建築家・設計事務所

リゾート感覚で暮らす[鎮守の森に浮かぶ借景の家]

建築家・余田正徳さんとインテリアデザイナー・余田樹子さんが手掛けた建築実例をご紹介します。東京の下町の神社の緑を借景として、日常的にリゾート感覚を楽しむことのできる、木造3階建ての二世帯住宅です。   

執筆者:川畑 博哉

これまでも谷根千(やねせん)といわれる東京の下町で暮らしていたKさんご夫妻は、以前から住んでいた根津神社の隣の敷地でご自邸を建てる事を決めました。
設計は高校の同級生で永年の付き合いがあった、YODAアーキテクツの余田さんに依頼しました。傾斜地に面した約23坪の楔形の変形土地に、事務所を併設した二世帯住宅を建てるという難題に、余田さんは道路側に必要最小限の窓をつけた壁を立ち上げ、室内から隣地の神社の緑を満喫できるプランを発想し、Kさんご夫妻に提案しました。

つつじの庭の上の黒い家

外観
北側の外観と、毎年4月から5月にかけて満開となる根津神社のつつじ。写真:©twism_k
外観
親世帯と子世帯のバルコニーが張り出す南東側の外観。外壁は硬質木片セメント板にアスファルトシングル葺き仕上げ。
外観
南西側の外観。西側の奥行きは約5.5m。
玄関
隣地に面した南西の角を斜めに面取りするように玄関扉が設けられている。大きな庇の下の玄関扉は仕事場と住居で共有している。

最寄りの地下鉄の駅から賑やかな道に沿って歩き、根津神社に向かう路地を入ると、やがて鳥居が現れます。その先に続く坂道を上がりきったところに、小さな窓と特徴的な黒い外壁が印象的な3階建ての家が見えてきます。ここがKさん一家と奥様のご両親が暮らす2世帯住宅です。
1階は奥様とお父様の仕事場、2階が奥様のご両親の住まい、3階がKさん夫妻と3人のお子様の住まいになっています。
道路に面した間口は約12mもありますが、根津神社のつつじの庭の急斜面方向の奥行きは、東側が約2m、西側が約8mという楔形の変形の土地に建っています。

神社の緑の借景を楽しむLDK

玄関
玄関から子世帯のLDKを見る。
LDK
壁付けのテレビの背後はトイレ。座椅子代わりの厚めの座布団で寛ぐ。
LDK
キッチンの上にロフトが張り出す。南側の窓から入り込む外の光がキッチンを明るく照らす。
LDK
キッチンから玄関とリビングの西側を見る。
LDK
リビングの西側を見る。造り付けの本棚の右側は寝室の扉。

1階の玄関から階段で3階まであがるとKさん一家の住まいです。玄関は収納が造り付けになっていて、足元の磁器質タイルの床がLDKに伸びています。この床はそのままバスルームの手前の洗面室まで、廊下のように一直線に続いています。
リビングは北側の天井が急角度で傾いた吹抜け空間で、床は磁器質タイルと段差の無いオーク材のフローリングになっています。奥様が望まれた「アマンリゾート感覚」はマットを敷いて横になれる奥行きのある出窓によって叶えられました。ここから神社の豊かな緑を借景として眺めることが出来るのです。ダイニングテーブルもあえて低くして厚めの座布団に座って、日常的にこの眺めを楽しめるようにしています。
キッチンも「北欧風」のテイストをもった、ヨコ目のタモ材のツキ板で統一することで、明るくすっきりとした印象に仕上げられています。

家族が多目的に使うロフト空間

階段
LDKの西側に立ち上がる造り付けの本棚(箱階段)が、ロフトへの階段になっている。
ロフト
ロフトの天井高は1.4m。北側が傾斜している。床はオーク材のフローリング。
ロフト
造り付けの細長いカウンターはご主人のパソコンが置かれ、ワークスペースとして使われている。
ロフト
ロフトからLDKを見下ろす。床は床暖が設置できる太めのオーク材のフローリング。

LDKの西側に造り付けになった本棚(箱階段)は、ロフトへの階段を兼ねています。天井高1.4mの屋根裏のような空間は約12帖の広さがあり、キッチンの上に造り付けになった細長いカウンターテーブルには、ご主人のパソコンが置かれています。
ともするとロフト空間は収納としてのみ使われがちですが、ここは家族のための多目的スペースとして活用されています。

緑が入り込むバスルーム

浴室
ガラスで洗面室と仕切られた約2.5帖のバスルーム。
浴室
バスタブは置き型。東側のバルコニーは約1帖。
洗面所
キッチンから一体的に続く洗面所。洗面台の向かい側には洗濯機が置かれている。

リビングの東側は、洗面室とバスルームがキッチンから一体的に続いています。入浴するときは引戸を閉めて視線を遮ることが出来ますが、普段は引戸を開け放つことで、家の外まで見通しが効くのです。洗面室とガラスで仕切られた明るく清潔感のあるバスルームの先には、小さなバルコニーが神社の緑に向かって張り出しています。ここは普段は物干場として活用されています。また、雨天になっても洗濯物が干せるように、バスルームの天井にポールと浴室用乾燥機が設置されています。
様々な厳しい条件にも負けることなく、家族の決断と建築家の知恵で建ち上がったこの家は、神社の杜の借景を楽みながら日常を過す安らぎの場として、これからも家族の成長を見守り続けていくことでしょう。

[鎮守の森に浮かぶ借景の家]

余田正徳 余田樹子[YODAアーキテクツ]プロフィール

「クライアントとのコミュニケーションを密にとり、敷地の周辺環境を充分に読み取り、街並みの風景に溶け込み、建築の内外の多様な関係性を考慮し、竣工後に起こり得る変化に充分に対応出来る懐の深い設計」をポリシーに、これまでに数多くの住宅を設計してきました。
    
YODAアーキテクツ
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 余田正徳 [Yoda Masanori] 余田樹子[Yoda Motoko]


これまで登場したYODAアーキテクツの住宅

◆[4層の家]Top
所在地: 東京都文京区
構造・規模: 木造 地上3階
竣工年月: 2017年9月
敷地面積: 74.65m2
建築面積: 44.72m2
延床面積: 133.96m2
設計・監理: YODAアーキテクツ/余田正徳 余田樹子
構造設計: スタジオ創
Tel. 03-5941-8587
http://yoda-archi.com
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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