリレオ」シリーズをドラマ化。准教授である湯川学(福山雅治)が「さっぱりわからない」「実におもしろい」と旺盛な好奇心と科学の視点から事件を解いていく物語は実にクール、そして、その背景にある奥深い人間ドラマこそガリレオの神髄、心が震えます。
唐沢寿明、久米宏など豪華な犯人役も見どころのひとつ、涙が止まらない映画『容疑者Xの献身』『真夏の方程式』の2作も絶品です。謎解きを壮大なエンターテインメントとして楽しませてくれる傑作です。
11.密室という魅惑の空間 『鍵のかかった部屋』(2010年)
原作は貴志祐介の『防犯探偵・榎本シリーズ』。鍵のスペシャリスト榎本怪(大野智)が密室トリックを解き明かします。
個性豊かな月9の主人公のなかで極めて無口な主人公の独特なリズムと時々こぼれる言葉に味わい深さがあります。弁護士の青砥純子(戸田恵梨香)と芹沢豪(佐藤浩市)との、かみ合わない雰囲気も作品の魅力。最終回の仕掛けも驚くほどクール、月9のセンスが光ります。
さらに広がる『月9』の世界
12.月9らしい時代劇の誕生 『信長協奏曲』(2014年)
ポップで新しい時代劇を創り上げた『信長協奏曲』(画像はAmazonより:http://amzn.asia/8zGgBXq)
タイムスリップした高校生のサブロー(小栗旬)が、織田信長として戦国時代を生きる物語。月9らしいエネルギーと躍動感、ポップな感覚が新しい時代劇をみごとに創りあげました。
時空を越えて戦国武将たちと心を通わせるサブローの柔軟な発想と武将たちの志にはグッときます。若い世代はもちろん、シニア世代や男性陣も楽しめる新鮮な魅力にあふれた作品です。
月9がドラマ枠として確立された当初の 『アナウンサーぷっつん物語』(1987年)や『ラジオびんびん物語』(1987年)に泣いて笑った時代から約30年、ドラマの視聴スタイルが多様化するなか、今も月9に泣いて笑って明るい気持ちになっているのも事実。これからも時代を照らす月9ドラマに注目です。