捨てられない制服、どうしてますか?
春は卒業の季節。卒業生の保護者の皆さま、おめでとうございます。子育てにはさまざまなものが必要ですが、卒業と同時に二度と使わなくなるものも多いですね。教科書、鍵盤ハーモニカ、そして制服。もう着ないことはわかっているけれど、思い出のつまった制服、捨てるのはしのびないですよね。まだまだきれいだし、とっておけば場所ふさぎ。誰かが着てくれればいいのに……。そんなふうに思った場合、誰に、どうやって譲ればいいのでしょうか。
今回は、千葉県船橋市で「ふなばし制服バンク」を運営している及川恵さんにお話を伺ってきました。
画期的!「制服バンク」
企業組合労協船橋事業団「ワーカーズコープちば」で働く職員である及川さんらが、「ふなばし制服バンク」を運営しています。船橋市内の中学校を卒業した生徒さんが着なくなった制服を募り、新入生に譲る仲立ちをしています。譲りたい人と求める人を、どのようにマッチングさせているのでしょうか。ガイド:着なくなった制服を譲りたい人は多いと思うのですが、必要な人を見つけることができず、ついつい押し入れに眠らせてしまいがちです。場所をとるし、でも捨てるのはもったいないし、どうすれば必要な人に届くんでしょう?
及川さん:そうですよね。制服って、ある所にはあるんですよ。
ガイド:ある所には……というのは?
及川さん:比較的在宅時間の長い専業ママや、地元出身で近所に友達の多いママには、強力なママ友ネットワークがあります。そういう人には、お下がり情報がすぐに入ってきますから、必要があれば譲り受けることは容易です。でも、生活のために忙しく働いているママや、他の地域から転入してきたばかりで知り合いがいないママには、そういう情報が入ってきません。情報格差ですね。
実は高価!「公立中高の制服」
東京都内の公立小学校が、ブランド制服を採用して話題になっていましたが、実は一般の公立中学・高校の制服は、夏服や体育着なども含めれば10万円前後と、非常に高額です。及川さんらの調査によれば、卒業式用の衣装や部活動用具なども含めれば、小学6年生から中学1年生の夏までに、生徒によっては20万円もの出費が見込まれるとのことでした。経済的支援が必要な生徒に対する市町村と国からの入学準備金の支給はあるものの、4万7400円(平成29年度)で、とても足りません。
「ふなばし制服バンク」の取り組み
ガイド:中学入学時期に、家庭が経済的に困窮していたら、たいへんな負担ですね。そんな時、最も高額な制服を卒業生から譲ってもらえれば、かなり助かるでしょうね。みんなの押し入れもスッキリするし。でも、着なくなった制服を譲ってくれる人は、どうやって見つけるんですか?及川さん:私たち「ワーカーズコープちば」は、地域に根差した仕事を請け負っております。仕事を通じて広がった地域のネットワークを活用して、口コミやチラシなどの広告活動を行い、制服を回収して、このオフィスの一角にプールしているんですよ。
ガイド:拠点となる場所があるのは便利ですね。では、この活動をどうやって周知しているんですか?
及川さん:私たちは、子ども食堂「おむすび食堂」も運営しているので、そこに集まる人たちの口コミも利用しています。ホームページで告知もしていますが、いちばん効果があるのはやはり、紙のチラシですね。学校でも撒いてもらいますし、地域のイベントでも手配りしています。制服がここにあることを知ってもらうことが大事です。
制服を譲ることの難しさ
不要品を必要な人に、というと、リサイクル業者やフリマサイトも頭に浮かびます。しかし、試しに検索してみたところ、女子生徒の制服だけを高額で買い取るなど、不審な業者も多くみられました。市町村が運営する掲示板であっても、個人間のやりとりにはどうしても危険が伴います。譲るにしても譲られるにしても、及川さんたちのような第三者の目のある場所でのやりとりが望ましいのは確かです。
制服を譲ろうと思ったら、まずはPTAに相談を
ガイド:うちの子の場合、制服やジャージをもらってくれる人がいたので良かったですが、地元に制服バンクがありません。個人レベルではできることに限界がありますね。着ない制服を誰かに着てもらいたい場合、どういう方法がありますか?及川さん:まず第一に、卒業する学校のPTAに、不要な制服を集めていないか問い合わせてみてください。中には、制服バンク的な活動をしている場合があります。ただ、PTAは基本的に在校生の親が会員なので、新入生の親には情報が届かないことも……。
「制服バンク」を立ち上げるなら、
注意点は"清潔・リセット&情報管理”
ガイド:自分や仲間で制服バンクを立ち上げることもできますか?及川さん:その時は、いくつか注意点があります。
ガイド:注意点とは。
及川さん:1つは「清潔」。洗濯、クリーニングを徹底することです。集めただけで制服を放置しておくと、一面にカビが生えて使い物にならなくなることもあるんです。もう1つは「リセット」。名前の刺繍をほどくなど、個人情報をできる限り消去します。
ガイド:なるほど。
及川:さらに、制服を求める人には、必ず新入生自身を連れてきてもらいます。1度、大人だけが「女子の制服を」と来ましたが、お子さんを連れてくるようにと帰ってもらったことがあります。
オフィスの隅の1畳程度のスペースに、学校別に分けられた制服がぎっしりかけられています。どれも新品のようにきれいに手入れされ、新入生を待っていました。新入生には、オフィスの隅の接客スペースで試着をしてもらい、サイズの合うものを、クリーニング代などの実費と引き換えに譲るそうです。
もったいない! 日本の学用品事情
及川:ドイツに友人がいるのですが、教科書は代々の上級生からのお下がりだそうです。だから、名前を書く欄が最初からたくさん設定されているんですって。ガイド:教科書は無償とはいえ、日本は一代限り。もったいないです。改定がなければ、使えるのに。
及川:制服には、良い点もあります。生徒間の格差が見えにくいこと。品質がよく丈夫なこと。問題は、取引のあり方です。保護者が制服の価格を知る時期が遅すぎること、高価であること、そして取引の方法が旧態依然(現金一括取引、扱い業者が限定されている)であることです。
いろいろな揃え方の1つとしての「制服バンク」
すべて新品で揃えたい人は自分で新規に購入すればいいですが、なるべく入学にかかるコストを抑えたい人のために、いろいろな選択肢があるのは良いことですね。制服以外にも、家庭に眠っている不要な学用品はありそうです。こういうものが収納を圧迫し、家を雑然とさせる要因の1つでもあります。まだ使えるものを安全に次の人に譲るシステムが、もっと充実していくといいな、そう思いました。
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